深淵にて蠢く
職人街の事件が集結し、璃空たちが玖遠玲那と出会ったころ。
主戦力の欠けたゾディアック本拠地で、一人の少女が暗躍していた。
「なっ!?」
「ちょ、ここは、あなたでも立ち入ることは──」
常に見張りが付いている部屋の前に辿り着いた少女は、驚く見張り二人を気絶させた。
「ふぅ……」
少女の名前は、霧生扇霞。
彼女は、息を整えると、扉を開けて中に入った。
部屋の中には、一つのベッドと、その上に一人の少女が横たえられているだけだった。
その少女に近づき、扇霞は懐にしまっていた写真を取り出して、少女と写真の人物を見比べた。
「……なるほどね」
扇霞は、写真を懐にしまい、唇を強く噛んだ。
「ようやく、しっぽを掴んだぞ。ゾディアック……!!」
いつの間にか、青く染まった髪を耳にかけ、彼女は地面を睨みつけた。
◇
ゾディアック本拠地。
その地下に続く階段を歩く足音が響く。
一人は、ゾディアック副リーダーである三崎空理。
もう一人は、職人街で保護した天霊、新藤古町だった。
果てしなく続く暗闇に不安を覚えた古町は、前を歩く三崎の服の裾をつかんだ。
「あ、あの……」
「どうした?」
「こんな地下で、何をするんですか……?」
三崎の後ろで、不安そうに呟く古町。
それもそのはずだ。
知らない場所で目を覚まし、辺りに知っている人間が誰もいない状況に不安を覚えない人間などいないだろう。
「行けば分かる。黙ってついてこい」
しかし、そんな彼女の不安を一蹴し、三崎はひたすらに闇の中を進んでいく。
今更引き返すことも出来ず、古町は黙って、三崎の後ろをついていった。
それから、どれだけ下に降りたのだろうか。
いつの間にか、階段を下り終え、大きな広間に出ていた。
柔らかな明かりに照らされた空間。
その中心には、一人の女性が佇んでいた。
「……っ!」
そして、古町は自分が、何か強大な存在の前に立っていることに気が付いた。
「七波。連れてきたよ」
「──うん。ありがとう、三崎」
ゾディアックのリーダー、七波彩乃は、恐怖に震える古町の元に近づいてくる。
「……やだ。やだやだやだ……!!」
「大丈夫。何も怖くないわ」
優しい微笑みを浮かべる七波から、少しずつ後ずさり、距離を取る。
必死に呼吸を整え、古町はどうにか能力を発動する。
新藤古町。
彼女の天霊としての能力は、『耐界天輪』。
ありとあらゆる事象、世界に対する耐性を獲得するというものだった。
それは、自身のうちから湧き上がる恐怖に対しても、耐性を得ることができた。
彼女の身体には、消えたはずの火傷の跡が浮かび上がり、それと同時に、乱れた呼吸が落ち着きを取り戻した。
「──怖い。怖いよ……!! あなたの後ろにあるそれは何……!?」
しかし、古町の中の恐怖を押し殺すことはできなかった。
それほどまでに、この空間に存在している何かは、非常に恐ろしい存在だった。
人間でも、異能者でも、天霊でもない。
同じ空間にいるだけで押しつぶされるような、強大な霊力に、古町の身体は震えが止まらなかった。
「──お前が知る必要のないことだ」
「うぐっ……!」
そんな古町を、三崎は無慈悲に押しつぶした。
身動きの取れない古町の元に、三崎はゆっくりと近づき、彼女の頭をつかみ持ち上げた。
「あっ……い、や……」
「心配するな。お前のその素晴らしい能力は、俺が有効活用してやる」
「た、助け──」
恐怖におびえる古町の言葉を遮るように、グシャリという音が響く。
痛みはなく、急速に身体の熱と共に、意識が消えていく。
最後の瞬間、古町の脳裏に浮かんだのは、雨の中で微笑む、璃空の姿だった。
◇
四肢を粉砕され、意識を失った古町の身体を、三崎は引きずって歩く。
その様子を、七波はただ微笑んで見守っていた。
「さあ、食事の時間だぞ」
三崎は、古町の身体を、暗闇の中に投げ捨てた。
そのまま、彼女の身体は、深い深い闇の中に呑まれ、消えていった。
「鳴神璃空……非常に気に食わない存在だが、新藤古町を保護したことだけは、評価しなければな」
ここにはいない璃空に対しての言葉を、忌々しげに吐き捨てて、三崎は空を仰いだ。
「──さて。次は、覗き見しているやつを処理しないとなあ」
三崎は不敵に笑い、目の前の闇に背を向けて歩き出す。
そして、その様子を、七波はただ黙って見守っているだけだった。
これにて、第二章完結です!投稿間隔が空くことが多くて、申し訳ありませんでした。次章も変わらずに楽しんでいただければと思います!




