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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第2章 鳥籠のコルリ
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涙が零れ、日は登る

 雨が降る街を、璃空は一人で歩いていた。

 街を燃やしていた炎のほとんどは、璃空が利用したおかげで消えていた。

 残っていた炎も、雨のおかげで、完全に消火されていた。

 しかし、職人街の建物の多くは黒く焦げており、復興には多少なりとも時間がかかるだろう。

 そんなことを考えながら、街を歩いていると、璃空の目の前に、探していた人物が姿を現す。


 「玖遠さん……!」


 「お疲れ様、鳴神くん」


 急いで灯里の元に駆け寄る璃空。

 彼女の微笑みに、璃空は、本当に戦いが終わったのだと認識する。

 しかし、璃空の表情は硬いままだった。


 「……職人街のみんなは?」


 「……」


 街の人々の安否。

 それが璃空の表情を歪ませている原因だった。

 別に、街の人を助けるために戦ったというわけではなかったし、そもそも来るのが遅すぎた。

 だから、きっと救えなかった命もあるだろうが、自分がグリフォンを倒したことで救えた命もあると思いたかった。

 自分にも誰かが救えるのだと証明したかった。


 「──大丈夫。私たちが来た時点で生きていた人たちは、みんな助けられたよ。鳴神くんが、一目散に敵のところに駆け出してくれたおかげでね」


 不安そうな表情を浮かべる璃空に、灯里はいつも通りに語り掛ける。

 すべて見透かしているように、そのままの君でいいのだと語り掛けてくれているように思える笑顔を、璃空に向けていた。


 「おいおい! うちが黒焦げじゃねえか!!」


 「これ、火災保険降りるのかしら……」


 「まあ、あの家もボロかったしな。新築にするいい機会だ」


 灯里の言葉を裏付けるように、無事だった住民たちがぞろぞろと雨の中を歩いてやって来た。


 「ね? あれだけの人を、鳴神くんが守ったんだよ」


 「──うん。うん……!」


 その光景に、璃空は少しだけ安堵し、残る心配事は一つだけだった。


 「玖遠さん。ちょっとだけ待っててもらっていい?」

 「え? うん。いいけど……」


 「ありがとう!」


 灯里の了承を得た璃空は、目的の場所に向かって走り出した。

 璃空は、灯里と話しているうちに、古町についての情報を共有出来ていなかったことを思い出していた。

 いくら何でも、あの炎の中、部屋から出てこないとは思えないが、嫌な予感がしていた。


 古町が引きこもっていた建物の前にたどり着いた璃空。

 建物は黒く焦げ、もろく崩れ去っていた。


 「さすがに、避難してるよな……」


 こんな瓦礫の中に、古町がいるわけがないと思い、その場を立ち去ろうとする。

 その時、瓦礫の中で、何かが動く音がした。

 足を止め、瓦礫の山を見る。

 特に変わった様子もなかったが、どうしても無視できなかった。

 璃空は、瓦礫の山を慎重にかき分けていく。


 「なっ!? うごっ!!」


 すると、瓦礫の中から、璃空の顔を目掛けて、何かが飛び出してきた。

 見事、顔面にクリーンヒットし、璃空は後ろに倒れてしまう。

 一体何事かと、慌てて顔に張り付いた物体を剥がそうとする。


 「ん? この感触……まさかっ!!」


 璃空は、自分の手に伝わる感触に驚き、顔に張り付いている何かを優しく持ち上げる。

 そこにいたのは、探し続けていた灰色の食傷兎だった。


 「うーちゃん!? 探したんだぞ!!」


 嬉しさのあまり璃空は食傷兎を抱きしめるが、放置された腹いせなのか、兎は璃空の顔を殴り続けた。

 食傷兎の怒りを鎮めながら、璃空は立ち上がる。

 兎を肩の上に乗せ、急いで全ての瓦礫をどかした。

 何故なら、食傷兎がここにいるということは、それを保護していた少女もここにいるということを意味していたから。


 「な、んで……何で、ずっとここにいたんだよ……古町!!」


 瓦礫の下。新藤古町は、そこにうずくまって眠っていた。

 ゆっくりと抱え、生きているかどうか確認する。

 呼吸もしているし、目立った傷も見当たらなかった。

 恐らく、食傷兎を抱えていたおかげだろう。

 その代わり、小さな身体に似合わない火傷の跡が至る所に刻まれていた。

 璃空は、肩に乗せていた兎を古町の上に乗せた。

 気休めかもしれないが、何もせずにはいられなかった。


 「……ん。あ、れ……?」


 すると、古町がゆっくりと目を覚ました。

 彼女は自分がどういう状況なのか、まだ目覚めていない頭で考えていた。


 「何で、逃げなかったんだ……?」


 それは璃空も分かっていたが、その言葉を押さえることが出来なかった。

 古町は、璃空が誰なのか分かっていなかったが、悪い人ではない気がして、ぽつりぽつりと話し始めた。


 「……炎が。炎が、怖かったんです。逃げ出したいのに、足が動かなくて。……でも、私が逃げないと、この子が燃えちゃうから。だから、この子だけでも守らなくちゃ、って。……耐えるのは、得意ですから」


 古町は、そう言って小さく笑った。

 その笑顔に、璃空はただ黙って古町を抱きしめた。

 言いたいことはたくさんあるはずなのに、何を言えばいいのか分からなかった。

 ぐちゃぐちゃになった頭で、璃空はどうにか口を開いた。


 「──よく、頑張ったな。もう、大丈夫だから。もう耐えなくていいんだよ」



 「────あ。……うぅぁ!」


 璃空の言葉を聞いた古町は、少しだけ凍りついたように固まっていた。

 しかし、すぐに古町の表情は崩れていき、少女の瞳からは涙が零れ落ちていく。

 何か言わなければと必死に絞り出した言葉が、古町にとっては、一番言ってほしかった言葉だった。

 古町は、璃空の胸の中で泣きじゃくった。

 そんな少女を、璃空は優しく抱きしめた。

 しばらくの間、古町が泣き止むことはなかった。

 だが、その声は降りしきる雨にかき消され、古町の叫び声は璃空と兎の耳にしか聞こえなかった。


 それから、十数分泣き続けた古町は、電池が切れたように眠ってしまった。

 同時に、彼女の身体に刻まれていた火傷の跡が消えていった。

 璃空は、古町と兎を抱きかかえ、立ち上がった。

 これから、古町をどうするべきなのか悩みながら、璃空は灯里と和希の元に歩き始めた。

 いつの間にか雨は止み、暗い夜空の彼方から、眩しい光が世界を照らし始めていた。



 職人街の騒動から数時間後。


 「準備は出来たか?」


 「はい。全員、いつでも出動できます」


 Orpheus京都支部には、第四部隊の面々が整列していた。


 「任務の再確認だ。栗花落」


 「はい。今日の深夜。京都市街地を次々に襲撃していた異能者が、職人街を襲撃しました。そこで、ゾディアックのメンバー、鳴神璃空の霊力を感知しました。私たちの任務は、職人街の被害状況の確認、犯人及びゾディアックメンバーの確保です」


 「鳴神璃空。やつには、俺たちの獲物だった暴食を横取りされた借りがある。見つけたら、確実に叩き潰す!! 行くぞ!!」


 任務の確認を終えた第四部隊は、奏城鋼真の号令により、職人街に向かう。


 それから数時間後。職人街を巻き込んだ事件が再び巻き起こる。


明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします

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