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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第2章 鳥籠のコルリ
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停滞した盤上は動き出す

 「さあ、精々楽しませてくれよ? 新入り」


 好戦的な笑みと言葉を浮かべた笹瀬鴻は、璃空の視界から一瞬で消え去る。


 「消えっ!?」


 璃空が驚き、視線を逸らした瞬間、呆れた表情を浮かべていた笹瀬耀も姿を消した。


 「なっ……!?」


 一体どこに消えたのか。

 璃空は、全神経を集中させて、周囲を見渡した。

 その瞬間、璃空の身体を挟むように衝撃が襲い掛かる。


 「がはっ!!」


 肺から苦しそうに息を漏らしながら、攻撃が加えられた場所に最速で雷撃を撃ち込む。

 しかし、床が焦げただけで、再び違う方向からの攻撃に激痛が走る。

 必死に笹瀬兄弟の攻撃を防ごうとするが、一瞬、影が見えるだけで、反応が追い付かず、一方的に殴られ続ける。

 璃空が能力を使用した際の移動速度は、雷光と同等か、場合によってはそれ以上の速度を出せる。

 そして、その速度で戦闘を行えるということは、雷光程度の速度なら、璃空には見えるのだ。

 そんな璃空が、一瞬影しか見えないほどの速度ということは、神域の速度か、あるいは何かしらのトリックがあると言うことだ。


 「おいおい、この程度か? がっかりさせないでくれよ、新入り」


 「いい加減に……しろっ!!」


 あまりに一方的な展開に、鴻のつまらなそうな声が聞こえてくる。

 その声に怒りを覚えた璃空は、反撃に出るため、ドーム状に雷撃を放つ。


 「おっと」


 「む。さすがにワンサイドゲームにはならないか」


 これにより、強制的に、笹瀬兄弟を射程内から退かせる。

 その隙に、璃空は、地面に雷撃を蜘蛛の巣のように張り巡らせていく。

 加えて、璃空の周囲に、いくつもの雷の球体を創り出し、配置する。

 全神経を集中させても、笹瀬兄弟を捉えることは出来なかった。

 ならば、能力を最大限に利用して、二人の動きを捉えようと考えた。


 「さあ、どんな奇策を用意してくれてるのか楽しみだ!!」


 「はあ……少しは警戒するとかしなよ」


 攻撃が止んだことを確認した鴻は、狂気的な笑みを浮かべて、姿を消した。

 そんな兄の姿に深いため息をつきながら、耀も姿を消した。

 対する璃空は、目を閉じ、ただ雷撃の中に自分の全てを同化させた。

 真っ暗な世界に浮かび上がる雷の線。

 それがほんの少し、揺れた瞬間、璃空は、そこから考えられる全進行方向に雷の球を飛ばす。

 どれだけ異常な速度で動こうと、行動範囲を狭めていけば、必ず捕えらえる。

 そう考えて、璃空はひたすらに、雷の球を放ち続ける。

 光速で動ける璃空だからこそ出来る戦法。

 それは、璃空に激しい消耗を強いる代わりに、確実に笹瀬兄弟を追い詰めていた。

 

 少しも気が抜けない璃空と攻めあぐねる笹瀬兄弟、という停滞した状況が数分間続く。

 そんな中、璃空は、見え透いた誘いではあるが、あえて自身の正面だけ攻撃を甘くする。

 停滞した極限状態の中で見えた隙は、罠だと分かっていても、身体が勝手に動いてしまうことがある。

 当然、笹瀬兄弟は、璃空が自分たちを誘っていることを分かっていた。


 「ハァハハッ!! 分かりやすい誘導だが、気に入った!! 乗ってやるよ!!」


 「バカすぎる……」


 そんな誘いに嬉々として乗ってくる鴻。

 一方で、耀はわざわざ無駄な体力を使うのがバカらしいとでも言わんばかりに、後ろに下がった。

 そして、罠を仕掛けた璃空に二人の様子を確認する余裕はなかった。

 だが、この罠に引っかかるなら、鴻の方だと直感していた。


 限界まで肉体を強化し、雷光が揺らぐ前に、鴻が向かってくるであろう方向に、最速で拳を撃ち出した。

 たった数分間の攻防の中で、何度も何度も、鴻の速度を全神経で感じ取っていた璃空は、雷光の揺らぎから攻撃までの秒数を学習していた。

 今までの彼の速度を、璃空は直感的に、獲物をいたぶって遊ぶような、生ぬるい速度だと感じていた。

 

 そんな鴻が、本気を出せばどうなるのか。

 もはや、璃空の感覚では捉えられないだろう。

 だからこそ、一か八か、璃空は正面から向かってくるように誘い込んだ。


 「ぐがっ!!」


 「ごふっ……!!」


 鋭く重たい一撃が、璃空の胸部に直撃するのと同時に、鴻の顔面に、璃空の拳が直撃する。

 璃空は血を吐きながら壁に叩きつけられ、鴻は血を流しながら地面を転がった。


 「……はっ。ははっ。ハハハハハハハハハハハハ!!!!! やるじゃねえかぁ、鳴神璃空!!!」


 「満足した?」


 地面に転がる鴻を、耀は呆れたように見つめる。


 「まだ足りねえが、十分だ。それに、あいつももう立ち上がれねえだろ」


 差し伸べられた耀の手を掴みながら、鴻は立ち上がり、璃空の方を見る。

 鴻に一撃を加えることだけに全力を注いだ璃空は、何の防御も出来ずに鴻の一撃を喰らった。

 霞む視界で、二人を睨む璃空は、力ない手で立ち上がろうとする。

 しかし、全身を駆け巡る激痛と口から溢れ出る血が、これ以上の戦闘続行を不可能だと突きつけていた。


 「これで、三崎からの頼みはクリアしたってことでいいのか?」


 「……どうやら、まだ終わりじゃないみたいだ」


 耀は璃空の倒れているところとは違う方向を見ていた。

 その直後、強烈な風が、二人の視界を奪い去る。


 「……あ」


 ボロボロになった璃空の頬を、懐かしい風が撫でていく。

 その感覚に、璃空は顔を上げ、涙を浮かべた。


 「──全く。何でお前はいつもボロボロなんだ?」


 「鏡夜……!!」


 そこにいたのは、一か月半前、璃空や花梨、灯里を守るために、重傷を負った白蓮鏡夜(はくれんきょうや)だった。


 「……鳴神、無様」


 「悠乃か!?」


 そんな鏡夜の影から現れ、璃空を罵った少女は食傷兎を抱えた水宮悠乃だった。

 悠乃は璃空のそばにしゃがみ、食傷兎を璃空の上に乗せた。


 「久しぶりじゃねえか、鏡夜。傷はもういいのか?」


 「ああ。おかげさまで全快だ」


 「それで? もしかして、鳴神璃空をかばうの?」


 「……事情は、ここに来るまでの間に、悠乃から全部聞いた。」


 璃空と悠乃の前に立つ鏡夜の顔には、怒りが滲んでいた。


 「ふざけやがって……!! 悪いが、今回は全面的に璃空に賛成だ」


 「ハハッ!! お前と全力でやり合ったことはなかったっけな!!」


 鏡夜の宣言に、鴻は狂気的な笑みを浮かべ、耀は面倒そうな表情を浮かべながらも戦闘態勢に入る。

 その様子を黙って見ていた璃空は焦っていた。

 短いやり取りの中で、鴻よりも耀の方が厄介なことは分かっていた。

 加えて、二人が本気で襲い掛かって来れば、ひとたまりもないだろう。


 「ばーか。お前らとやり合ってる場合じゃないんだ」


 こちらに向かって来ようとする二人を嘲笑い、鏡夜は手にいくつもの風の刃を生み出す。

 それを回転しながら、周囲に展開していく。

 風の刃は幾重にも重なり合い、渦を巻き、全てを切り裂く巨大な嵐を生み出していく。


 「嵐斬壊壊(らんざんかいかい)


 「ちっ……」

 「こいつは流石に近づけねえな……」


 「よし。今だ、悠乃!!」


 何もかもを切り裂く不可視の嵐に、笹瀬兄弟は動こうとした足を静止させる。

 その隙に、鏡夜は悠乃に合図をする。


 「すぅ……はぁ……。次元鯨(じげんくじら)!!」


 悠乃は立ち上がり、深呼吸をして、声を荒げて叫んだ。

 すると、彼女の背後に、巨大な鯨が出現する。


 「おねがい、ホーエルン!」


 彼女の声に答えて、次元鯨は大きな口を開けた。

 そこに広がっているのは、鮮やかな虹色の穴だった。


 「よし、行くぞ!」


 悠乃の準備が整ったのを確認した鏡夜は、璃空と悠乃を抱きかかえて、次元鯨の口の中に飛び込んだ。

 その瞬間、嵐は収まり、巨大な鯨は姿を消した。

 残された笹瀬兄弟は凄絶な破壊痕を見つめていた。


 「……遊びすぎだよ、兄さん」


 「悪かったって。でも、何だかんだお前も楽しかっただろ?」


 「……まあね?」


 天才的な戦闘狂の兄と類稀なる才能を持って生まれた弟は、久しぶりの心躍る戦いを終えて、満足そうな笑みを浮かべるのだった。


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