THIRD TIME PART Ⅲ
「少しお待ちください」
葛城はあおいから離れ、ケータイを鞄から取り出すとどこかに通話を始める。あおいもケータイを持っていれば夫か大倉るりに連絡をするところなのだが、生憎手元にそれは無い。
コンクリートで固められている地面にぺたんと座ったまま葛城の通話が終わるのを待っていると、何故か安堵した表情で通話を切った葛城が戻ってきた。
「あの、ご家族にご連絡は?」
「いえ、自宅に置いてきてしまいまして」
「番号を覚えていらっしゃるのであればお貸しします」
厚意としてケータイを差し出されるも、あおいの記憶にあるのは大倉のもののみだった。しかし深夜帯ということもあり、変な心配をかけたくないと首を横に振る。
「実はこの後駅近くのホテルに宿泊するんです。都合上ツインルームを押さえてまして、お嫌でなければ相部屋、しませんか?」
「えっ?あっ相部屋?」
彼女は思わぬ誘いに慌ててしまう。
「確認も取らず勝手な事をしてすみません。大して知らない男と相部屋だなんて」
「いえ」
あおいはふと葛城の左手薬指を気にかける。自身の左手薬指にはめられているものと似たような指環がキラリと光っていたことで既婚者であることを確認したが、自分たちの並びがどう見ても夫婦に見えないだろうと思うと何となく気持ちがざわつくのを感じていた。
「すみません、先に申し上げるべきでした。女性お一人でひと晩外というのは危険だと思ったので」
彼の取った行動は軽率とも言えるかもしれないが、何処も行く宛が無く途方に暮れていたあおいにとっては渡りに船と言える。彼女の脳裏に浮かんだ言葉は『助かった』であり、それ以上深くは考えていなかった。
「本当に、宜しいんでしょうか?」
「その方が安全です」
葛城はあおいの前でしゃがむと、立てますか?と大きな手を差し出してきた。はい。多少のためらいはあったが、そっと自身の手を置くとぐっと握り返されてドキリとする。
「歩けますか? 必要であれば抱えますよ」
「いえ大丈夫です! ちゃんと歩けます!」
それはさすがに恥ずかしい、とばかり赤面するあおいを見た葛城はついクスッと笑ってしまう。
「ではゆっくり行きましょう」
二人は手を繋いだ状態のまま、駅に向けて歩き出した。
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二人は先にコンビニに立ち寄り、弁当と下着を購入してからホテルにチェックインを済ませてツインルームに入る。
「まずは食事にしましょう」
葛城はあおいの分である親子丼とペットボトルのお茶を差し出した。一方の彼女は休める場所を確保出来たことにホッとして、早速疲れた体をベッドに預けてしまっている。
「あ、ありがとうございます」
「お疲れだとは思いますが、お腹を満たしておいた方が良いですよ」
「すみません、何から何まで」
疲労で重くなっている体を何とか起こし、親子丼とお茶を受け取ったあおいは葛城に向け頭を下げる。
「困った時はお互い様です。今考え事をするのはやめましょう」
彼はそう言ってからいただきます、とチキンカツ弁当に箸を入れる。あおいもそれに呼応するかのように手を合わせ、久しぶりに食べるコンビニ弁当を口に入れた。
食事の間はほぼ無言だった。葛城の場合は妻の手料理が大好きという理由で、あおいの場合は夫に制限されていたという理由でジャンクフードを食することがほとんど無い。しかし空腹も手伝ってなのか、はたまた誰家とともにする食事なのか、この日のコンビニ弁当はいつになく美味しく感じられた。
二人はあっという間に完食し、緑茶を飲んでほっと一息つく。何から何までしてもらっている事に気が引けたあおいは、せめてもの礼にと立ち上がって弁当の容器を片付ける。
「立ち上がったついでですから、先に風呂を使ってください」
「えっ? 私後でもいいんですが」
「先に連絡しておきたいところがあるんです」
「そういう事でしたら遠慮なく」
あおいは葛城に買ってもらった下着を手に取りシャワールームに入る。葛城はそれを見てからバッグからケータイを取り出し、もう寝ているかもしれない妻に近況をメールで報告しておいた。




