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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第2章 鳥籠のコルリ
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レンズ越しの彼女

 「そっちどう?」


 「もうすぐ終わるよ」


 璃空と灯里は倉庫の中で物資の最終確認を行っていた。

 二手に分かれて、片っ端から物資を受け取りに行った二人は、三時間ほどで全ての物資を受け取り終えた。

 そこからはひたすらリストとのにらめっこである。

 ミスがないかを入念にチェックし続けるだけの作業に気が滅入りそうになるが、雑念を振り払いとにかく手を進めていく。


 「お、終わったぁ……!!」


 それから一時間ほどで、二人は作業を終えた。

 疲れ果てて地面に座る璃空の首筋に冷たいものが触れた気がした。


 「飲む?」


 「……ありがと」


 驚いて見上げると、灯里が飲み物を持っていたずらな笑みを浮かべていた。

 典型的ないたずらに引っかかったことに少しの不満を覚えながらも、差し出された飲み物を受け取る。

 お互いに水分補給をして一息ついたあと、璃空は口を開いた。


 「えーっと……この後、どうしよっか。この街にいる天霊の情報でも集めに行く?」


 物資調達が終わったとは言え、自分たちの任務はまだ終わりじゃない。

 この街にいる天霊を保護してようやく任務は終わる。

 だが、その天霊がどこにいるのかは知らない。

 そのため、情報収集をするべきかと璃空は思った。


 「何言ってるの? まだ、買わなきゃいけないものがあるでしょ?」


 しかし、灯里は全く違うことを考えていた。

 彼女は持っていたリストを璃空に見せてくる。

 そこには確認のチェックマークとは別に、赤色のマークがついており、マークの横には女の子らしい文字で様々なコメントが書かれていた。

 そんなメモの中で、自分に関する文章を見つけた璃空がどんな表情をしていたのかは目の前にいた灯里にしか分からないだろう。


 『眼鏡! 鳴神くんならこの眼鏡似合うんじゃないかな』


 『男性服! 鳴神くん用。このお店の洋服、気に入ってくれそう』


 ただのメモ書きでしかないその文章に、こんなに心臓が高鳴るなんて思ってもいなかった。


 「ふふっ。行こっ!」


 灯里は璃空の表情を満足そうに見つめた後、一足先に倉庫から出て行った。

 その後ろを璃空も慌ててついていく。

 

 チェックマークとは違うマークと小さな文字でメモが書かれた資料を後ろ手に隠しながら。



 「ふっ……くくっ……似合ってるぞ、兄ちゃ……ぶふっ!!」


 「に、似合ってるよ……鳴神くん……ふふっ」


 「……すみません、違うやつ見せて貰ってもいいですか!?!?」


 灯里の案内で眼鏡を選びに来た璃空。

 そこはガラス職人の店であり、ガラスを加工してレンズなどを作っていることから、眼鏡の注文も受け付けてくれている。

 職人の名前は鏡川千里(かがみかわせんり)

 彼の作ったガラスには、彼の能力によって特殊な強度加工がされていることに加え、繊細で精密な製品であることから、多くの建物、商品に使われており、ガラス職人の中ではずば抜けた技術を持っている。

 そんな彼の店で、灯里は事前に目を付けていた眼鏡を付けるように璃空に手渡した。

 何故かその際に「目を閉じて」と言われたのだが、特に疑問に思わずに璃空は目を閉じた。

 そして、何故か自分の目の前から聞こえる笑い声に、目を開けた璃空は鏡を見て、言葉を失った。

 灯里が璃空にかけた眼鏡は桃色のフレームの眼鏡だった。


 「ちょっと似合ってるのがおもしれえよな」


 「本当はこっちの真っ赤なフレームの眼鏡にしようとしたんだけど、さすがにね?」


 璃空は灯里が指さした先にある派手な色の眼鏡に、表情を硬くした。

 さすがにあそこまで派手な眼鏡は似合う、似合わないに関係なく遠慮したい。


 「じゃあ、やっぱりこっちだね」


 渋い顔をしている璃空に、灯里は別の眼鏡をかけてくる。

 灯里が手に持っていた眼鏡は、黒色のフレームに少しだけ桃色のラインが入っているものだった。

 その近すぎる距離感に照れながら、それを誤魔化すように鏡を見る。

 鏡に映った自分はほんの少しだけいつもと違って見えた。

 まるで大人になろうと背伸びしている子供のようだ。


 「おっ。似合ってるじゃねえの。これにするか?」


 「……はい。お願いします」


 璃空は背伸びした自分を否定せず、灯里が選んでくれた眼鏡に決めた。

 その言葉に、鏡川はスイッチが入ったのか顔つきが変わる。


 「承った。じゃあ、レンズ作るから、視力教えろ」


 「……それどれくらいかかる?」


 「まあ一時間ってとこだな」


 「一時間……ねえ、鳴神くん。ちょっと他のお店見てきてもいい?」


 「え? うん。いいけど……」


 「ありがと! じゃあ、一時間後に」


 眼鏡が出来上がる時間を聞いた灯里は、その間に璃空を連れていては出来ない買い物をしようと考えていた。

 璃空の返事を聞いた灯里はそそくさと店を出て、街の中に消えていった。


 「……フラれたな」


 「そ、そういうのじゃないですから!!」


 灯里の背中を腑抜けた顔で見送った璃空は、鏡川に変な同情をされてしまう。

 一人で取り残されてしまった璃空は、店の中に置いてあった新聞を手に取った。

 新聞に大きく書かれていたのは「十二ノ(ティターン)、またしても崩壊!? 五本目の塔の崩壊に国民からOrpheusへの不満が高まる。さらに天霊を廃絶するべきという運動も増えてきた」というものだった。

 璃空が目を覚ました時に十二ノ塔の四本目が崩壊したという話を聞いたが、この一か月半の間にまた塔が壊れた。

 それはつまり、それだけの天霊が狩られていることを意味した。

 しかし、もう起きてしまったことは変えられない。

 璃空は顔をしかめながらページをめくる。


 「……ん?」


 そして、次のページに書かれていた事件が璃空の目に留まる。

 見出しは「京都で繰り返される放火殺人。被害者相次ぐ」というものだった。

 事件の内容としては、何者かによって街一帯が焼かれ、多くの被害が出ているというものだった。

 犯人が何故こんなことをしているのかは分からないが、恐らくこのままでは京都全域が炎の海に沈み、焦土と化すのではないかと書かれていた。


 「クソ野郎が……!!」


 その記事を読んでいた璃空は、知らぬ間に怒りを口にしていた。

 事件の悲惨さにも怒りを覚えるが、何より璃空の怒りに触れたのは、この事件が同じ炎を使う異能者に対する侮辱でしかないということだ。

 璃空がよく知る炎の異能者は、その炎を人々を守るために使っている。

 一方で、犯人は何が目的か分からないが、その炎で無差別に人々を殺し、その営みを破壊している。

 そんなことは到底許されない。

 しかし、璃空は正義の味方でも、どこぞの英雄でもない。

 見ず知らずの誰かのために、自分の命を使う気などなかった。

 我ながら最低な考え方だなと、自分で自分を責めながら、新聞を元あった場所に戻して、適当な雑誌を手に取って読み始めた。



 それからしばらくして鏡川が璃空のそばにやってくる。


 「おい、顔上げろ」


 「はい?」


 鏡川の声に璃空が顔を上げると、璃空の顔に眼鏡がかけられる。

 その瞬間、璃空のぼやけた視界は急速に焦点を定め、一か月半前には当たり前だった景色を蘇らせた。


 「おぉ……おぉおおお!! すげえ!!」


 「おう。喜んでくれて何よりだ」


 璃空の嬉しそうな反応に、鏡川も満足げな様子だった。

 人の顔や風景がしっかりと見えることがこんなに幸せなことなんだと、璃空はこれから見るものをしっかりと刻みつけようと、自分の胸に誓った。


 「あ。眼鏡出来たんだね」


 「うん。玖遠さ、ん……?」


 その時、店の入り口から聞き慣れた灯里の声が聞こえてくる。

 璃空は声の方向にパッと顔を向けて固まった。

 そこにいるのは確かに灯里なのだが、いつもと彼女の装いが違ったのだ。

 普段はセミロングの髪を後ろで一つに縛り、ピンク色のワンサイズ大きなパーカーとショートパンツ、黒のタイツにスニーカーという動きやすそうな服装だった。

 しかし、今の灯里は、一つに縛っていた髪をほどき、服装も白のブラウスとピンクのカーディガン、膝丈ぐらいの黒のシンプルなスカートと普段とは全く違うものだった。


 「……? 鳴神くん?」


 「あ、いや! いつもと違うなって思って」


 「あー。これ同じような服ばっかり買ってたら、お店の人が「ちょっと来て!」って言って試着室に連れていかれて、私に似合う洋服をプレゼントしてくれたの」


 そう言いながら、灯里はその場でゆっくりと一回転した。

 ふわりとなびく灯里の髪とスカート。

 桜の花のように綺麗で可愛い灯里の姿に、璃空は完全に見惚れていた。


 「……どう、かな?」


 その分かりやすい璃空の表情に、灯里も照れてしまい、少しだけ頬を赤らめながら、璃空に感想を求める。

 それは璃空へのからかいが主だったが、その裏には彼の口から直接感想が聞いてみたいという思いがあった。


 「か、可愛い……と思う」


 「……そっか。嬉しい」


 璃空から可愛いと言われた灯里は、本当に心の底から嬉しかった。

 何故こんなに嬉しいのか分からないが、目の前の彼からの言葉は心を揺らしてくる。

 そんな素振りを見せないように、灯里はすぐにいつも通りの彼女に戻る。


 「──そろそろ戻った方がよさそうだね。行こっか」


 「え、あ、うん。──ってそうだ、お金……」


 「お代はいらないよ」


 「え、でも……」


 「俺からのサービスだ。それでも聞けないって言うなら、また何か買いに来てくれや」


 鏡川は困惑する璃空の肩に手を置いて笑いかけた。

 彼の優しさに璃空は戸惑い悩むが、その厚意に甘えることにした。


 「……ありがとうございます、鏡川さん。また、絶対に来ます!!」


 「おう。早く行かないと、嬢ちゃんに置いて行かれるぞ」


 頭を下げる璃空の顔を上げさせ、鏡川は璃空の身体を方向転換、背中を軽く叩いて送り出した。


 店を出ると、オレンジ色に照らされた空の下で灯里が待ってくれていた。

 その姿に璃空はまたしても見惚れてしまう。

 どうしてこんなに灯里に視線を奪われてしまうのか分からなかった。

 一か月半ぶりにはっきりとした視界で彼女の姿を見たからだろうか。

 普段見ていた服装とは違う服装をしているからだろうか。


 はっきりとした理由は掴めないまま、ただ璃空の心臓が強く早く脈打つのだった。




灯里に対する璃空の感情とシンクロしてました

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