必ず助けるからね
夏のホラー2019の企画、第二作です。
「長かった……」
ここまでくるのに何年かかっただろうか?
大門総合病院、と読める金属の文字が、やたら立派な建物の上に飾られている。
まるで来る者を品定めするかのように。
「大丈夫、大丈夫だ……」
自分へと言い聞かせる三十路の男の姿があった。
なんでも、ここの院長は心臓病治療のエキスパートだとうわさされている。
そして彼の娘は心臓病だ。
先天性の疾患で、移植を要する、とのこと。
だからあちこちの病院を転々としていたが、でも効果的な治療には至らなかった。
当たり前だが、臓器移植が必要なのだから。
つまり代わりとなる健康な心臓が。
『あの子心臓病なんだよ、かわいそうだから、あなたの心臓をあげたら?』
なんてことを、普通の神経をしていたら言えるわけがない。
献血だってためらう人が多い中で、ましてや唯一無二の心臓を誰かにあげるなど、それこそ死なないと無理だ。
しかし、しかしだ。
その苦難の日々も、これで終わる。
かすかだが希望の光が差し込むのを感じていた。
【こころちゃんを救う会】を立ち上げたところ、多くの寄付が集まり、ここ大門総合病院へと娘を入院させることができたのだから。
この日は明日の朝に手術をひかえ、不安であろう幼い娘を励ますべく面会に来たのだ。
廊下を登っていけば、五階の娘の病室へといたる。
病室の窓から見る景色はなかなか見晴らしがいい。
娘の寝かされているベッドは、まどぎわの一番見晴らしのよい位置にある。
何より不安だろう患者を落ち着かせるためだろう。
入り口から顔をのぞかせると、娘の声がした。
「あ、パパ!」
普段は耳の横で二つに結っている髪を下ろした娘の姿が目に飛び込む。
564号室は、つまり彼の娘の病室は、何もかも真っ白だった。
壁も床も天井も、パイプベッドに敷かれたシーツも、仕切るパーティションも。
もちろんだが、ナースたちも真っ白の服を着ている。
まさに白衣の天使に思えてならなかった。
ナースたちの朗らかな、安心を与える笑顔が彼らを包みこむ。
ついでベッドから起き上がった彼の娘が、ひしっと彼へと抱きつき、うるうるとした瞳が彼をのぞきこんだ。
「わたし、どうなるの?」
彼の娘は、とっても不安げなようすだった。
心細いのだろう。
当たり前だ。
彼女はまだ十にも満たないのだから。
それにずっと病院をたらい回しにされてきた。
今度もさじを投げられるのではないか、そんな不安も確かにあった。
だが、ここで娘を不安にさせてはいけないのだ。
「先生はこれまで手術に失敗されたことがないんだよ」
待合室に飾られた、重度の心疾患をわずらっていた少女が、今では元気に外を走り回る写真。
ようやく授かった自分の子供が治療を受け、それに感謝してもしきれないという両親からの手紙が来院者を歓迎する。
「でも……」
娘の不安も分かる。
自分だって不安はあるのだ。
が、院長の、大門先生の言葉を思い出し、それを娘へと告げた。
それは力強い口調だった。
「先生はこころを、必ず助けるからねっておっしゃってたよ」
医者の、それも名の通った院長自身の言葉は、底知れぬ不安にもがく患者に、多大なる勇気を与える。
「でもパパ……」
瞳をうるませる娘の口に指を当て、彼は微笑んでから告げた。
「幸運にも新鮮な子どもの心臓が手に入る予定だって」
脳死の方が臓器を摘出される時に暴れる、という話は聞いたことがあります。
真相は知りませんが。




