行方知れず
パチンッという音が響くと、身体が宙に浮かぶ感覚と共に、景色が一変する。
自分たちの背後にあった山盛りの荷物と共に、璃空たちは拠点に帰還した。
「……大丈夫か?」
「……まあ、何とかな」
彩乃の伝言を伝えて帰ってきた和希は、非常に疲れ切った顔をしていた。
心配して事情を聴いた璃空。
そんな璃空に、和希は何があったのかを事細かに伝えた。
そこで璃空が知ったことは、ゾディアックと京都職人街の間で交わされている取引の内容だった。
職人街から必要な物資を補給させてもらう代わりに、ゾディアックは保護した天霊以外の異能者を引き渡している。
それは双方にとって、有益な取引だったが、何度も取引をするたびに、公平な取引ではなくなる。
確かに、人手が増えるのは職人街にとっても悪い話ではない。
だが、ゾディアックは、一切の支援もなく、ただ異能者を引き渡すだけだった。
さらに、物資の補給に関しても、いきなり必要な物資のリストを送りつけてくる有様である。
職人街の中で、取引内容とその現状を知っているのは大國だけだ。
そんな彼に対して、彩乃が託した伝言は「いつも通りお願い」という、淡白な一言だった。
和希が伝えた伝言に、大國がどのような反応をしたのかは言うまでもないだろう。
結果、和希はくたくたになって帰ってきたというわけである。
和希の話を聞いた璃空と灯里も、苦い表情を浮かべるしかなかった。
「あとは、匿われてる天霊?を保護すれば、任務達成か」
「それは明日、ゆっくり探そう。もう疲れた……」
「うん。そうしよ……ん?」
ふと、灯里は自分の服の裾が引っ張られていることに気が付き、言葉を止めた。
振り返ると、そこには青い髪の少女が俯いて立っていた。
「悠乃? どうしたの?」
「え? 悠乃って、もしかして……」
璃空はその名前を最近聞いたばかりだった。
職人街に行く直前、自分に懐いている気がする食傷兎についての話を聞いた。
その話の中で、彼女の名前が出て来たのだ。
水宮悠乃。
ゾディアックに拾われた天霊で、食傷兎のような魔獣を生み出す能力を所有している。
灯里の話によれば、綺麗な青い髪が特徴的で、あまり口数が多い方ではないという話だった。
おそらく、この子が食傷兎の生みの親なのだろうと、璃空は察していた。
「うーちゃん……どこ……?」
悠乃は、灯里を見上げて、小さくつぶやいた。
その表情は、どこか悲しげな雰囲気だった。
「……え?」
三人は顔を見合わせる。
職人街に行くときには一緒にいた食傷兎のうーちゃん。
しかし、街についた辺りから、うーちゃんがどこに行ったのか誰も把握していなかった。
そしてそれは、一つの結論を意味していた。
「ま、まさか……」
「……やっちゃった?」
「嘘だろ!?!?」
三人はうーちゃんのことを、職人街に置いてきてしまったのだった。
◇
パタパタと何かが歩く音が、廊下から聞こえてくる。
「ん……」
その音で、一人の少女が布団の中で目を覚ます。
太陽は沈み、暗い部屋の中には、他の建物から零れた光が差し込んでいた。
ゆっくり体を起こす少女の顔や体には、所々に包帯が巻かれていた。
暗い表情で、少女は、ズキズキと身体を突き刺す痛みに耐えながら、扉の前に向かう。
閉じられた扉の先で、何かが動く音が聞こえる。
明らかに人の気配ではないため、少女は警戒しながらも、ゆっくりと扉を開ける。
「……?」
暗い廊下には、誰もいなかった。
その代わり、少女の足元には、お盆の上に乗せられた食事とその前にちょこんと座る灰色の兎だった。
「迷子?」
その場にしゃがみ、少女は兎に手を伸ばす。
兎は手の上に頭を乗せて、手の平を甘噛みした。
特に痛くもないので、少女は気にしなかった。
それよりも、少女が気にしたのは、この兎がどこからやって来たのか、ということだ。
街近くの森からやって来たのか、それとも誰かのペットなのか。
どのみち、迷子であることに変わりはない。
「……おいで」
少女は兎が入って来られるように、お盆をゆっくりと持ち上げ、少しだけ横にずれる。
すると、パタパタと音を立てて、兎は彼女の部屋に入ってくる。
それを見届けて、少女は部屋のドアを閉めた。
◇
燃え盛る業火の中に、悲鳴と血の匂いが入り混じる。
「た、助け……」
かろうじて、炎から逃げのび、助けを呼ぼうとする女性の首から上が吹き飛ばされる。
そこには、噴き出す血にまみれた男が立っていた。
男は、歩きながら、ポケットから携帯を取り出す。
「もしもし? 調子はどうだい、グリフォン?」
「はい。指示通り、職人街周辺の街を襲撃していますが、暴食を撃破した少年は現れません」
「そっか。ふむ。彼がいる職人街付近で事件を起こせば、食いついてくると思ったんだけどなぁ……どうやら、そこまで正義感が強い人間ではないみたいだね」
電話越しに聞こえる声は、落胆しているというよりも、自分の予想を超えてくれたことに対する喜びを含んでいるように感じた。
「それで、ここから先はどうしますか? 変わらず、周辺の街を襲撃しますか?」
「んー……いや、作戦変更だ。揺さぶっても出てこないなら、直接狙ってしまおう」
「了解しました。それでは」
グリフォンと呼ばれた男は、その会話を最後に、連絡を終えた。
未だ燃え盛る街を一瞥した後、彼は街に背を向け、歩き出した。
4話ほど書き溜めたので投稿します。休んでた期間の割に、文字数が少ないのは言わない約束です




