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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第2章 鳥籠のコルリ
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凍りついた世界とひび割れた空

 「こ、こは……」


 璃空が目を覚ました場所は、いつか訪れた場所だった。

 そこには、前と同じように未空が立っていた。


 「姉、ちゃん……?」


 しかし、違うことがあるとすれば、未空は頭上を見上げたまま、動かないということである。

 一体どうしたのか。

 彼女は、自分のことを、璃空が創り出した防衛機構だと言っていたが、あの時とは何かがおかしい。

 璃空が氷を踏みしめ、ゆっくりと近づこうとすると、未空が指を鳴らした。


 「なっ……!?」


 その瞬間、璃空の行く手を阻むように、氷の壁が出現し、全身に氷の蔦が纏わりつく。

 同時に、空の背中からは氷の翼が出現した。


 「どうなってんだよ!!」


 明らかな異常事態に、璃空は必死に氷の蔦から抜け出そうとするが、身動き一つとれなかった。

 そんな璃空を、未空は、複雑な表情で見つめていた。


 「──ごめんね、璃空」


 そして、そんな一言を呟くと、未空の身体は凍りつき、粉々に崩れていく。


 「姉ちゃん……!? 姉ちゃん!!!」


 予期せぬ事態に、動揺し、叫び続ける璃空。

 だが、璃空の身体は一切動かず、それどころか、氷は徐々に璃空の全身を覆い始めた。

 体温は急速に低下していき、呼吸も出来ず、鼓動の音が薄れていく。

 何もかもが凍りつき、世界が暗い氷に閉ざされていく。

 そのまま、璃空の意識は凍りついていく。


 「──! ──!!」


 その間際、誰かの璃空を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 薄れかけた視界に、一筋の光が見えた。

 最後の力を振り絞り、璃空はその光に手を伸ばした。



 「──!! ──!! ──鳴神!!」


 「──っ!!」


 聞き覚えのある声に、璃空は目を覚ます。

 目に映るのは、地獄のようなひび割れた空と、心配そうに璃空の顔を覗き込む青髪の少女だった。


 「悠乃……」


 「……全然起きないから、死んだかと思った」


 「心配かけてごめんな……って、そうだ!! あの男は!?」


 悠乃に謝りながら、璃空は意識を失う前の出来事を思い出し、慌てて身体を起こす。

 そこで、ようやく、自分の身体に起きている異変に気が付いた。


 「な、何だよ、これ……」


 璃空の身体は、心臓を起点に、いたるところが凍り付いていた。

 まるで、夢の続きでも見ているかのような状況に、璃空の思考は停止した。


 「あいつは命に別状はないって言ってたけど、正直よく分からない……。あいつはヒントを与えたとか言ってたけど……」


 「ヒント……? 意味が分からねえ……」


 星導の残した言葉の意味は璃空にも悠乃にも分からなかった。

 それに、先ほどの深層心理の中の未空は何だったのだろうか。

 本当に彼女は、自分の心が生み出した防衛機構なのか……?


 「鳴神……大丈夫……?」


 「……ああ。とりあえず、命に係わるってわけじゃないなら、今は考えないでおくよ。それどころじゃなさそうだしな」


 星導の言葉と未空に関する思考を、全て頭の隅に置き、璃空は空を見上げる。

 空には、胎動する死の塊が、誕生の時を、今か今かと待ちわびていた。

 加えて、ずっと感じていたはずの鏡夜の霊力と気づかないふりをしていた奏城の霊力が、ほとんど消えかけていた。

 笹瀬兄弟との戦いで限界を迎え、軋み、凍りついた身体で、璃空はどうにか立ち上がった。


 「──よし。ちょっと行ってくる。悠乃はここで……」


 「そんなボロボロなのに、一人で行く気なの?」


 璃空は、決着をつけるために、悠乃を置いて、敵の元に向かおうとする。

 そんな璃空の背中を、悠乃は小突いて、隣に立った。


 「病み上がりとはいえ、無傷の白蓮が負けたんだよ? 今の鳴神が行ったら、瞬殺だよ」


 「ぐっ……そんなこと分かってるっての。でも、俺が行かなかったら、誰があれを止めるんだよ……!!」


 「──私たち二人で、だよ。ボロボロ一人より、二人の方が戦えるでしょ?」


 「悠乃……」


 璃空は、自分の隣に並び立つ少女の姿に違和感を覚えていた。

 意識を失う前に接していた悠乃は、どこか暗い表情をいつも浮かべており、心の奥底に、何かを抱え、隠しているような気がした。

 しかし、今、隣で微笑む悠乃は、何かを抱えているのは変わらないが、どこか吹っ切れたような雰囲気があった。

 自分が気を失っている間に、一体、何があったのか。


「それに……」


 悠乃の変化に戸惑う璃空の顔を見ながら、もう一つの理由を言おうとするが、その直前で、言いかけた言葉を引っ込めた。


 「それに……?」


 「ううん。何でもない」


 もう一つの理由は、璃空に教える必要はなかったから。

 自分を守るために、自分の前に立つ誰かの背中を見ているのは嫌だったから、と言われても、きっと彼は困るから。

 悠乃は、その言葉を心の中にしまった。


 「──行こ」


 その代わりに、悠乃は、璃空に向かって小さく拳を突き出した。

 悠乃の様子に、終始困惑していた璃空だったが、頬を叩いて気持ちを切り替える。

 そして、悠乃の拳に、自分の拳を合わせた。


 「……分かった。一緒に行こう、悠乃」


 「うん」


 璃空と悠乃は、即座に作戦会議を始め、それからすぐに、二人は行動を開始した。

 職人街を巡る事件に、決着をつけるために。


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