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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第2章 鳥籠のコルリ
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開かずの扉

 「兎? さあ、見てないねえ」


 「灰色の兎かぁ……うちには白い兎しかいないよ」


 「そんなことより、うちの商品見てってよ!!」


 璃空は日が昇るとすぐに、職人街を訪れ、食傷兎を探し始めた。

 しかし、誰に聞いても、その行方を知る者はいなかった。


 「はあ……」


 「おい。人の店の前でため息をつくな。客が逃げるだろ」


 朝から動き回って疲れた璃空は、鏡川の店の前で休憩をしていた。

 鏡川は、大きなため息を付く璃空に文句を言いながらも、どこかに行けとは言わなかった。

 その厚意に甘え、璃空は考える。

 探せる場所は探したし、話を聞ける人には話も聞いた。

 もしかして、街の外に出てしまったのだろうか。


 「そういえば、あのお連れのお嬢ちゃんはどうしたんだ? フラれたか?」


 「違うわっ! 水宮……兎の飼い主が落ち込んじゃって、その子の相手してる」


 あの後、とぼとぼと歩いて自室に戻った悠乃が放っておけないと言って、灯里は彼女と一緒にいる。

 そして、独断で璃空と灯里を任務に同行させたことで、和希も拠点で謹慎中である。


 「マジで街の外も探さないといけないかもな……」


 そんなわけで、璃空は一人寂しく捜索していた。

 璃空にとって、水宮悠乃という人物は、同じ組織のメンバーというだけだ。

 はっきり言ってしまえば、非常に浅い関係な彼女のために、こんな地道な捜索をする必要なんてないだろう。

 しかし、目の前で、あんな悲しそうな顔をされて、動かない方がどうかしている。

 それに、何度も何度も、璃空を助けてくれた兎を置き去りにしてしまったことへの罪悪感もある。

 

 やはり、街の外も探すべきだろうか。

 頭を抱えて、思考していると、どこかから大きな声が聞こえてくる。

 顔を上げると、遠くから、誰かが駆け寄ってくるのが見えた。


 「あー!! やっと見つけた!! おーい、兎探しの人―!!」


 「兎探しの人……?」


 何とも間抜けな呼び名に、璃空は変な表情をしてしまう。

 しかし、璃空の表情はすぐに何かに気が付いたものへと変化する。

 駆け寄ってくる男性は、話を聞いた人物の中の一人だった。


 「ふぅー……まだ、街の外に出てなくてよかったよ」


 「どうしたんですか?」


 余程慌てていたのか、乱れた息を整えて、一枚のメモを渡してきた。


 「これ、読んでみてよ! もしかしたら、君が探してた兎ちゃんのことかもしれないんだ」


 「……はあ!?」


 予想外の展開に、璃空は急いでメモに目を通す。

 そこには、『灰色の兎、預かってます。探している人がいたら教えてください。あ、今日もご飯美味しかったです。ありがとうございます。』と書かれていた。


 「こ、これだー!!!」


 メモを読み終えた璃空は、立ち上がって叫んでいた。

 誰か分からないが、話を聞けなかった誰かの家で預かっていてくれたようだ。


 「この人の所まで案内してもらっていいですか?」


 「あ、あー……」


 「……?」


 案内してもらおうとする璃空だったが、何故か男性は言葉を言い淀んだ。

 その様子に、何か事情があるのか考え、鏡川の方を見る。

 すると、璃空の視線を受けた鏡川は、困ったように口を開く。


 「いや、実はな──」



 璃空は、鏡川から教えてもらった家の前に立っていた。

 長く使われていないのか、他の家と比べて、もろい印象を受けた。

 預かっていた鍵を使い、璃空は家の中に入っていく。

 ギシギシと音を立てる廊下を慎重に歩き、目的の部屋の前で立ち止まる。

 ぼろい扉の前で、深く呼吸をしたあと、璃空は扉をノックした。


 「……あれ?」


 しかし、その音に返事は返ってこなかった。

 どうしたことかと、首を傾げていると、扉の下の隙間から、一枚の紙が出て来た。

 璃空はそれを拾い上げて、紙に目を通す。

 そこには『誰ですか? 怪しい人とはお話しません』と書かれていた。


 「あー……えっと、俺の名前は鳴神璃空。君が預かってる兎が、俺の探している兎かもしれないんだ」


 やはり、璃空の言葉に対して、返事はなかった。

 その代わり、部屋の中から、少しだけ物音と誰かの声が聞こえた気がした。

 

 訪れるしばしの沈黙。

 璃空は、扉が開くのを待った。待つことしかなかった。

 今の璃空に、目の前に佇む扉を無理矢理開けるなど、出来るはずもなかった。

 だから、璃空はその扉が開くときを待ち続けた。


 しかし、その日。璃空の目の前の扉が開くことはなかった。


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