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SECOND TIME PART Ⅱ

 あおいはその後無事に男の子を出産した。それを機に朝比奈の実家で義母との同居が始まったのだが、事あるごとに揚げ足を取られる上に息子拓海(たくみ)をまともに抱くことすら叶わない。親友である大倉るりと会う機会もほとんど無くなり、どうにか夫と義母の目を盗んでメールのやり取りをするのがやっとだった。


 夫は夫で彼女の行動範囲や交友関係を制限した。かつて勤めていた会社も本当は続けたかったのだが、子供には母親の愛情が必要不可欠だと退職を勧められた。これまで親しくしていた友人たちに対しても、朝比奈の名に集って金をせしめてくる可能性もありそうだと今思えば失礼な発言をした。


『君のために言ってるんだよ』


 その一言に絆されてなるべく彼の意に沿うよう大人しく従っていた。しかし親友の大倉に対しても付き合いをやめるよう言われた時はさすがに反発した。彼女は見た目の派手さと母子家庭であることが夫にいい印象を与えなかったようなのだが、あおいにとっては無二の親友である大倉の存在まで失うのは嫌だった。


 それまで無かった自己主張をするあおいに、夫は嫌なら別れようと脅迫まがいに言ってきた。売り言葉に買い言葉とも言える形でそうします、と言い返した事で初めて彼の方が先に折れた。


 それでも独占欲の強さが治まった訳ではなく、異性との接触は配送員であってもスーパーの店員であっても嫌そうな表情を隠さない。共通の知人の結婚式に夫と連名で招待された時にも、男性も来るという理由であおいだけ欠席させられる始末だった。


 自身の結婚式の際、呼べる家族はいないので当然のように大倉に送る招待状も作成していた。しかし『プライベートの友人は呼ばない』という妥協案を出されて却下されてしまい、今日この場に彼女の姿はどこにも無い。


 親友には電話で『親族のみの質素なものになる』と言って招待できない事を謝罪した。彼女はそれぞれ事情があるからと許してくれたが、あおい自身が招待できなかったことに対しどうしてもモヤモヤとした気持ちが残っている。


 当日を迎えても友がいない結婚式に寂しさを覚え、自身が主役の一人であるにも関わらず疑似体験のような味気のないものであった。幸せ全開の空気の中で虚しさが増幅する中、昨年助けてくれた葛城司が妻だか恋人を連れているところを目撃する。


 あおいはようやっと知った顔を見られたと急激に嬉しさがこみ上げてくる。気付いてほしい……そう願いながら視線を送ると、女性込みではあったが彼はこちらに視線を向けた。


 距離的に伝わるかは分からなかったが、ダメ元で以前の礼も込めてこっそり会釈してみた。すると彼もまた小さく会釈を返し、あの時と同じ優しい表情を見せた。


 これまでの虚しさが嘘のように一気に潤った感覚に襲われ、視界が一瞬にして華やいだように感じられた。式そのものはフィナーレを迎えていたが、直後に執り行われた披露宴では誰一人知り合いのいない中でも幸せな気持ちに浸ることが出来たのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 同じ頃、葛城もまたあおいの事を頭の片隅に残していた。赤ちゃんは無事に出産できたのだろうか? 彼女を案じているうちにあの時感じた白く冷たい手の感触が蘇ってきた。


「そう言えばさっきの新郎の方なんだけど」


 妻に話し掛けられ、その思考は一瞬にして消し去られた。葛城は隣に立つ詩織の方に顔を向けて内容を聞くことにする。


「『朝比奈貿易』の役員の方よね?」


「えっ? あの?」


 『朝比奈貿易』と言えば今や日本中誰でも知っている大企業であり、そこの役員との婚姻であれば結構な玉の輿である。家柄も元爵位家という言わばロイヤルファミリー扱いで、当主泰造氏をはじめ直系家族も若干名有名人の部類に入る。


 苗字で気付くべきだった。そう思ったが、現状の彼にとってさほど大事な事ではない。


「えぇ、確かそうよ。あの方確か現社長の甥っ子さんだったはず」


「へぇ、詳しいね」


「この前テレビで婚約会見なさってたのを偶然見たのよ。まさか助けた方が奥様だとは思わなかったけど」


 そうだね。葛城はもう一度だけ式の現場を見るため振り返る。彼女が幸せであればそれでいいけどと思いながらも、新郎の粘着質なあの視線が一抹の不安を残していた。

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