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リバース・ジョーカー  作者: 遥華 彼方
第1章 泣き虫の雷星
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暗雲立ち込める

 降りしきる雨の中を必死に走る花梨。

 それを少し離れたビルの上から双眼鏡で覗く少年がいた。

 彼の名前は高坂和希(こうさかかずき)。灯里や鏡夜と同じゾディアックの一員だ。


 「連絡を受けてきてみれば、一足遅かったんじゃねえの、これ?」


 リーダーからの連絡を受けて来てみた和希は、現在の状況がかなり危機的な状況だと感じた。


 「それにあの子って確か……」


 後ろを気にしながら走っている少女はどこかで見覚えがあった。

 じっと見てみると、それは鏡夜がいつか紹介してくれた同級生だった。


 「とりあえず、鏡夜に連絡してから助けるとしますか」


 和希は仮面を被って眼下の少女を見下ろしながら携帯を取り出す。

 彼女を追って来ているOrpheusの人間もまだ追いつきそうにない。

 自分の能力があれば十分間に合う計算だった。

 和希の能力は、全ての空間を自由自在に支配し、操作する『盤上ノ(ゲーム・メイカー)』。

 ゾディアックは神出鬼没で追跡不可能と言われているが、それは和希の能力によるところが大きい。

 だから、今回もサクッと花梨を救出して、離脱できるはずだった。

 しかし、その計算はすぐに狂い、事態は最悪な方向に転がることになる。

 

 連絡を終え、携帯をしまおうとした和希の耳に響く発砲音。

 音のした方向に視線を動かすと、自身を狙う弾丸の軌道が視界に映る。

 咄嗟に能力を使用して回避しようとするが、何故か能力が発動せず、弾丸は和希の身体を貫き、携帯も吹き飛ばされる。


 「がっ……な、何で、能力が……!!」


 「──やっぱり。ゾディアックには優秀な脚がいることは分かっていました。ようやく捕まえられます」


 傷口を押さえよろめきながら、能力が使えなかったことに困惑する和希。

 そんな彼にOrpheusの隊服を着た少女は銃口を突きつけて立っており、和希を挟み撃ちにするようにもう一人の隊員が姿を現した。


 「残念ながら、ゲームオーバーだ。諦めな」


 「……悪い、みんな。ちょっとドジ踏んじまったわ」


 知らぬ間に絶体絶命の状況に陥ってしまった和希は苦笑いを浮かべるしかなかった。



 街の中を必死で走る花梨。

 自分がどこに向かおうとしているのかなんて一切分かっていない。

 とにかく遠くに逃げなければ殺される。

 そのことだけを考えながら走っていた。

 これだけ走れば逃げ切れたのではないかと思い、背後を振り返る。


 「……え?」


 背後には誰もいなかった。

 沙織も、あの爽やかな青年も追いかけてきていなかった。

 その代わり、複数の炎の犬が花梨の背後に迫って来ていた。

 花梨にはそれが沙織の能力『崩滅ノ灼天(ヴァナルガンド)』で生み出したものであることがすぐに分かった。

 改めて沙織が自分のことを殺す気でいることを実感した花梨は息を飲んで、どちらに逃げればいいか悩みながら前を向いた。


 しかし、花梨の足がそれ以上前に進むことはなかった。

 正確には進めなかった。

 何故なら、目の前にはいつの間にか輝夜が現れており、彼の持つ剣が花梨の心臓を貫いていたからだ。

 あまりにも一瞬の出来事で、痛みを感じる暇すらなかった。

 剣が抜き取られ、零れ出た鮮血が、足元を赤く染めていく。

 世界が白く色褪せ、手足の感覚が無くなっていく。

 先ほどまで聞こえていた雨の音もどこか遠くに離れていった。

 微かに背後から足音が聞こえてきたような気がしたが、それを確かめることは叶わなかった。


 「(ああ……私死ぬんだ……)」


 花梨は迫りくる死にどうすることも出来ず、抵抗虚しく意識を手放してしまう。

 闇の中に沈む花梨が最後に思い浮かべたのは璃空の悲しそうな顔だった。



 「クソっ! 間に合ってくれよ!!」


 灯里への連絡を終えた鏡夜は降り注ぐ雨をかき分け、建物から建物へと飛び移りながら、目的の場所へ急いでいた。

 花梨が天霊になっており、Orpheusに狙われているという情報に加え、和希からの連絡も途絶えた。

 さらには璃空が人食い鬼になった悠斗を手にかけたという事実が鏡夜に重くのしかかる。

 しかし、鏡夜は足を止めずに走り続けた。

 一歩でも足を止めれば、それは決定的なタイムロスになる。

 そうすれば花梨を助けることは叶わないだろう。

 それほどまでに、Orpheus第零部隊は、天霊を相手にし続けてきた異能者は圧倒的な実力を持っている。


 「俺も無事じゃすまないだろうな……」


 自分が今からしようとしていることの無謀さを考えると、自然と自虐的な笑みがこぼれてしまう。

 無茶で無謀かもしれないが、不可能ではない。

 鏡夜はこれ以上、璃空の大事なものが失われるのは嫌だった。

それほどまでに鏡夜にとって璃空は大事な存在のうちの一人になっていたのだ。


 「見つけた……!!」


 程なくして、鏡夜は和希が送ってきた地点からかなり離れた地点で大きな霊力の反応を捕えた。

 一つは沙織の霊力、もう一つは変質しているが間違いなく花梨の霊力だった。

 風を纏った鏡夜は、一気に地面を蹴って空中に飛び上がり、目的地に急降下した。

 

 そこで鏡夜が見たのは、辺り一帯に広がる血だまりと髪色が白く変色した花梨の姿だった。


今回はかなり短めにしています。その分次回は話を大きく進められたらなって感じです

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