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「……私をどうする気?」


「決まってるだろうが。貴様の心臓を喰らう」



 ひゃっほい!


 なんかもう僅かな希望さえ持てない絶対零度の声にはもう笑うしかない。

 実際、口元がにやけてしまった。

 そんな私を見て、狼男が不思議そうな顔をする。

 ちくしょう、どんな表情を作ろうと文句なしにいい男なのよ。考えようによっては、絶世の美男子に殺されるっていうのもある意味幸せなのかもしれない。

 ……ああ、ヤバイ。

 ピンチすぎて思考が変になってきた!

 おもわず私が頭を両手で抱えて唸ると、狼男がハッとしたように顔を上げる。


「琴子!」

「琴!」

「月森!」


 梅吉、竹蔵、高尾先生の三人が私の名を呼びながら次々と部屋に飛び込んでくる。 

 助かった。ありがたい、と思うべきなんだろうけど、実際に私が思ったことと言えば、ふざけんな! おっせーんだよ!! だ。

 本当、何してたのよ。だいたい、竹蔵、梅吉兄弟は自分の家に不法侵入者許すんじゃないっつの。それでも、陰陽師と忍者なの?

 守られる側の分際でありながら私がプリプリ怒ってる間にも、ベッドで眠る私の頭上では激しい戦闘が行われていた。……結構、私の顔面すれすれで。


「っぎゃあ~!!!??」


 私は奇声をあげる。


 だって、だって、だって、私の鼻先すれすれで手裏剣が飛んだり、弾丸が飛んだり、竹蔵の式神の鴉天狗が弓矢を放ったりするんだもん。

 うあっ!? 

 狼に変身した狼男が私の顔の上を飛び越えていく。それも、長い爪がすれすれ届きそうっていう至近距離をね。


「いやああ~!!!」


 私は悲鳴を上げながら、頭から布団を被って丸くなる。

 本当は今すぐにでも部屋から出たかったんだけど、こんな状況で下手に動いたりしたら怪我する可能性大だ。

 私が布団の中でガクブルしてる間にも、人とも獣とも付かない唸り声や、何かが宙を鋭く切っていく音や、激しく物が壊れる音がする。まるで嵐の夜みたいだ。

 一体どうなっているのか確認したいけど、恐ろしくて出来やしない。

 ちょっと顔を覗かせば、狼が口を開けて待ち構えてるか、銃弾に撃たれるか、手裏剣が突き刺さるか、弓矢で撃たれるかだ。

 と、その時、急に視界が明るくなった。

 それは、布団の中にいる私にでも分かるほど強烈に明るい光りだった。

 それと共に、急に静かになった周囲にも気づき、私はノロノロと顔だけ布団から出して驚く。

 私が眠る寝台の頭上に光り輝く球体が浮かんでいたのだ。

 まるで太陽みたいに薄暗い部屋の中を照らしてるけど、熱は感じない。人一人を余裕で包み込めるほどの大きさで、実際に球体の中心に人影が見えた。

 私は上半身を起して球体に見入る。

 竹蔵たちや、狼男までも、動きを止めて、突如現われた球体を見つめている。

 ついでに補足しておくけど、部屋の中は荒れに荒れていた。嵐か竜巻が部屋の中を通り過ぎたかのようだ。これ、誰が片付けるんだろう?



「ふふっ」



 騒がせたお詫びに、責任とって後で私が全て掃除させていただこうじゃないかと思っていると、球体の中から女の笑い声が漏れ聞こえてきた。

 球体の発光が少し薄まって、それまで影しか見えなかった人の形がハッキリと見えてくる。

 そうして明らかになった謎の女性Xの正体が分かり、私は再び驚いた。


「……あ、あなた!?」

「うふふっ。お久しぶりねん」


 呆気に取られる私を見て、女性が笑いかけてくる。


 光に反射して輝く黄金の髪は豊かに波うち、露出の多い衣服から覗く象牙色の肌は艶やかでエロスが漂う。長い手足に、惜しげもなく晒している涎物の胸の谷間、魅力的なウエストから腰にかけてのラインを持つ女性の顔は、首から下のボディに負けず劣らず美しい。

 羽箒みたいな長い睫に覆われた瞳に、細い鼻梁、自然に色づく頬、少し大きいけど柔らかそうな甘い唇が嫣然と弧を描くその人は、まるで巨匠が描いた絵画から抜け出してきたみたいな美女。いや、女神だ。

 でも、悲しいかな。その格好はというと、あんたはどこぞの女王様かってツッコミを入れたくなるような黒皮製のボンテージドレスに網タイツ。

 ご丁寧に、右手には鞭まで持っている、このなんちゃって女王様が何者かっていうのが問題だ。

 この女、未だに球体に包まれてるわけですが、その中で彼女は箒に乗っていた。ちょこんといった感じで箒の上に腰掛け、光の球に包まれている。

 ボンテージドレスの上には黒マントを羽織、頭の上には三角帽子……ではなく、髑髏マークをつけた軍人風のキャップをお洒落に斜めかぶりしている。

 ちょっとズレタ感はあるけど、その姿を見て連想する単語といえば唯一つ。



「……魔女?」



 訝しむような声を上げたのは、梅吉だ。


 うん、あってるよ。その通り、彼女は魔女なの。

 それも、本人の言葉を信じるのなら、世界最強の魔女らしい。私もつい最近知り合ったんだけどね。

 まあ、今までも魔術師とか、妖術師とか、猛獣使いとか、色々会ってきたから、魔女ぐらい別に珍しくもないんだけど、彼女の場合はその美しい外見と、残念なおつむのため、取り分け印象に残っていた。

 その時、ちょっとしたゴタゴタに巻き込まれたんだけど、その話はまた今度。

 でも、その魔女が何故この場に現われたのかっていうのは、私にも分からない。

 疑問を口にしようとした時、何者かが争いによって勢いよく壊された扉を踏みつけながら室内に入ってきた。



「琴子!!」


「シオン!!」



 そう、シオンだ。


 ここまで彼の姿がなかった事に対して、私は不安を感じつつ、とっても怒ってもいたんだけど、髪を振り乱し、青ざめた顔で私に両手を差し出して来る姿を見て、そんな気持ちは氷解していった。

 布団から抜け出しし、シオンの腕の中に飛び込もうとする。


 だけど、それを引き止める人がいた。


「だーめぇ、あんたはこっちぃ」


 間延びした甘ったるい声と共に、私の体が宙に浮く。


「きゃあっ!!?」


 状況を正しく判断する間もなく、パジャマ姿のまま私は魔女がいる球体の中にスルリと入り込む。

 勢いがついて、ムニっと豊かな谷間に顔を押し付けてしまった。や、やわらかい。


「何をする!?」


 ついつい私が始めての感触に感激していると、シオンが慌てたように魔女に向かって叫んだ。


「琴子に触るな! これは契約だぞ!」


 契約?


「それはあ、この娘の前世の話でしょ~?」


 魔女が気だるげに言う。


「この間だってぇ、二人で仲良く遊んだしぃ。ねえ?」


 にっこり笑って私に同意を求めてくるけど、とてもじゃないけど、あれを“仲良く遊んだ”なんて言いたくない。

 本当、散々な目に合ったんだから。

 たった一時間の間の出来事だったけど、気分的疲労感はたっぷり丸一年分だった。詳しい話はまた今度ね。


「……なんだと!?」


 魔女の言葉に、シオンが目をむく。

 うっ……。シオンが五月蝿く騒ぐのが嫌で、魔女の事は言ってなかったんだよね。

 シオンが私を疑うように見てくるので、つい反らしてしまう。


「……とにかく、ジルの生まれ変りである琴子にも契約は引き継がれる」


 シオンが気を取り直したように、魔女をにらみつける。


「そんなのぉ、知らないわよぉ」


 魔女がむくれた様に、そっぽを向く。


「わたしぃ、もう復讐とかあ、考えてないしぃ。っていうかあ、面倒くさいしぃ」

「……ムカつく」


 ボソッと呟いたのは高尾先生だ。


「それにぃ、復讐ってなんかダサくなぁい?」


 うん、分かるよ、先生。この喋り方ムカつくよね。

 私は宙に浮かびながら、先生に同意の眼差しを送りながら、ふと思いつく。


「……えっ? 復讐ってことは。じゃあ……」


 私の疑問に、シオンが渋い顔で頷く。


「そう。彼女が、君の前世の両親を殺し、君に呪いをかけた張本人だ」



 ――お前かあっ!!





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