表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第2章 鳥籠のコルリ
33/98

炎喰雷獣

 京都職人街にたどり着いた三人。


 「これは……」


 「ひどい……!!」


 そんな三人の目に映ったのは、燃え盛る街並みと、悲鳴を上げ、逃げ惑う人々の姿、そして炎の中に揺らめく影だった。


 「──二人とも、街の人は頼んだ」


 「は? お、おい!!」


 その影を視認した瞬間、璃空は雷撃を纏って駆け出した。

 和希は、一人炎の中に飛び込もうとする璃空を止めようとするが、それを止めたのは灯里だった。


 「私たちは、街の人達を助けよう。特に、高坂くんは救助に専念して」


 この混乱した状況で、街の人を助けるためには、和希の力が絶対に必要だった。

 もちろんそれを理解している和希は、灯里の言葉を呑み込み、救助を開始した。

 それと同時に、灯里も、璃空から教えてもらった新藤古町の引きこもっている建物の近くまで移動する。

 周囲の霊力を探りながら、自分の手首を切り裂き、血を流す。

 血は体外に流れ出ると、凝固し始め、一本の剣へと形を変えた。

 それを持ち、何が起きてもいいように警戒を続けた。


 「頼んだよ、鳴神くん」



 璃空は、炎の中を高速で一直線に駆け抜けていく。


 「くっ……」


 中学時代、篠宮沙織(しのみやさおり)との戦いの要領で、炎の海を突破しようとした。

 しかし、あの時とは違い、四方が炎に囲まれた状況が長く続くため、熱によるダメージから逃げきれなかった。

 立ち止まった璃空は、少し焼け焦げた服の袖をチラリと見て、目の前の影を睨みつける。

 男は、誰かと携帯で話しているようだったが、璃空の存在に気が付くと、視線を動かす。


 「──いえ。どうやらその心配はないようです。あなたの情報通りでした。では」


 「お前が犯人か、って質問はいらないみたいだな……!!」


 「初めまして、鳴神璃空」


 璃空の怒りが滲んだ言葉に、男は、恭しく礼をし、言葉を紡いだ。


 「私の名前はグリフォン。以後、お見知りおきを」


 「いいよ。お前みたいなやつの名前、知りたくもない!!」


 グリフォンの名乗りを聞かずに、璃空は圧倒的な速度で斬りかかる。

 だが、璃空の剣は空を切る。

 先ほどまで目の前にいたグリフォンが姿を消したのだ。


 「おっと。危ないな」


 「はあ!?」


 どこに消えたのか、周囲を見渡すと、グリフォンの声が頭上から響く。

 あの一瞬で、屋根の上に飛び移ってるのかと思い、頭上を見上げる。

 そんな璃空の目に映ったのは、焼ける空に浮かぶグリフォンの姿だった。

 鋭い爪と翼に炎を纏わせたその姿は、ただの鳥類と呼ぶにはあまりにも禍々しい姿だった。


 「本来なら、この姿は目立つからという理由で禁止されていたが、もはや隠す必要もないでしょう」


 「何を、言ってるんだ……?」


 グリフォンの不可解な言葉が、璃空の中で引っかかるも、考える時間は与えられなかった。

 纏っていた炎が手のひらに収束され、球体へと変わっていく。

 それを、グリフォンが握りつぶすことで、炎の雨が降りそそぐ。

 璃空はその攻撃を見て、攻撃範囲は広いが、躱せない速度ではないと判断した。

 

 しかし、グリフォンの攻撃はここからだった。

 背中に生えた翼を大きく羽ばたかせることで、突風を巻き起こし、炎の雨の軌道を滅茶苦茶にする。

 それに加えて、周囲の炎も揺らめき、璃空が動ける範囲が狭められる。


 「っ!! 雷鳴散花!!」


 璃空は咄嗟の判断で、雷の花を空中に展開し、炎の雨を防ぐ。

 雨に打たれた花は、その花弁を散らし、炎が身体のあちこちを掠めていく。

 さらに、グリフォンが巻き起こした風に煽られた炎が、璃空の身体を焼いていく。


 「がぁっ!!」


 身を焼かれる痛みに加え、徐々に呼吸も苦しくなってきていた。

 このままでは、身動きが取れなくなり、迫りくる炎に焼かれて終わりだ。

 そう考えた璃空は、守りではなく、攻撃に転じる。

 攻撃が止まった一瞬の隙を狙い、璃空は雷の槍を創り出し、グリフォンに向かって全力で投擲した。

 空を飛ぶグリフォンは、その槍の飛来速度に驚くが、避けられないほどの速度ではない。

 慌てず冷静に回避をし、次なる攻撃に移ろうと、再び炎の弾を創り出す。


 「そろそろ、限界のようですね」


 地上を見下ろすグリフォンが見たものは、膝をつく璃空の姿だった。

 短時間とはいえ、四方が炎に囲まれた状況にい続ければ、早々に限界が来るのは分かりきっていたことだ。

 璃空は浅く呼吸をして、力ない瞳でグリフォンを睨みつけていた。

 グリフォンは聞いていた話よりも、拍子抜けだなと感じつつ、油断せずに確実にとどめを刺すべく、巨大な炎球を生み出した。


 「街もろとも、灰に消え去れ」


 勝利宣言と共に、グリフォンは炎球を投下しようとする。


 「──そこだ!!」


 それと同時、璃空の瞳に力が戻り、空高く掲げた手を握りしめる。


 「一体何……を……っ!! こ、これは!!」


 先ほどまで、力なく膝をついていたとは思えない顔つきに、嫌な予感を覚えたグリフォンは、周囲を見渡す。

 すると、自身の背後。

 先ほど回避したはずの雷槍が、蛇のようにうねっていた。

 そして、その蛇は四方に分かれ、グリフォンの身体に絡みついた。

 グリフォンは身動きが封じられ、生み出していた巨大な炎球も、徐々に形を保てず、霧散していく。

 Orpheus第四部隊の動きを一時的に封じた時と同じ技だが、あの時とは違い、対象人数が違うため、今回の方が拘束時間は多少長く続くはずだ。

 グリフォンが拘束を抜け出す前に、璃空は一気にこの状況をひっくり返し、勝利をつかみ取るための賭けに打って出る。


 右手と左手。それぞれに雷の球体を形成していく。

 乱雑に放出された雷を、隙間なく、高密度に編み込んでいく。


 「くっ……!!」


 腕にかかる負担に耐えながら、どうにか球体を完成させる。

 同時に、グリフォンが拘束から逃れ、眼下の璃空を捉え、再び炎球を創り出す。


 「私を拘束したのは、私に一撃加え、地上に落とすためだと思っていたのですが……まあいい。これで終わりです」


 璃空が何を企んでいるのか。

 それが気になるのは事実だが、もし、璃空に何か考えがあるのなら、この一撃で明らかになるだろう。

 グリフォンは、璃空に向かって、巨大な炎球を突風に乗せて、叩きつける。


 迫りくる巨大な炎の球を一切見ずに、璃空は目を閉じ、深呼吸をしていた。

 今から放とうとしている技は、あまり成功率が高いとは言えず、実戦で使うのも初めてだった。

 どうしようもない大博打。

 だが、この圧倒的に不利な状況を覆すためには、一か八かに賭けるしかなかった。


 「うおおおおおおおおおお!!」


 覚悟を決めた璃空は、目を開け、右手の雷球と左手の雷球をぶつける。

 凄まじい衝撃に、腕が吹き飛びそうになるが、全ての力を集中させ、二つの雷球がぶつかり合っている状態を維持する。

 閃光は、徐々に激しくなっていき、その直後、二つの雷球が混ざり合い、はじけ飛ぶ。

 そして、そこには新たな輝きが、雷撃の残滓を纏った小さな炎が生まれていた。

 璃空はその炎を握りしめ、迫りくる炎球に拳を叩きつけた。

 小さな雷炎は、接触した部分から徐々に、炎球の中に拡散していく。


 「何が、起きている……!?」


 グリフォンは、一体何が起きているのか分からなかった。

 炎球は、地面に激突することなく、その場で静止していた。

 それは、璃空が抵抗しているせいだというのは分かる。

 だが、炎球の中にチラチラと見える光の粒が、何かただ事ではない予感を知らせていた。

 

 そして、グリフォンの予感は的中する。

 炎の中に見えていた光の粒が繋がっていき、いくつもの光の線が浮かび上がってくる。

 同時に、周囲の炎を呑み込みながら、炎球は崩れていく。

 渦巻く炎の中心。そこに立つ璃空は、空高く飛ぶグリフォンを睨みつけていた。


 「──炎喰雷獣(ホノイカヅチ)


 「ま、さか……雷同士をぶつけることで発生させた小さな炎を呼び水に、周囲の炎を支配しているのですか……!?」


 璃空の狙いに、グリフォンはようやく気が付いたが、時すでに遅し。

 街に放たれた炎は、全て璃空の雷炎に呑まれていた。


 「これで終わりだ、グリフォン!!」


 璃空は、腕から血を流しながら、全ての雷炎を、グリフォンに向けて放つ。


 「くっ! 回避を……!!」


 「逃がすか!!!」


 グリフォンは迫りくる雷炎から逃れようと、大きな翼を羽ばたかせる。

 当然、それを読んでいた璃空は、グリフォンの退路を断つために、雷炎を広く展開させる。


 「落ちろ、グリフォン。──陽砕顎(ひさいあぎと)!!!」


 璃空の動作に従い、雷炎は、獲物を噛み砕くように、グリフォンを押しつぶした。

 その一撃で、グリフォンの翼は焼け焦げ、地面に墜落してくる。


 「終わった……のか……?」


 両腕に襲い掛かる激痛に耐えながら、グリフォンが落下した地点を睨みつける。

 あの高さから無防備に落下すれば、いくら異能者でも無事では済まないだろう。

 これ以上の戦闘はないだろうが、一切油断はできない。

 このまま戦闘が続けば、間違いなく璃空が負ける。

 まだ戦闘が続くと考えて、この先の戦闘プランを立てる。

 しかし、グリフォンが起き上がってくる気配はなかった。


 「……」


 警戒は解かずに、璃空はグリフォンの元に近づく。

 そこには、ボロボロに焼け焦げたグリフォンの姿があった。


 「がはっ……。はあ、はあ……。さすが、暴食を倒しただけのことはありますね」


 「お前は、一体……」


 予想外の単語に、璃空は思わず固まってしまう。

 暴食。それは、異能犯罪者集団セブンスの一人、旺膳律瀬(おうぜんりつせ)に与えられた罪である。

 そして、一か月半前、璃空の運命を変える一端となった人物でもある。


 暴食を撃破したのは、公にはOrpheusとなっている。

 それを知っているということは、ただの犯罪者ではないということだ。


 「私は、何も知らない……ただ、命令通りに……動いただけですから」


 璃空が聞きたいことは、グリフォンも分かっていた。

 だが、グリフォンも、命令を下した人物の意図は分からなかった。


 「ですが、あの方の命令には何かしらの意味がある……きっと、ここからが始まりです」


 だから、グリフォンには答えられることは、これで終わりではないということだけだった。


 「精々……頑張って、ください……鳴神璃空。──暴食を穿った雷星よ」


 「おい、待て!! まだ聞きたいことが──」


 璃空の呼びかけも虚しく、グリフォンの瞳から色が失われ、命を落とした。


 「……ここからが始まり。マジで意味が分かんねえ……」


 京都を襲っていた放火殺人犯、グリフォンは死んだ。

 これで、一連の事件は終わったはずなのに、グリフォンの残した言葉が、頭の中を駆け巡っていた。


 気が付けば、曇っていた空から、雨の雫が大量に落ちてきていた。

 これなら、少しだけ残っていた火も、完全に消火されるだろう。

 いくつも疑問が残るが、とりあえず灯里と和希、職人街の人々の無事を確かめようと、グリフォンの死体に背を向けて歩き出した。



 「あー……死んじゃったか……」


 開いていた本の一文をなぞりながら、青年は悲しそうに口を開き、空を見上げた。


 「僕の無茶な命令に答えてくれてありがとう。君の働きは無駄にしないよ、グリフォン。──どうか、安らかに」


 「……あんたにも、そんな一面があるんだ。もっと冷たいやつかと思っていた」


 青年の悲しそうな表情を見て、科哭は意外そうな表情を浮かべる。

 彼女の中での青年のイメージは、自分の目的のためなら、平然と人を使い捨てにし、他人の死に何も感じないような冷血漢だった。


 「使えないやつにはそういう対応もするさ。だけど、グリフォンは僕のために、その命を捨ててくれた。そんな彼に、敬意を表さないのは失礼だろう?」


 「ふーん。……それで、結局、私はどうすればいいの? こんなに待たされてそろそろ限界なんだけど」


 「ああ。グリフォンのおかげで、職人街は甚大な被害を被り、ゾディアックの供給源は断たれた。そして何より、鳴神璃空がいることが分かった。あとは君と僕、それぞれ好きなように行動しようじゃないか」


 「……本当に、好き勝手やっていいの?」


 「もちろん。僕は、僕の知りたいことが知れれば、それで満足だからね。好きにしてくれて構わないよ」


 青年の言葉を聞き終えた科哭は、部屋から出て行く。


 「あ、そうだ。職人街付近の街にOrpheusがいるらしいか気を付けて──って言おうと思ったんだけど、少し遅かったか」


 やれやれと肩をすくめ、青年は本を閉じる。


 「さて。ここからが本番だ。君が本当に、世界を変える人間なのか。見極めさせてもらおう」


 誰もいない暗い部屋で、誰に向けたわけでもない言葉を残して、青年は姿を消した。


今年もありがとうございました。引き続き、来年もよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ