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SECOND TIME PART Ⅰ

 それから時が経ち、葛城司は妻詩織(しおり)と半年前に結婚した。仕事もプライベートも正に順風満帆と言え、不満など微塵もない生活を送っている。


 ‎それでも仕事柄休日がなかなか取れず、デートの一つもまともにできない程だった。しかしそれも元医療事務だった詩織の多大なる理解のお陰で夫婦仲そのものは至って良好、貴重な休日は日頃の感謝も込めて妻と過ごすのが何よりの楽しみとなっている。

 ‎二人は普段よりも幾分おしゃれをして郊外にあるレストランで食事をした後、街中を散策していると風情のある小さなチャペルの前を通り掛かる。そこでは平日の昼間にも関わらず正装姿の男女が多く集っており、祝福ムードを周囲に振りまいていた。


「結婚式みたいね」

 ‎

 ‎二人とも少し前の挙式を思い出し、思わず足を止める。遠巻きに他人様の結婚式を微笑ましく眺めていると、白いウェデングドレス姿の女性が白いタキシード姿の男性と共に幸せいっぱいの表情で現れた。


 ‎葛城は新婦の顔に微かな反応を示す。それを敏感に察知した詩織はどうかしたの? と訊ねた。

 ‎

 ‎「去年式場で体調を崩された方なんだ」


「そう、今はお元気そうで何よりね」


 うん。そう答えながら昨年の出来事を思い出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あの日は桂木あおいに付き添う形で、勤務先とは別の産科病院に搬送された。いくら現役の医師とは言え他所の病院でまで手出し出来ず、知人への連絡係に徹していた。


 ‎彼女には家族と呼べる人物の連絡先が存在しておらず、代わりに葛城の出身県にある児童養護施設の連絡先が登録されている。あぁあそこか……くらいの事は思ったが、この街までだと新幹線を使う必要がある距離に位置しているので、なるべく近隣の知り合いの方が良いとスクロールした。


 結婚式場に来ていたくらいだから婚約者がいるだろうと更に検索してみると、朝比奈誠志朗(あさひなせいしろう)という名の男性の名前があった。


 ‎まずはその男性と連絡を取るが仕事中だったようで、周囲を気にしながらの通話といった感じだった。この様子だと仕事を放っぽって駆け付けてくるとは考えにくい、そこで最新の履歴に残されていた大倉(おおくら)るりという女性にも連絡を取ってみた。


 彼女の方は外出していたようで、出先の喧騒が通話超しでも聞こえてくるほどだった。朝比奈とほぼ同じ内容を伝えると、そう遠くないのですぐに向かうと一旦通話を切った。


 それから小一時間ほど待つと、一人の女性が息を切らしながら病院にやって来る。たまたま他の急患がいなかったので、彼女が大倉るりであろうと目星を付けて声を掛けた。


『大倉るりさんですか? 先程連絡致しました葛城と申します』


『はい。ご連絡ありがとうございます、桂木あおいの容態はどんな感じなんですか?』


 彼女は相当桂木の身を案じているようで、挨拶もそこそこに食い気味で尋ねてくる。


『切迫流産の危険性があったようですが、今は大分落ち着かれています』


『やっぱり』


 やっぱり? 葛城はついオウム返ししてしまう。


『えぇ、従姉妹が妊娠してた時の状態と似てたんでもしかして? くらいには……』


『そうですか。今は眠っていらっしゃるので、目を覚まされるのを待ちましょう』


 葛城は大倉に長椅子に座るよう勧める。二人は初対面という遠慮から一定の距離を開けて座り、病室からの動きを待つ。


『多分あおいの電話帳登録をご覧になってると思うんですが、私たちは児童養護施設の頃から一緒だったんです。彼女は早くにご家族を亡くしてて、私は母が病気だったので一時的に預けられていたんです』


『一時的?』


『えぇ、二年ほどだけ。その後母の病気が治ったんで施設を出たんですけど、あの子とは学校でも仲が良くて今でも親友と言える存在なんです。でも朝比奈誠志朗って婚約者もいるのにどうして私に連絡しようと思ったんですか?』


『仕事中だったようなので念の為です。でもあなたに連絡したのは正解だったようです』


『そうだったんですね。私あの人に嫌われてるみたいなんで、この状況を見たら嫌そうにするでしょうね』


『仮にそうでも、桂木さんはあなたがいらしたら心強いと思いますよ』


 だと良いけど。大倉は弱々しい口調でそう言うと、治療室のドアがゆっくりと開いて担当医の女性が姿を見せた。


 ‎『桂木あおいさん、意識が戻られましたよ』


 その言葉を受けて大倉が病室に入る。その間葛城は目印代わりにそのまましばらく待っていたのだが、結局朝比奈誠志朗はその日のうちに姿を見せなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そこまで思い出したところで、新婦である桂木あおいと葛城の視線がカチッと合う。彼女はためらう事なく微笑みかけて小さな会釈をした。彼も首を微かに下げる程度の会釈を返してから、隣の男性から送られる殺気の視線を避けるように妻とその場をあとにした。

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