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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第2章 鳥籠のコルリ
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初任務と目的地

 「はあ。よくもまあ、こんな辺鄙な山奥に住もうと思うよね。貴重な経験にはなるだろうけど、毎日毎日住むのはごめんだね」


 生い茂る草木を眺めながら、どこかの山道を歩く青年がいた。

 青年は本と紙袋を持っており、まるで友達の家に行くような足取りで険しい山道を平然と歩いていた。

 彼は、時折立ち止まり、珍しい植物や生物を見つけると、手に持っていた本に何かを記す。

 そんなことを繰り返しながら青年は山の奥へと進んでいく。

 奥に進むと、いつしか木々は活力を失い、生物は息絶え、大地は腐り果てていた。

 この世の終わりのような光景の先こそが、青年の目的地だった。

 そこは、かつて誰かが住んで、健やかな生活を育んでいたであろう村の成れの果てがあった。


 「さてさて。おーい、科哭(しななき)くーん。いるかーい?」


 崩れた建物の中を覗きながら目的の人物の名前を呼ぶ。

 しかし、返事が返ってくることはなかった。

 仕方がないので、青年はしらみつぶしに家の中を探しながら、科哭という名前を呼び続けた。

 すると、奥の廃墟、最も死の匂いが漂う場所からゾンビのように少女が這い出てくる。


 「お、いたいた。元気かい?」


 「……うるさい。……何の用?」


 「相変わらずの対応だなぁ。まあ、とりあえずケーキでも食べないかい?」


 迷惑そうな顔をしている科哭に、青年は持っていた紙袋から箱を取り出す。

 しばらくの沈黙の後、科哭はケーキの入った箱をひったくり中身を覗く。


 「……ショートケーキとかセンスない」


 「これは手厳しい」


 文句を言いながらもケーキに手を伸ばす姿に笑いながら、青年も腰を下ろしてケーキをつまみ出す。

 科哭は豪快にイチゴを頬張り、さらに青年のケーキのイチゴもするりと奪い取って、ようやく話をする気になった。


 「──それで、何の用?」


 「ああ。暴食、旺膳律瀬が死んだよ」


 青年の言葉に、科哭も何かしら思う所があったのか、食べる手を止め、青年の方にしっかりと顔を向けた。


 「……本当に言ってるの?」


 「本当だとも。僕の可愛い子供たちからの情報だ」


 「それが仮に事実だとして、私に何をさせようって言うの?」


 科哭は青年を非常に疑い深い表情で見ていた。

 こういう話を持ち掛けてきたときの青年は非常に信用できない。

 どうせ何か良からぬことを企んでいるに決まっているのだ。


 「少し僕の思惑に乗ってくれないかい?」


 「それに乗るメリットは?」


 その問いに、青年はわざとらしく考え込む仕草をする。

 ここに来る間に、自分を巻き込む算段は用意しているくせに。


 「そうだねぇ。暴食を倒した相手ともなれば、君の研究成果の実験台に丁度良いとは思わないかい? どうせ行き詰ってるんだろ?」


 「……ちっ。本当にむかつく。どうせ自分が記録したいだけのくせに」


 「あっはっは! その通り。僕は気になるんだよ。暴食を一撃で葬ったという鳴神璃空という少年のことがね」


 青年は自分の知らない新たな記録が生まれたことに心を躍らせていた。

 世界の全てを記すことこそが彼の本懐。

 そのために、青年は生きているのだ。


 「はあ……。まあいいや。ほんっっっっっとうに癪だけど、あんたの言う通りだし。手伝ってあげる」


 「君ならそう言ってくれると思ったよ」


 青年に図星を突かれた科哭は、分かりやすく嫌そうな顔をしながら、彼の思惑通り、彼に協力することを選ぶ羽目になった。

 せめてもの腹いせに科哭は青年のケーキも全て平らげたことで、少しだけ機嫌を直して、口を開いた。


 「それで、どういうプランなの?」


 「んー……まずはここから移動しようか。道中で話すよ」


 「はあ? どこに行く気? 距離次第では交渉決裂も辞さないけど」


 「大丈夫大丈夫。足は用意してるからね。さあ、行こうか」


 不満しか出てこない科哭を無理矢理連れて、青年は歩き出した。

 その後、目的地に着くまでの間、青年は科哭の口撃をずっと受け続けた。



 「俺の任務に一緒に? まあ人手は多い方が良いし、構わないけど」


 「よっし!! だって、鳴神くん!!」



 「う、うん……あんまりよく分かってないけど」


 ゾディアック本拠地。

 そこには、生き生きとした顔の玖遠灯里(くおんあかり)、面倒そうな顔をする高坂和希(こうさかかずき)

 そして話がよく分からないまま食傷兎のうーちゃんと呼ばれる灰色の兎を頭に乗せている鳴神(なるかみ)璃空(りく)と、三者三様の表情を浮かべていた。


 これは一か月前、璃空がセブンスの暴食、旺膳律瀬を撃破したことが事の発端だ。

 度重なる無茶に加えて、限界を超えた能力行使の代償に、璃空の視力が大幅に低下してしまった。

 生活にも支障が出るため、眼鏡が必要なのだが、今の璃空は指名手配犯も同然。

 そんな状態で堂々と外に買いに行けるわけもないと考えていると、何か考えがある灯里に引っ張られて、和希の元に来たという次第である。


 「じゃあ、まあ一応任務の確認だ」


 そう口にする和希の視線が、自分に向いていることに璃空はすぐに気が付いた。

 恐らく和希は話を理解できていない自分のために説明してくれているのだと理解し、心の中でお礼を言う。


 「目的地は京都職人街。そこで必要物資の補給と、街で匿われているらしい天霊を保護することが今回の任務の詳細だ」


 「京都職人街……?」


 聞き覚えの無い町の名前に、璃空は首を傾げる。


 「そう。その名前の通り、京都にある職人たちの住む街なんだけど、職人街と私たちは協力関係にあるの。犯罪者の私たちが唯一普通に出歩ける街ってわけ」


 二人の説明で璃空はようやく灯里が自信満々だったことに納得した。

 確かに、こういう組織には何かしらの後ろ盾があってもおかしくはない。

 ゾディアックの場合はそれが京都職人街だったと言うことだ。

 そして偶然にもそこに行く任務があったから、彼女はちょうどいい任務があったと言ったのだ。


 「まあ『百聞は一見に如かず』とも言うし、とりあえず行ってみよう。二人の出動許可は……事後承諾ということで」


 そう言いながら、和希は璃空と灯里の肩に触れようとする。


 「……?」


 その直前、璃空は自分の背後を振り返る。


 「鳴神くん……? どうしたの?」


 不思議そうな顔をする灯里の顔を視界の隅に入れながらも、璃空が見ているのは奥の薄暗い廊下だった。

 そこから自分を見ている視線を感じたのだ。

 璃空の頭の上でもぞもぞと動く感覚を感じながら、目を凝らして暗闇の中を凝視する。

 だが、璃空のぼやけた視界では、暗闇の中の誰かを捉えることは出来なかった。


 「……いや、何でもないよ。ごめん」


 「そう? ならいいけど……」


 だから、璃空はそれ以上、暗闇の中の誰かを探し続けようとしなかった。

 その裏で灯里と和希がやれやれといった表情をしているのを、璃空は見ていなかった。


 「じゃあ、改めて出発だ」


 気を取り直した和希が改めて二人の肩に手を置く。


 「さあ、鳴神くん。初めての任務の開始だよ」


 灯里の言葉を皮切りに、三人の姿がその場から消えた。


 「……」


 その様子を、暗闇の中の誰かは静かに見守っていたのだった。


第二章開幕です

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