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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第1章 泣き虫の雷星
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もう一つの結末

 璃空が花梨の元にたどり着く少し前の話。

 ビルの上での戦いも熾烈を極めていた。

 高坂和希はひび割れた仮面から覗かせた瞳で、立ちはだかる二人の能力を分析していた。

 この場の霊力を封じている少女は、恐らく和希と同じ空間支配の能力なのだろう。

 効果範囲がどれほどか分からないが、能力が及ぶ範囲が狭い代わりに、彼女が存在する一定空間内のルールを定めることが出来る非常に強力な能力になっていると思われる。

 逆に言えば、その範囲から素早く逃げ出せば、和希は再び能力を使えるようになる。

 だが、それを阻止しているのがもう一人の青年だった。

 青年が展開しているであろう目に見えない壁が、この場から逃げ出すことを禁じている。

 この状況をどうにかしなければと、打開策を考えようとする和希。

 そんな彼の耳に発砲音が聞こえ、和希はすんでのところで弾丸を回避しようとする。

 しかし、身体強化の使えない状態で、弾丸を回避しきれるはずもなく、和希の頬を弾丸が抉っていく。


 「っとぉ!! 人が考え事してる時に容赦ねえな!!」


 「俺たちを前にして考え事なんて、ちょっとなめすぎじゃないの?」


 「一瞬でも気を抜いたら死にますよ?」


 そして、激痛に身体がよろめいた和希の懐に、少女が潜り込み、刀を振り上げるように一閃した。

 身体をひねりながらギリギリで後ろに飛び退くものの、またしても避けきれず傷を負っていく。


 異能者同士の戦いにおいて、異能者たちは無意識のうちに身体強化を使用して戦うことが多い。

 言い換えれば、異能者の多くは身体強化に依存した戦いをしていると言うことである。

 それが奪われれば、戦い方が変わり、多少なりとも戸惑うはずだ。


 反対に、Orpheusの隊員たちは、霊装を扱うことを考え、身体能力向上のための訓練を受けている。

 さらに、第零部隊は天霊という超常の存在との戦いにおいては不測の事態が発生する状況が容易に考えられる。

 そのため、異能が使えない状態などを想定した過酷な訓練を行っている。


 そんな相手を前にして、和希が最も厄介だと感じたのは、純粋な戦闘能力よりも、二人のコンビネーションだ。

 互いの一手を次の一手へと繋げ、味方の危機をさらなる一手に変え、勝利にたどり着くスキルが段違いなのだ。

 これは互いのことを知りつくし、信頼しきっていなければ不可能な技だった。


 「マジでついてねえな……!!」


 和希は文句を言いながら、生き残るため必死で戦う。

 それでも、息が上がり、傷は増え、足がもつれ、追い詰められていく。

 そして、和希が立ち上がれなくなるまでにそう長い時間はかからなかった。


 「くっ……あ……」


 「おいおい、もうやめとけって。それ以上戦えば、あんた間違いなく死ぬぜ?」


 地面に這いつくばり、力が這いあらない腕で立ち上がろうとする和希を、青年は銃口を向けながら諭す。

 実際、ゾディアックの一員である和希を見逃すことは出来ないが、天霊でない以上、命を奪う気はなかった。

 もちろん、これ以上抵抗せず、大人しくゾディアックの本拠地を教えてくれるのであればの話だが。


 「ぅああぁ……あああっ!!!」


 そして、和希はそんな話に耳を貸す気はなかった。

 我が身欲しさに、仲間を売るようなやつはここで生き残っても意味なんてない。

 例え、今死ぬとしても、仲間を売る気は和希にはなかった。


 「そう。それがあなたの選択なんですね」


 和希の立ち上がろうとする悪あがきを、青年の問いへの解答だと受け取った少女は和希に近寄り、刀を向ける。

 瞳に映る切っ先を見て、和希は自身の死を悟った。

 まともに立ち上がることも出来なければ、避ける体力も残っていない。

 刀が振り下ろされたら最後、和希にはどうすることも出来ない。


 「(悪い、みんな……先に逝くわ……)」


 和希が諦め、目を閉じたその時、鈴の音と共に、その場に聞いたことのない声が響き渡る。


 「そこのあなた。悪魔の契約に興味はない?」


 意味の分からない台詞。

 その場にいた三人は声のした方に目線を向ける。

 そこには黒いドレスに身を包み、緩くウェーブのかかった長い髪を二つ分けで結んでいる少女がにっこりと笑って立っていた。


 見知らぬ少女の登場に、和希は敵である二人の顔を見る。

 もしかして、敵の増援なのではないかと疑ったからだ。

 しかし、その二人も同じような視線を和希に向けていた。

 この場の誰も知らない第三者の介入に全員が戸惑っていた。

 場違いな少女の存在と底知れぬ異様な霊力に三人は背筋がゾッと震える。

 まるでいくつもの人間の霊力が混ざり合ってるような、そんな霊力を放っていた。


 「君。この街には避難勧告が出てるはずです。急いでここから──」


 「そんなのこの街の人間じゃない私には関係ないわ。それに、あなたたちには話を聞いてないし」


 少女に対する感情を押し殺して、黒い少女をこの場から立ち去らせようとする少女の言葉を遮って、黒い少女は再び和希に視線を戻した。


 「私が用があるのはそこのボロボロで血まみれな男の子。ねえ、私と契約する? しない?」


 和希は黒い少女が何を考えているのか全く分からず、完全に硬直してしまう。

 ただ、黒い少女の全てが自分を試しているように感じ、この質問にどう答えるかで、自分の運命が確定的に変わると直感した。

 普段なら慎重に考えてから返答するような問いだが、朦朧とした意識ではまともに思考することも出来ず、黒い少女に魅入られるように静かに頷いてしまった。


 「ふふっ。あはは。ひゃはははははははははは!!! 契約成立ね」


 和希の返答に黒い少女は狂ったような笑いを響かせると、指を鳴らす。

 すると、何が起きたのか。

 ガラスが割れるような音が和希や敵二人の耳に響き、気が付くと獰猛な牙を覗かせた一人の少年が出現していた。


 「なっ!? 俺の障壁が……!!」


 「どういうこと!?」


 いつの間にか現れたもう一人の少年と、完全に崩れ去る障壁。

 目の前で起きた現象に驚愕していると、さらに二人の目を疑うような事態が起きる。

 先ほどまで二人が追い詰めていた和希が姿を消したのだ。

 さらに、その少年の両腕には黒い翼が生えていた。

 普通の人間には考えられない特徴。それが意味することは、目の前の少年が天霊であると言うことだ。


 「っ!? え? な、何が……」


 「玲那(れいな)、向こうだ!!」


 刀を持っていた少女・玲那は、青年が指し示した方角を向く。

 そこには、黒い少女と和希を抱えたもう一人の少女がいた。


 「やっぱりあなたたちもゾディアックの一員……仲間を助けに来たんですか……!?」


 「彼の反応を見れば仲間じゃないって分かるでしょ。私が目を付けたのは彼の能力」


 そう言いながら、黒い少女は和希に触れる。

 彼女の行為に何か危険な予感がした玲那は、霊力が使えない空間に引きずり込むために、能力を使用しながら距離を詰める。

 玲那の能力はほぼ和希の推測通りだった。

 少し違ったのは、玲那の能力が及ぶ範囲は彼女を中心とした空間、つまり、範囲外に逃げられたら彼女が移動して範囲に引きずり込むしかなかった。

 そんな玲那の行動を支援するように青年も障壁を再び展開し、逃げ場を塞ぐ。

 だが、少年と少女は玲那が近づいてきた時点で後ろに大きく飛び退き、障壁が展開された瞬間、獰猛な少年が獣のような腕で壁を叩き壊した。

 その二人の行動に、玲那は自身の能力の範囲が見抜かれているのではないかと焦る。


 「これで、目的達成ね」


 焦る玲那と動揺する青年を嘲笑いながら、黒い少女は和希に触れる。

 同時に、黒い少女の背中から、隣にいる少年よりもどす黒い翼が出現する。


 「天霊が……二人……!?」


 「黒い少女……天霊……まさか……」


 「余計な発言は寿命を縮めるわよ?」


 青年が少女の正体に少しだけ感づいたことに気が付いた少女は、足につけていたホルスターから銃を取り出して青年に突き付ける。

 その間に、少女の羽根が消え去り、少女は銃を元の場所にしまった。


 「では、さようなら」


 少女はそのまま獰猛な少年とボロボロの和希を連れてその場から姿を消した。

 こうしてもう一つの戦いも幕を閉じるのだった。


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