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悪魔の守り人  作者: ロッドユール
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戻ったはずの日常

 八雲は一人大学の校内の廊下を歩いていた。あの日以来、いつしか八雲は泰造たち、仲間からも浮いた存在になっていた。八雲は泰造たちから精神異常者と思われていたし、八雲は八雲で、仲間に理解してもらえない、苛立ちを感じていた。いつも何をするにも一緒にいた五人だったが、次第に、つき合う回数も減り、一緒にいる時間も減り、八雲は一人でいることが多くなっていた。

 奇怪な行動をとった八雲は他の学生たちからも、奇異な目で見られていた。八雲が廊下を歩くと、そんな視線があちこちから八雲を捉えた。

 しかし、そんな視線も気にならないほど、廊下を歩く八雲の意識は呆けていた。

「俺は・・」

 八雲は、自分で自分が分からなくなっていた。何を信じていいのかが分からなかった。自分の信じていることを信じていいのかも分からなくなっていた。自分という存在が堪らなく不安で不安定だった。

 八雲が廊下を歩いていると、丁度そこに講義の終わった学生たちが大勢ぞろぞろと廊下に出て来た。そして、廊下はあっという間に人でごった返す。その時、八雲は、ふと何か違う特別な視線を感じて振り返った。そこに何か見知った顔を一瞬見た。

「あっ」

 廊下の人混みの中にいつかが立っているのが見えた。学生たちのごった返す中に、いつかが立っていた。

「いつか」

 八雲は慌てて駆け寄ろうと向きを変え、学生の溢れる人混みにぶつかるように走り出した。しかし、いつかはそれと同時にというか、それよりも早く向きを変えると、八雲に背を向けるような形で、そのまま学生たちの人混みの中に消えるように歩いて行ってしまう。

「いつかぁ」

 八雲はその背中に叫んだ。何人かの学生が八雲を見た。八雲はそんな視線を無視していつかを追いかけた。しかし、上手く進めない人混みの中、追えども追えどもいつかに追いつくことができない。

「いつかぁ」

 見失いそうになるいつかのその背中に、再び八雲は叫んだ。しかし、いつかが振り返ることはなかった。結局、いつかに追いつけないまま、いつかは人混みの中に消えるように見えなくなってしまった。

「・・・」

 八雲はしばらく、人がぶつかっていくのも構わず、廊下の真ん中に呆然と突っ立ち、いつかの去って行った人混みを見つめていた。

「・・・」

 だが、しばらくして、八雲はまた、向きを変え力なく歩き出した。

「結局あれも俺の作り出した幻なのか・・」

 八雲は、自分に言い聞かせるように、そう力なく呟いた。


 日々はたんたんと過ぎていた。八雲は相変わらず一人だったが、何事もなく、当たり前の日常がそこにあった。あの時、エメラルダスから必死で逃げていたあの時、八雲が望んでいたはずの平和な日常がそこにあった・・。

 しかし、八雲は、気の抜けた意識で今日も大学にいた。講義を聞いていても、まったく上の空だった。何をしても虚しさしかなかった。何かふわふわと実感の薄い霧の中を生きているような、そんな感覚だった。

 八雲は、それでもそんな平和な日常を生きようとした。しかし、それを生きるにはあまりに残った記憶にリアリティーがあり過ぎた。

「いつか・・、エメラルダス・・」

 確かな実在感があった。二人が存在しないなんて、どうしても信じられなかった。本当にあれが幻だったなんて、どうしても信じられなかった。

 しかし、だからといって八雲に何ができるわけでもなかった。八雲を信じる者は誰もいなかったし、八雲自身ももう、自分を信じられないでいた――。

 八雲がなんてことないいつもの大学内での日常の中で、次の講義のため、一人廊下を歩いていた時だった。

「ん?」

 八雲は、背負ったバックの中で突然、何か熱のようなものを感じた。

「なんだ?」

 八雲がバックを下ろし、中を見ようとしたその時だった。バックが内側から赤く光っているのが見えた。

「なんだこれ」

 八雲は驚き、慌ててバックのジッパーを開け、中を覗いた。

「あっ」

 それは布にくるんでバックの底に入れていた七支刀だった。それが、赤く光っていた。

「そうか、これを老師にもらって・・」

 八雲は完全に七支刀の存在を忘れていた。

「そうか。これがあったんだ」

 これがあるということは・・。八雲は、七支刀を握り立ち上がった。

「おいっ」

 その時、突然背後で声を掛けられた。八雲が振り返ると、泰造がいつにない真剣な表情で立っていた。

「話があるんだ」

「今はそれどころじゃないんだ」

 八雲は行こうとする。

「待てよ」

 泰造がそんな八雲の腕を掴み、とめる。

「離せよ」

 あれほど仲のよかった泰造とも、純に絡んで投げ飛ばされたあの日から、なんだか気まずい関係になっていた。

「みんな心配してるんだ」

「ほっといてくれ」

 八雲はそのままその場を去ろうとした。

「俺たちの友情はそんなもんなのか」

 泰造がそんな八雲の背中に静かに言った。八雲が足をとめる。

「昔みたいに・・」

 泰造が言いかけた、その時だった。

「な、なんだ?」

 その時、天井が崩れるようなバカでかい音が校内に響き渡り、校舎が大きく揺れた。八雲が天井を見上げる。

「な、なんだ」

 泰造も天井を見上げた。

「エメラルダスだ」

 八雲が叫んだ。それがなぜか八雲には分かった。

「うわっ」

 そして、八雲が叫ぶのと同時に、大地も大きく揺れた。

「エメラルダス?お前まだ・・」

 激しい揺れの中、立っているのもおぼつかない泰造が、そう問い返すか否か、八雲はもう走り始めていた。

「お、おい」

「ついて来るな」

 八雲は叫んだ。八雲は泰造たちを巻き込みたくなかった。八雲は揺れる廊下を一人走った。

「ついに始まったんだ」

 何かが、何かが動き始めている。八雲はそれを肌でビシビシと感じていた。

「また、始まったんだ」

 八雲は走りながら、また、何かものすごく異常なことが起こり始めていると思った。

「何か決定的な何かが始まろうとしている」

 八雲はなぜか確信的にそれが分かった。

「やっぱり、やっぱり」

 八雲は興奮する自分を抑えられなった。何か自分の中にあったモヤモヤが晴れていくのを感じた。

「エメラルダス!」

 八雲は走りながら一人叫んだ。

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