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THIRD TIME PART Ⅳ

 それから三十分ほどでシャワーを終えたあおいと入れ替わって葛城がシャワールームに入る。彼に声を掛けられるまで絶望の淵にいたにも関わらず、今は久し振りに味わう解放感に気分も少しずつほぐれていく。


 結婚してからまともな外出をしていない。どこへ行くにも家族と一緒、一人で出掛けるのも近所のスーパー以外許されていなかった。


 ‎今は姑に追い出された末での事態ではあるのだが、こうして外泊が出来ている事にウキウキしてしまう。その気持ちを少しでも鎮めたくて、閉められたカーテンを少し開けて真夜中の景色を眺めていた。中途半端に都市化されたこの街の夜景が世界三大夜景に負けずとも劣らぬ絶景に見える。


「如何なさいましたか?」


 シャワーを終えた葛城がホテルの寝巻き姿で部屋に戻ってきていた。彼女は慌ててカーテンをざっと閉め、何でもありませんと誤魔化して元いたベッドに座り直す。


 葛城は家の事を案じているのだろうと深く追求はしなかった。いくら家庭内の折り合いが悪くとも、子供が気がかりなのは当然の事だろうと。そう考えればこの選択は間違いだったのかもと少しばかりの後悔もある。


「私、こうして外泊する事自体久し振りなんです。入籍の時点で子供がいましたので、新婚旅行にも行ってなくて」


「そうなんですか?」


「えぇ。夫と交際するようになってから外出も限られてまして、不謹慎を承知で申し上げますと今すごく解放された気分なんです」


 あおいはそう言って自嘲する。てっきり家の心配をしていると思い込んでいた葛城は、予想とはほぼ真逆な本音を吐き出す彼女に何の言葉も掛けられない。


「薄情な母親ですよね、息子の風邪薬すらまともに買えやしない。いつからこうなってしまったんでしょうね、独身の頃はもう少し何でも出来ていたはずなのに」


「こんな真夜中に薬を買うのは無理です。差し出がましい事を伺いますが、生活そのものに制限をかけられていませんか?」


 その言葉を受け結婚してからの自分自身を思い返すと、交友関係、外出、食べるもの、お洒落、趣味志向……あらゆる事に口を出されてこれまで大好きだったものまで遠退いている状態だ。


『そうすれば君はもっと素敵になれるよ』


 夫のその言葉に絆されてきたことに加え、施設育ちの孤児が良家の玉の輿婚に乗れた周囲への罪悪感もあって、夫の好みに合う女になれば誰からも認めてもらえると従ってきた節がどこかにあった。


「……」


「すみません、差し出がましい事を伺ってしまいました」


 葛城はおもむろに絆創膏の箱を手に取り立ち上がる。さっき買ってたけど怪我をしている様子は無いのに何故? と不思議に思っていた。


 彼はベッドに座っているあおいの前でしゃがみ、中から数枚取り出してから若干赤くなっている足に大きな手を伸ばしてきた。


「少し足を看せてください」


「えっ?」


「靴ずれ、おこされてますよね?」


 そう指摘され、忘れていた軽い痛みが蘇ってくるのを感じる。葛城は長い指で個包装をはがし、患部に一枚一枚丁寧に貼り付ける。あおいはそれをじっと見下ろしながら夫に抱くものとは明らかに違うときめきを感じていた。


 それを悟られたくなくて何度か足を引っ込めようと試みたが、どこか委ねていたい気持ちもあってか結局はされるがままとなる。


「ありがとう、ございます」


 あおいは顔の火照りを自覚して顔をまともに上げられなかった。いえ、葛城はそんな彼女を微笑ましく見つめながら空いているベッドに向き合うような形で腰を落とす。


 そんな彼もまた詩織以外の女性とこうして過ごす事に新鮮味を覚えていた。ただ思考の中心には妻がいて、明日はなるべく早く帰ろうと掛け布団に脚を入れる。


「そろそろ休みますか」


「そうですね。電気はどうなさいます?」


 あおいは普段暗くしないと眠れない夫に合わせているのだが、実際は多少の灯りは残しておきたいタイプだった。


「仕事柄時間関係無く呼び出されるので多少の灯りは残しますが、あなたのご都合の良い方で構いませんよ」


 あおいは照明を最弱まで抑えた状態に調節し、眠気はさほど無かったが相手に合わせるよう布団に潜り込んで目を閉じた。

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