京都職人街
地に足がつく感覚と同時に、璃空の視界に映ったのは生い茂る木々だった。
「ここが職人街……なわけないよな」
さすがにここが目的地には思えないが。もしかすると巧妙に隠されているだけで、ここが目的地なのかもしれない。
そう考えて、和希の方を見ると、和希はどこから取り出した資料を見ながら、辺りを見渡していた。
「──なるほど。ここからまだ少し歩くみたいだな」
しばらく考えた後、和希はそう言って先を歩き出した。
あの後を歩き出す灯里を見て、璃空も歩き出した。
「どういうこと?」
「念には念を、ってことだよ。職人街に直接飛んで、Orpheusが来てたりしたら大変でしょ?」
歩きながら疑問を口にした璃空。
それに答えたのは灯里だった。
確かにその通りだ。
説明を聞く限り、職人街はゾディアックと協力関係にあるとは言え、普通の街だ。
そこにOrpheusの人間がいたとしても何らおかしくはない。
彼らも職人街に武装を発注しているかもしれないのだ。
直接飛んで鉢合わせてしまう可能性を考えてしまえば、少し離れた場所に飛んで歩いて向かうというのは理に適っている。
「まあ、そんなに離れてるわけじゃないからすぐに着くさ」
和希の言葉通り、数分後には森から抜け、視界が開けた。
璃空の視界に映ったのは驚くべき光景だった。
そこは、まるで過去のどこかで時が止まってしまったような古風な建物が立ち並んでいた。
そして、街の中は多くの人の活気を感じた。
「これが……職人街……!!」
「おー……すごいな」
普段あまり見られない街並みに三人ともテンションが上がっていた。
しかし、任務で来ていると言うことを思い出し、歩きながら璃空はどこを目指すのかと和希に聞く。
「まずは、この街の長、大國伊比木って人に会いに行く。リーダーからの伝言があるからな」
「ふーん。その後は?」
「その後は、発注してある所から物資を受け取って、倉庫かどっかに置かせてもらう。で、頼んでたものが全部揃ったら俺が転移させる、って感じだな」
その話を聞いた灯里は何か考えるような仕草をすると、一瞬、璃空の方を見て微笑んだ。
「──だったらさ、高坂くんが大國さんのところに行ってる間に、私たちがある程度、物資を受け取りに行くってのはどう? 個人的に見たいものもあるし」
「……最初からそれが目的?」
「仕事はしっかりするから安心して」
璃空は息を飲んだ。
表情は何も変わらないのに、二人が放つ雰囲気は非常に近寄りがたい、いつ殺し合いを始めてもおかしくない空気を漂わせていた。
数秒間続いた睨み合いの果てに、和希はため息をついて、璃空に持っていた資料を渡してきた。
「まぁ、復活祝いってことにしといてやるよ。俺も好きなところ見ながら仕事するよ」
「お、おう。ありがと」
「……ありがとね、──」
「ぶち殺されたい??」
灯里が和希に向けて言った言葉の最後は璃空には聞こえなかった。
そのまま、和希は街の奥の方に進んでいった。
彼の背中を見送り、璃空は手元にある資料に目を通す。
「うへぇ……」
そこに書かれた膨大な物資の量に、璃空は思いっきり面倒そうな表情を浮かべてしまった。
そして、隣から資料を覗き込んでいた灯里も同じような表情を浮かべていた。
「……しょうがない。上から攻めていこっか。二人ならすぐに終わる……はず!」
「そこはもっと自信もって言ってくれよ!?」
息が合っているのか合っていないのかよく分からない二人は、和希に託された資料を見ながら、任務を開始した。
◇
「はあ……本当に面倒」
一方で和希は深いため息をつきながら、大國伊比木という人物を探して歩いていた。
資料は璃空に渡してしまったが、写真は記憶しているため、街を歩いていればそのうち見つかるだろう。
和希の任務も彩乃からの伝言を伝えるというだけの簡単な仕事である。
しかし、その伝言の内容が一波乱起こしそうな予感がして仕方がないのだ。
「お? おいおいおいおい。どっかで見たことあるやつがいると思えば、久しぶりじゃねえか、和希」
「えーっと……どうも」
そんなことを考えている和希を呼び止める声が聞こえる。
振り向いた和希の目に映ったのは、探していた写真の人物。
京都職人街の長、大國伊比木がそこに立っていた。




