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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第1章 泣き虫の雷星
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動き出した針

 「──以上が今回の事件の報告です」


 「ああ。座ってくれ」


 Orpheus本部、会議室。

 そこにはOrpheus全部隊の隊長たちが揃っていた。

 今日の議題は、ここ数日の事件に関する報告と今後の対処だった。


 人食い鬼と化した玉梓悠斗とそれを庇った鳴神璃空が第四部隊の前から逃亡。

 それから数日後、蓮天市内の廃ビルで、息絶えている玉梓悠斗が発見された。

 傷口から検出された霊力により、取り逃がしたはずの鳴神璃空による犯行だと判明する。

 その裏で、天霊化した唯月花梨の処理とそれを保護するために現れるであろうゾディアックの殲滅のために第零部隊が出動。

 予想通り現れた仮面の少年を、第零部隊の二名が追い詰める。

 しかし、現れた二人の天霊により、少年を奪われる。

 その裏で、唯月花梨を処理し、ゾディアックのメンバーである白蓮狂夜を追い詰めるも、再び現れた鳴神璃空とゾディアックのメンバーと思われる少女が出現。

 『十六ノ雷塔』と呼ばれる雷撃能力しか使用できないはずの鳴神璃空が氷の針を無数に発動させ、明星輝夜と篠宮沙織を足止めする。

 その瞬間、第零部隊の残り二名が取り逃がしたはずの少年がその場の三名を回収した。

 数日後、再び暴食を追っていた奏城が、首と胴が泣き別れしている男性の死体を発見。

 データの照合により、死体はセブンスの暴食・旺膳律瀬、それを行ったのが鳴神璃空だと判明した


 第零部隊隊長、明星輝夜の報告を聞き終えた隊長たちは、様々な反応を見せた。


 「ふーん……何かまた、面倒そうな事件拾ってきちゃったわね。輝夜君」


 事件の報告を受けて、輝夜に同情するようなコメントをする女性は第一部隊隊長、篝鹿夜(かがりかや)


 「ゾディアックか……。はあ……」


 「辛気臭い表情して、どうしたんですかー?」


 「いや、ちょっと個人的に、な」


 「あー! 例の許嫁さんですか!! 大変ですねー」


 「他人事みたいな返事をどうも」


 ゾディアックという言葉に反応し、辛気臭い表情をする男は第二部隊隊長、鈴見直輝(すずみなおき)

 そして、その正面で、適当に相槌を打つ可愛らしい少女は第三部隊隊長、佐伯紗愛(さえきさえ)


 「それでー、ずっと仏頂面してる奏城さんはどうしたんですか?」


 「あれだろ? 狙ってた暴食を、取り逃がした高校生に殺されたってのが響いてるんだろ」


 「──っ!!」


 鈴見と佐伯の軽口に、机を乱暴に叩き、怒りを露わにする第四部隊隊長、奏城鋼真。


 「ほらほら。あんたたち、いい加減にしなさいな。くっちゃべってたら会議が進まないでしょうが」


 そんな三人を仲裁するように、声を発したのは研究・開発部隊『デミウルゴス』主任、神裂水無子(かんざきみなこ)


 「神裂の言う通りだ。三人とも大人しくしてろ」


 そして、上座に座して全員の会話を黙って聞いていた全部隊統括大隊長、明星白夜が口を開く。

 鈴見と佐伯は不満そうに黙り、奏城も舌打ちをしながら座りなおした。


 「──っていうかさ、その鳴神璃空、だっけ? 雷撃を操る能力なのに氷使うって、実際可能なの?」


 場の雰囲気を切り替えるためか、それとも純粋に疑問に思ったのか。

 鈴見が神裂に向かって質問する。

 その問いに、神崎は少しだけ考えた後に答える。


 「100%無いとは言えないわ。実際、そういう記録がないこともないし。ただ、可能性はかなり低いわね」


 「どういう時にあるんですか?」


 「そうね。例えば……輸血したときとか? 血液と一緒に他人の霊力が流れ込んじゃった時に、親和性が高いと極稀に発生したりするわ。あとは、血の繋がりが濃い家族とかだとそういうこともあるわね。まあ、どちらにせよ、天霊レベルの強い霊力じゃないとそんなこと起きようがないけどね」


 そう言いながら、神崎は鳴神璃空に関する資料を表示して、指を差した。

 指し示した欄は家族構成に書かれた鳴神未空という名前。


 「彼の姉、鳴神未空は検死の結果、天霊になってから死亡してることが分かってる。もし、鳴神璃空が姉の死までに、霊力を与えられていたとしたら、納得は出来る」


 「要するに、推測の域を出ないってこと?」


 「……まあね☆」


 黙って神裂の説明を聞いていた鈴見の言葉に、彼女はウインクで答えた。

 ため息をつく鈴見に代わって、鹿夜が手を挙げながら発言する。


 「私も一つ気になることがあるんだけどいいかな?」


 鹿夜は周りの反応を伺い、全員が頷いたのを見て口を開いた。


 「報告にあった、灯魔と玲那の前に現れた天霊二体。一人は分からないけど、もう一人。黒いドレス、黒い羽、そして複数の霊力が混ざり合ったような特異な霊力。もしかして、これって『ブラックアリス』なんじゃない?」


 ブラックアリス。

 ゾディアック、セブンスと並ぶ最悪の異能犯罪者。

 多くの人間の能力を奪い、暴虐の限りを尽くす天霊であり、神出鬼没ゆえに今に至るまで誰にも摑まることがなかった。

 それが今姿を現したことは偶然なのだろうか。


 「それが本当なら、一番危険度の高い異能犯罪者たちが一斉に動き出したってことですよね? うわー……」


 佐伯は現状を簡潔に表現し、露骨に嫌そうな顔をし、ため息をつく。

 言葉にはしないが、正面の鈴見も同じような表情を浮かべていた。

 誰も口にしなければ、顔にも出さないことを二人は平然と表現する姿に、残りの者はため息をついた。


 「さて、もう聞きたいことはないな?」


 白夜の言葉に、その場は静寂に包まれる。

 一人だけ不機嫌そうな顔をしているのが目に留まるが、気にせず話を進める。


 「なら、今後の方針について話を進めようか。鳴神璃空の行動によって、ゾディアック、セブンス、ブラックアリスが表立って同時に動き始めた。これは恐らく歴史上でも最悪の事態になるだろう。本来なら、天霊が関わる事態は全て第零部隊に一任していた」


 白夜と輝夜は目を合わせる。

 父であり、上司である白夜の言わんとすることを理解した輝夜は静かに頷いた。

 彼の提案は輝夜の望むところでもあったからだ。


 「だが、この未曾有の事態に、そんな通例にこだわる気はない。──よって、今回の事件、Orpheus総員で対処することとする!」


 その決定に、隊長たちはそれぞれの反応を見せた。

 やれやれと言った表情を浮かべるもの、全力で嫌そうな顔をするもの、面倒そうな表情をする者に、やる気を漲らせるもの、そんな四人の反応を見ているもの。


 「色々な可能性を想定してたが、どうやら杞憂だったみたいだな。頼んだぞお前たち」


 そんな全員の反応に満足そうな表情を浮かべた白夜は、会議の終了を告げた。



 「終わりましたか」


 「ああ、待たせて悪かったな。真白(ましろ)


 全員が退室し、白夜しかいなくなった会議室。

 白夜の背後の空間が揺らぎ、黒いローブに身を包み、仮面で顔を隠した一人の少女が現れる。

 彼女の名前は甲賀真白(こうがましろ)。Orpheus諜報部隊『フレースヴェルグ』の隊長だ。

 真白は自分の方に振り返った白夜に、淡々と伝言を伝える。


 「流転様から言伝です。唯月花梨の死によって十二ノ(オリュンポス)の一振りは完成した。これより、四本目の十二ノ塔を破壊する、とのことです」


 「──そうか。分かった。総帥にも伝えておいてくれ」


 「かしこまりました。それでは」


 用が済んだ真白は、再び背景に溶け込み消えていった。

 相変わらず便利な能力だと呟く白夜は、窓の外を見て、世界が軋みひび割れる感覚を感じるのだった。



 「……」


 そんな世界が少し変わろうとしている裏で、第零部隊に所属する玲那は部屋の中で膝を抱えていた。

 机の上には、乱雑に投げられたようにネックレスが置かれていた。

 玲那の脳裏に浮かぶのはつい先日の戦いでの出来事。

 黒い少女の介入で、ゾディアックのメンバーを取り逃したあと、玲那ともう一人の少年、篝灯魔(かがりとうま)は急いで輝夜と沙織の元に駆け付けた。

 たどり着いた玲那が見たのは、先ほどの少年が、その場にいた全員を連れて消え去る瞬間だった。

 そして、その瞬間、フードを被った少女の胸に、煌めくネックレスを見たのだ。


 「あのネックレスは……間違いない……。やっと、見つけたんだ」


 玲那は机の上のネックレスを睨みつけて呟いた。

 無意識のうちに膝を抱える両腕に力が入る。


 「今度は逃がさないから。──お姉ちゃん」


 彼女の運命が変わった日の光景を思い浮かべながら、玖遠玲那(くおんれいな)は決意を新たにした。




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