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エンドリア物語

「追加発注」<エンドリア物語外伝72>

作者: あまみつ
掲載日:2017/02/24

 桃海亭に手紙が来た。

 差出人をみた。

 読めない。

 封筒を開けてみた。

 便せんが入っていた。

 読めない。

「おーい、シュデル」

 食堂にいるシュデルを呼んだ。

「なんでしょうか」

 エプロンで手を拭きながら現れた。

 右手に封筒、左手に便せんをヒラヒラさせた。

「読んでくれ」

「店長、これはルブクス大陸公用語ですが」

「わかっている。けど、ここまで崩されたら、オレには読めねぇーんだよ!」

 達筆、と呼ばれるのだろうが、グニグニで一文字もわからない。

「店長が不勉強なのですから、切れることはないと思うのですが」

 小声で言うと、封筒の差出人に目をやり、便せんを読み出した。

「差出人はグロス老です。内容はムーさんに護符の依頼です」

「グロス老、グロス老、どこかで聞いたような」

「コーディア魔力研究所にいらした有名な護符の教授です」

「護符フェスティバルの爺か」

 金貨20枚もするムーの護符を3枚買っていた。

「攻撃用の護符10枚、魔法結界護符10枚、合計20枚の護符に金貨400枚支払うそうです」

「ムー、ムー、起きているか!」

 オレは2階に向かって怒鳴った。

 金貨400枚。

 桃海亭はしばらく安泰だ。

「店長、ムーさんを呼ぶのは、少し待ってください」

「待てるか。金貨400枚だぞ」

「でも、依頼通りに作ると大変なことになるかもしれません」

 シュデルが真剣な顔で言った。

「ほら、ここです。これが本当なら」

 書かれた場所を指さした。

「ふむふむ、って、オレには読めないと言っただろ!」

「そうでした。ここに書いてあることを要約すると『前に買った魔法反射の護符は戦いで使用した。護符のおかげで、初めて相手に手傷を負わせることができた。だが、グロス老自身の攻撃力を弱く、相手を倒しきれなかった。強力な攻撃用の護符と魔法防御の結界護符、魔法反射の護符が欲しい』ということです」

「どこが問題なんだ?」

「この先に戦いの相手について書かれています。『黒魔法』を使用されるそうです。それから………」

 手紙を持つシュデルの手が震えている。

「『塞翁』とも書かれています」

「さいおう?」

「北に住まわれているご老人のことです」

「黒魔法、北、爺…………気のせいだ。ムーを呼んで」

「店長!しっかりしていください。いつもの【生き延びる為のアンテナ】が働いていません!」

「金貨400枚だ」

「もし、あのグロス老の戦いの相手があのお方で、戦いでグロス老が使用した護符がムーさんが作ったものだとバレたら」

 血が顔から引いていくのがわかった。

 ムーのせいで、多少のことではビビらなくなったが、もし、グロス老の戦いの相手がリュンハ帝国前皇帝ナディム・ハニマンだったら、そして、ハニマン爺さんに手傷を負わせた護符がムーの作った物だと知ったら、考えたくもない事態になる。

「店長、頑張ってください」

「なんで、オレなんだよ。護符を作ったのはムーだろ、ムー」

「ハニマンさんはムーさんのことも気に入っていますが、店長のこともとても気に入っています」

「意味不明なことを言うな」

「ああ、また店長達は捨てられてしまうのでしょうか」

 この間、オレとムーは爺さんの国リュンハに捨てられた。捨てられた理由は爺さんの国のゴタゴタを解決するためで、オレ達には何の落ち度もない。

「なんでオレを捨てるんだよ。それにリュンハは寒いんだ。2度とゴメンだ」

 薄い上着1枚で捨てられるオレには、寒すぎる地だ。

「リュンハにも暖かい場所があります。そこではどうでしょうか?」

「オレが捨てられるのは決定か?」

「リュンハの領海に小さいですが島があります。場所は北ですが、マグマが噴出している活火山ですからとても暖かいです」

 脳裏で、煮えたぎるマグマが泡をプツプツ出している。

「わかった。オレは魔法を勉強するために旅に出る。金貨400枚が入った頃に帰ってくる」

「魔法の基礎知識がないのですから、旅に出ても無駄だと思います」

「大丈夫だ。これでも古魔法道具店で………」

 店の扉が開いた。

 極上の絹のローブをまとった男が入ってきた。展示してある商品には目もくれず、カウンターにいるオレとシュデルのところにツカツカと歩み寄ってきた。

「護符を買いたい」

 30代後半と思われる男は、落ち着いた口調で言った。イントネーションで東方の人間だとわかる。ローブの色は黒。

 オレを真っ直ぐに見ている。

「当店では護符を扱っておりません。護符をお探しでしたら、アロ通りに【箔夢堂】という護符専門店がございます。場所がわからないようでしたら、当店の店員に案内させますが」

「護符フェスティバルで販売したというムー・ペトリの護符を買いたい」

 背中に冷たい汗が、ツゥーーーーと流れる。

「あれフェスティバルに参加するために書いた護符でして、現在は護符の販売はしておりません」

「特別に書いてもらいたい。御前が所望している」

 額にも冷たい汗が、ツゥーーーーと流れた。

「ですから、現在は」

「明日、受け取りにくる」

 ローブをひるがえした。

「無理なものは、無理です」」

 怒鳴ったオレを完全無視。店を出ていった。

 オレは2階に駆け上がった。寝ていたムーを引きずり起こして、店に連れてきた。半分寝ていたので、床に転がして事情を話した。

「ムー、状況はわかったか」

「………はいでしゅ」

 眠い目をこすりながら、ムーが起きあがった。

「急いでグロス老からの依頼の護符20枚を書き上げてくれ」

「店長!」

「それを郵便で送ったら、オレは旅にでる」

「何を言っているのですか!それではハニマンさんが危険にさらされます」

「オレのリュンハでつらい日々を過ごすことになったのは…………」

「店長の理不尽な日々はいつものことです」

「あのな」

「それより、ハニマンさんに護符を書いてあげてください。どんな防御結界も破れるのをお願いします」

「金貨400枚を捨てる気か!」

「まだ、もらっていません。手に出来るかわからない金貨より、ここはハニマンさんの為に………」

「爺さんより、金貨だ!」

 ムーがオレの上着を引っ張った。

「なんだ?」

「めんどいしゅ」

 ボッとした顔で目をこすった。

「面倒くさいしゅ。護符は書かないしゅ」

「ムー、金貨400枚だぞ、400枚。しばらく、ケーキが食えるぞ!」

「ハニマンさんには結界破りの1枚ですむと思うのです。護符を書いていただけませんか?」

 ムーは大あくびをした。

「護符を書くのは、飽きたしゅ」

 全身から、書きたくない感が溢れていたが、オレとシュデルの必死の説得で1枚だけ書いてくれることになった。

 翌朝、渡された護符を見たオレとシュデルは頭を抱えた。



「これを買いたい」

 昨日、護符を依頼しに来た黒のローブの男が、壁に飾られた護符を指した。

 ムーから渡された護符は、扉の真上、ラッチの剣の真下に額に入れて飾られている。金額は金貨20枚。

「護符フェスティバルのことをご存じでしたら、当店で護符を買う場合のルールをご存じのことと思います」

 黒のローブの男が、怪訝そうな顔でオレを見た。

「当店にあるムー・ペトリ制作の護符を買うには【護符の効果がわかった者のみ購入できる】という約束がございます。存分にご覧になってください。効果がおわかりになれば、お売りいたします」

 黒のローブの男が、壁に掛かっている護符を見る。

 焦った顔で、オレを見た。

「効果がわかりましたでしょうか?」

 何か言いたげな顔でオレを見た。

 護符に書かれているのは、グニグニのニョロニョロだ。

 オレには、寝ぼけた幼児が、護符の紙に落書きしたようにしか見えない。シュデルも護符か落書きか判断できなかった。先ほど、これをオレに渡したムーは『護符だしゅ~~』と言って2度寝するため、部屋に戻って行った。

 男はしばらく護符を見ていたが、憔悴した顔で店から出ていった。

 オレはグロス老に手紙を書いた。店にある護符の効果がわかったら、20枚を売ると内容だ。

 数日後、グロス老の弟子らしき人物が数人でやってきた。全員、壁の護符を見て青ざめた。グニグニのニョロニョロに【ムー・ペトリが書いた護符】と書かれた札がついていなければ、『落書きだ』と怒りそうな様子だった。全員で相談しながら解析を試みたが、3時間ほどで挫折した。護符なのか、落書きなのかも、わからなかったようだ。

 グロス老の弟子が来た翌朝、目覚めるとオレは闇の中にいた。大きな箱のような物に縛られて、押し込められている。隣で「ムゥーーー!ムゥーーー!」言いながら動いているのは、ムーのようだ。

 オレは思った。

 今度は、どこに捨てられるのだろうか、と。





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