籠の中の小鳥は──
長い間、暗闇を漂っていた悠乃の意識は、暖かい光に包まれて、目を覚ます。
悠乃がたどり着いたそこは、懐かしい場所だった。
陽の光が当たるリビングで、幼き日の悠乃が、小さな異形の生物と遊んでいた。
その様子を、優しく見守る二人の大人の姿に、悠乃はかすれた声でつぶやいた。
「お父さん……お母さん……」
幼い悠乃は、不出来な魔獣を指でつついて、笑顔を浮かべていた。
この頃の自分が何を考えていたのか、何となく覚えていた。
不格好で、へんてこな生き物だけど、自分が創り出し、命を与えたものが懸命に生きていることが嬉しかったのだ。
『悠乃は、その子が好きなんだな』
『うん、だいすき……!』
『そっか。私も、悠乃の創る子たち好きだなぁ~』
両親は、悠乃の楽しそうな顔を見て、幸せそうな笑みを浮かべていた。
悠乃の家は、お世辞にも裕福な家庭ではなかった。
それでも、当たり前の幸せがすぐそばにある、こんな毎日が好きだった。
「……でも、それもすぐに終わった」
悠乃が瞬きをすると、景色が変わる。
先ほどと同じ場所であるはずなのに、部屋は色を失い、冷たさだけがそこにあった。
そして、悠乃の視線の先には、受話器を地面に落とし、その場に立ち尽くす自分の姿があった。
「ある日──お父さんとお母さんは、事故で死んだ」
何かの事件に巻き込まれたとか、そんな話ではなく、ただただ不幸な事故だったらしい。
それしか、あの日の悠乃は理解できなかった。
両親が死んだ。もう二度と、両親に会うことも、話すことも出来ない。
悠乃にとっての幸せな日々は簡単に崩れ去ったのだった。
「それから、私の世界は色を失った」
悠乃は、親戚の家に引き取られた。
しかし、彼らが悠乃に接する態度は、まるで腫れ物に触るような扱いだった。
元々、引っ込み思案だった悠乃は、家の中で誰かと話すことはなかった。
誰とも会話をせず、一人だけの部屋で、自分が生み出した魔獣とだけ会話する少女。
そんな女の子と、どうやって接すればいいというのか。
自分から歩み寄ろうとしない悠乃、悠乃の心に踏み込んでこない親戚。
結局、その家の中で、悠乃は一人きりになった。
それは、学校に行っても同じだった。
悠乃の魔獣を生み出すという能力は、非常に珍しい能力だった。
周りの誰とも違い、なおかつ誰とも会話しない少女。
子供というのは、どうしても大多数の人間と違う人間を恐れ、排斥しようとしてしまうのだ。
『お前、きもいんだよ! 話しかけても、何もしゃべんねえしさあ』
『あんな化け物を生み出せるってことは、お前も化け物なんじゃねえの?』
『やーい!! 化け物―!!』
そして、子供たちは輪から外れることを恐れて、たとえ酷いことをしている自覚があったとしても、同じことをしてしまう。
『ってことはさ、こいつを生んだ両親も、化け物なんじゃね!?』
『あははは!! 化け物一家じゃん!!』
『っ!!』
最愛の両親のことを侮辱された悠乃は、拳を握りしめて、立ち上がろうとした。
どうせ化け物なのだから、ここで彼らを害したところで失うものなど何もないと思っていた。
『ちょっと! いい加減にしなよ!!』
しかし、そんな子供たちの中でも、少数派になってでも、誰かを守ろうとする人はいる。
『水宮さん、大丈夫? 私は、水宮さんの味方だからね!』
『……うん』
優しかった少女は、悠乃を守ろうとしてくれた。
その優しさは、白黒になった悠乃の心に少しだけ暖かな色を付けてくれた。
しかし、悠乃は、分かっていた。
このままでは、彼女も自分と同じ目に遭ってしまうと。
「だから、私はその優しさを遠ざけることにした。あんなに優しいあの子が、私のために傷つく必要なんてないんだから」
翌日。悠乃は、魔獣を生み出して、少女を傷つけた。
どうせこれ以上下がる印象も評判もないのだから、悠乃は大して気にしていなかった。
しいて言うなら、その時の自分の顔はどんな表情だったのか。
気になることといえば、それぐらいだった。
だが、どうしてか、過去の悠乃の顔は、黒く塗りつぶされていて見えなかった。
悠乃が首を傾げている間に、記憶は再び進んでいく。
優しかった少女を傷つけたことがきっかけとなり、悠乃に対する仕打ちは、加速していく。
机やいすはボロボロにされたり、靴がなくなるといったことは日常茶飯事だった。
それだけならまだしも、命に関わるようなことも起きていた。
日に日に、身体に刻まれた傷は増えていき、クラスメイトの仕打ちも、歯止めが効かなくなってきているように思えた。
彼らは、平然と能力を使って、悠乃を追い詰めていった。
そして、これは悠乃の心に最も傷をつけた記憶だ。
ある日の朝。教室のドアを開けた悠乃に降りかかったのは、大量の青いペンキだった。
当然、避けられるわけもなく、悠乃の全身は青く塗りつぶされた。
『あははははは!! 似合ってんじゃん!! やっぱり化け物は化け物らしくしてないとな』
『化け物が人間面してんじゃねえよ』
青い視界の向こうで、化け物よりも醜い、おぞましい何かの笑い声が響いていた。
自分が人間ではなく化け物だとしたら、今目の前で嗤っている彼らは、一体何なのか。
「この時の私には、それが分からなかった。──でも、私には彼らが人間だとも、化け物だとも思えなかった。答えを見つけたのは、それからしばらく経ってからだった」
その日、悠乃は、誰もいない屋上で、魔獣と戯れていた。
いじめにどれだけ必死に耐えようとも、人間である以上、心には限界の容量というものがある。
それを超えないように、人は、何かしらの発散行為を行う。
悠乃の場合は、魔獣と遊ぶことだった。
そんなことをしていると、屋上のドアがゆっくりと開く。
悠乃が振り返ると、そこには、悠乃を守ってくれた少女が顔を覗かせていた。
『……何、やってるの?』
『……遊んでるの』
何故、彼女がここにいるのか困惑しながら、ぶっきら棒に返答した。
少女は、悠乃が反応してくれたことに、安堵の表情を浮かべながら、悠乃の元へと歩み寄ってきた。
『何で……?』
『んー? 何が?』
『だって……私、あなたを傷つけた……』
恐る恐る魔獣に手を伸ばし、頭を撫でている少女の顔を見ずに、悠乃は聞いた。
少女は、悠乃の問いかけに、少しだけ悩む仕草を見せた。
『まあ、確かに痛かったよ? でもさ、あんな辛そうな顔されたら、何も言えないじゃん』
少女は、魔獣を抱きかかえて、優しく微笑んだ。
あの時の自分は、そんな顔をしていたのか。
何となく気恥ずかしい想いを覚えながら、口を開く。
『わ、私は……あなたが、邪魔だっただけ。私なんかに、優しくしないで』
『それが、水宮さんの意志なんだね? うん。それは分かった』
少女は、悠乃に近づき、ゆっくりその手を握った。
『でもね、やっぱり私は水宮さんを助けたいの』
強い意志を秘めた少女の眼差しを、悠乃は直視することが出来なかった。
悠乃は、両親の死と親戚からの冷遇を経て、人と接することを避けていた。
だから、クラスの大多数の名前も、目の前の少女の名前も知ろうとしなかった。
しかし、目の前のこの少女は、人ではない何かの中で、唯一、自分というものを見失わずに真っすぐ生きている人間なのだと感じた。
『──あ、あの……』
『ん?』
悠乃は、そんな少女の名前を知りたいと思った。
彼女となら、友達になれると思ったのだ。
「……そう、思ったんだ。心の底から、彼女と友達になりたかった」
少女の名前を聞こうと、悠乃が口を開くと同時に、屋上のドアが再び開かれる。
そこに立っていたのは、いじめの主犯たち3人だった。
『おっ!! やっぱりここにいた!! さすがだな!!』
『ぼっちのいる場所は、分かりやすいからな』
『ってか、何で榎園がここにいんの??』
彼らは、三者三様の反応を示しながらも、悠乃と榎園に明確な敵意を向けていた。
そんな三人から、悠乃を守るように、榎園は前に立った。
『私が、どうしようと関係ないでしょ?』
『ふーん……まあいいや。そこの化け物もろとも、駆除してやるよ!!』
榎園の態度が気に入らなかったのか、三人は、同時に襲い掛かってくる。
悠乃は、自分を守ろうとする榎園の背中に、ゆっくりと手を伸ばした。
自分なんかを守るために、彼女が傷つく必要なんてない。
そう思いながら伸ばした手が、榎園の背中に届きそうになった瞬間、彼女は悠乃の方に振り返った。
そして、伸ばした手の上に、榎園が抱きしめていた魔獣を優しく乗せた。
『大丈夫だよ。絶対に助けるから』
悠乃の手は、榎園の背中には届かず、彼女は悠乃を置き去りにして走り去っていった。
「私の目に映る彼女は、本当にかっこよかった」
だが、どれだけ守りたいという思いがあったとしても、そこに実力が伴うとは限らない。
ましてや、三対一ともなれば、隙が生まれてしまうのは必然だろう。
榎園の戦いに気を取られていた悠乃の身体が、誰かに蹴り飛ばされるような衝撃に襲われ、地面を転がる。
『水宮さん!? っ!!』
『おいおい。よそ見してていいのかよ!!』
『状況は変わってないぞ』
榎園は、悠乃の状況を横目に見ながら、必死に、二人の相手をしていた。
苦しそうに呼吸をしながら、周囲を見渡す悠乃の視界に、誰かの足がゆらりと姿を現した。
見上げると、そこには三人のうちの一人が立っていた。
能力で姿を隠していたのか、いつの間にか、悠乃の近くにまで迫っていたのだ。
少年は、立ち上がれない悠乃の身体を、何度も何度も蹴り続けていた。
苦しそうに息を漏らし、血を吐きながら、激痛に身を包まれる。
掠れた視界に映る少年の顔は、何かに憑りつかれているようだった。
自分たちの日常に存在する、異物を排除することに憑りつかれてしまった哀れな存在。
そこで、悠乃はようやく理解した。
自分の前にいた、人でも化け物でもない彼らは、クラスメイトの集団心理だったのだろう。
『死ね。死ね』
それに気が付いたところで、この状況をどうにか出来るわけでもなく、再び、悠乃の腹部に蹴りが襲い掛かる──はずだった。
悠乃の身体に直撃する前に、鈍い音が響いた。
そして、何かが壁に叩きつけられ、悲鳴とぐしゃりという音が聞こえた。
『──あ』
ゆっくりと、悠乃が視線を動かすと、そこには肉片に変わった、自分の魔獣がいた。
両親亡き今、自分を支えてくれる唯一の存在である魔獣。
それを、目の前の少年は何の容赦もなく蹴り飛ばし、殺した。
『──ああ』
そして、たった一人、自分の味方をしてくれた榎園
それを、二人がかりで傷つけ、殺そうとする彼ら。
『害獣が邪魔しやがって。これで終わりだ』
声にならない声を発する悠乃を気にも留めず、少年はとどめを刺そうと、全力で悠乃の腹部を蹴り上げた。
しかし、その一撃が、悠乃に命中することはなかった。
『な……』
悠乃は、少年の足を片手で受け止めていた。
そして、あろうことか、そのまま少年の足を握りつぶした。
『がぁぁぁぁぁっ!! あ、足……!! 俺の、足が!!』
悲鳴を上げ、その場に転がる少年の声を聞きながら、悠乃はゆっくりと立ち上がった。
『み、水宮、さん……?』
地面に転がっていた榎園は、その光景に息を飲んだ。
立ち上がった悠乃の雰囲気は、明らかに違っていた。
「この頃の私の能力は、ただ魔獣を生み出すだけ能力だった。今とは違って、魔獣には何の力もなく、特別なのは私だった」
魔獣を生み出す存在である悠乃は、生み出した魔獣の力を取り込み、自身の身体で振るうことも出来た。
悠乃は、亡骸になって消えかけていた魔獣を、自身の身体に取り込むことで、並外れた力を発揮していた。
足を押さえてのたうち回る少年の元にゆらりと近づいた悠乃は、先ほどまでの仕返しと言わんばかりに、少年の腹部を蹴り上げた。
それは、先ほどまでの少年の一撃とは、比べ物にならないものだった。
何本もの骨が折れ、内臓を損傷したのか、少年はあり得ないほどの血反吐を吐き散らした。
その血を浴びながら、悠乃は、苦しむ少年の身体を何度も何度も蹴り飛ばした。
やめて。許して。
そんなような言葉が聞こえた気がしたが、悠乃の脚は止まらなかった。
執拗に、徹底的に、少年の全身を蹴り続けた。
『ぁ……だ……ず、ぇ……で……』
もはや吐息に近いような声で、助けを求める少年の頭部を、悠乃は無慈悲に踏み砕いた。
真っ赤な血だまりの中に立ち尽くす悠乃の視界は、何故か不思議なほどに青かった。
悠乃は、ピクリとも動かなくなった少年の死体を持ち上げて、ゆっくりと、残りの二人の方を見る。
榎園がまだ無事なことに安堵しながらも、悠乃の意識が向いているのは二人の方だった。
友人が無残に殺される姿を見た少年たちの内の一人は恐怖に怯え、へたり込んでいた。
そして、もう一人は、事態が呑み込めず、呆然と立ち尽くしていた。
ふざけるな。
そんな二人を見て、悠乃は、そう思った。
お前たちがやろうとしていたのは、こういうことなのだと、分かっていなかったのだろうか。
だとしたら。いや、どうであれ、愚かなことに変わりはない。
悠乃は、立ち尽くしている少年に向かって、手に持った死体を、全速力で投げつけた。
『え……あ、ああ……ああああああああああああ!!』
眼前に迫りくる死に、ようやく全ての事態を飲み込んだ少年は、その場から逃げようとする。
しかし、時すでに遅し。
向かってきた死体が直撃し、少年はぐちゃりという音と共に、壁に叩きつけられ、絶命した。
『……い、いや……いや、だ……いやだ、いやだいやだいやだ!!』
その様子を見ていた少年は、次が自分の番だと悟ると、醜く地面を這って逃げようとする。
悠乃は、ゆっくりと少年に近づいていく。
『来る、な…‥来るな……来るなあ!!』
泣きわめき、情けなく叫ぶ少年の姿を、悠乃は冷たい目で見下ろした。
異物を排除したいという気持ちは何となく分かる。
だが、彼らはやりすぎた。
自分は何もしなさ過ぎた。
悠乃は、逃げる少年の身体を踏みつけて、動きを封じる。
『た、たすけ──』
そして、少年の言葉が続けられる前に、悠乃は少年の頭部を拳で破壊した。
肉片が飛び散り、血飛沫が悠乃の身体にこびりつく。
悠乃は、ゆっくりと顔を上げ、空を見上げる。
目に映るのは、雲一つない青すぎる空だった。
『み、水宮、さん……』
空を見上げる悠乃の耳に、自分を呼ぶ、かすれた声が聞こえた。
声が聞こえた方向に、視線を動かすと、そこには怯えた表情で自分を見る榎園がいた。
それが、悠乃の心を、決定的に壊した。
自分は正真正銘の化け物になってしまったのだと、榎園の表情で気が付いてしまったから。
『──やっぱり、私は、化け物だったんだ』
『ち、ちが……』
力なくつぶやく悠乃に、榎園はどうにか言葉を絞り出して、声をかけようとする。
しかし、その声は、階段を駆け上がる誰かの足音にかき消された。
『お前たち!! ここで何をして、い、る……!?』
騒ぎに気が付いた教師たちが屋上にやって来たのだ。
彼らは、屋上の惨状に、目を見開き、言葉を失っていた。
『──やれ』
そんな教師たちに、悠乃は、魔獣の大群を出現させて、襲い掛からせる。
現実に引き戻された教師たちは、悲鳴を上げながら、魔獣たちに対処する。
その様子を見ながら、悠乃は、榎園に背を向けて、歩き出した。
『ま、待って……! 水宮さん……!! ……悠乃ちゃん!!』
必死に手を伸ばし、叫び続ける榎園を無視し、悠乃は校舎内に入っていった。
赤く染まった悠乃の姿を見た生徒たちは、恐怖に顔を歪めていた。
血で廊下を汚しながら、悠乃は目的の場所にたどり着いた。
そこは、異物を排さなければいけないという、集団心理に狂わされた自分のクラスだった。
悠乃は、ドアを開け、教室の中に入っていく。
当然、彼女のその姿に、彼らはどよめいた。
そのうちの何人かは、恐らく、先ほどまで悠乃がどんな目に遭っていたのか、知っていたのだろう。
『……消えろ』
もはや、悠乃は彼らに何かを言う気はなかった。
化け物と化した少女は、魔獣を生み出し、無慈悲に、教室に巣くう集団心理ごと、全員を食い殺した。
辺り一面には血の海が広がり、壁にも窓にも、血が飛び散っていた。
悠乃は、窓ガラスに映った自分の姿に失笑し、教室からも、この学校からも姿を消した。
「そこから先のことは、あんまり覚えてない。フラフラ彷徨ってたところを、フェリルに保護された。この時点で、私は天霊化してたみたい」
ゾディアックに保護された悠乃は、それから、部屋の中でふさぎ込む毎日を過ごしていた。
天霊を救うという彼らの目的なんて、心の底からどうでもよかった。
ただ、自分のいる場所があればよかった。
こうして、悠乃は、正式にゾディアックに加入した。
だが、ゾディアックは、悠乃の生み出す魔獣だけを必要としていた。
家族でもあり、友でもある魔獣を、道具のように扱う彼らには、怒りしかなかった。
魔獣は、そんな悠乃の心を反映したのか、彼女以外の指示には素直に従わなかった。
「でも、私は何も言えなかった。だって、ここから追い出されてしまったら、どこにも居場所がなかったから」
結局、悠乃は、指示されるがままに、魔獣を作り、貸し与えていた。
そんな彼女のことを、メンバーのほとんどは、やはり道具としてしか見ていなかった。
しかし、そんなメンバーの中でも、悠乃に全く違った態度を取ってくる人たちもいた。
魔獣を道具として見ているが、悠乃のことをしっかりと見て、接してくれる灯里。
悠乃のことも、魔獣のことも気遣ってくれる鏡夜や和希。
それ以外にも、水宮悠乃という人間をしっかりと見てくれる人がいた。
「──そして、私の生み出した魔獣が懐いた鳴神」
自分が人間でいることを諦め、化け物になった悠乃と、少女の心から生み出された魔獣。
それが璃空に懐いているということは、彼女の心は、璃空に惹かれるものがあるということだった。
初対面の相手に、魔獣がすぐに懐いたことなど一回もなかった。
だから、悠乃は、璃空のことを知りたいと思った。
檻の中で話を聞いた時は、漠然とした感覚でしかなかった。
それが、自分の記憶をしっかりと振り返ったことで、確信へと変わった。
「鳴神は……あの子に似てるんだ。私を助けてくれた。私を守るために戦ってくれた、榎園に……だから、私は──私たちは、鳴神に惹かれたんだ」
やっと納得のいく答えを得られた悠乃は、いくつもの記憶の窓を通り抜けて、一際眩しい方向に向かって歩き出した。
鳥籠の中に閉じこもっていた青い小鳥は、今、ようやく、外の世界に踏み出した。
大変でした……




