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 私は悩む。心底悩む。



 私が不運である原因が分かったと同時に、シオンの不幸が分かってしまったから。

 前世の私がのほほんと暮らす事が出来たのは、全てシオンのおかげだ。

 生まれ変わった今だって、シオンがいなかったらとっくに私の命はなかっただろう。

 困った。困ったぞ。

 ロリコンで変態だけど、シオンは大切な養父であり、命の恩人だったのだ。

 こうなったら、私も彼のひたむきな想いに応えるべきなのでは? 

 多少は、自分を美化する方向で話を盛ってるところはあると思うけど、これまでシオンが私と前世の私にしてきてくれた事を思えば、当然のような気もしてきたぞ。


「なんでそんなに私が良いの?」


 ふと、私の口から疑問が出る。

 そうだよ。こんなに不運体質な女、迷惑なだけじゃん? 現に滅茶苦茶迷惑をかけてる。


「……君が君だからだよ。琴子」


 シオンが切なさを瞳に乗せて、大きな手で私の顔を優しく包み込む。


「まだ幼いジルを見た時の、あの衝撃……。その瞬間から、僕はジルの下僕と化したんだ。彼女がいない世界なんか信じられなかった。それは君に出会った時も同様で、もう君以外いないと確信した。断言できるよ。君こそが間違いなく、あのジルと同じ魂を持つ者だってね」


 ジル、というのが私の前世の名前なんだ。


「もちろん、それまでも恋人は幾人もいたよ。ちゃんと年相応のね」


 ああ、良かった。最初からロリコンじゃなかったのね。


「でも、君は彼女達とは全然違ったんだ。君はとにかく特別で……奇跡のような存在なんだ。不運なんて事ちっとも気にならないぐらい。むしろ、君を守れる事に無常の喜びさえ感じる」


 ロリコンのうえに、マゾヒストの傾向もあるのかな?


「……でも、いきなり結婚なんて早いよ」


 きっと、前世の私と十六歳で結婚する事が出来なかったから、その年齢に拘るんだ。


「もうちょっと待ってくれない? 私だって考える時間が欲しいし」


 結婚するにしても、せめて大学卒業するまで待って欲しいな。

 ん? そうなると、私ってそれまで処女ってこと?


「……これ以上、待てと言うのかい?」


 私の言う事に、シオンの目が細まる。


「何百年も待ったあげく、更にこれ以上待てと?」


 先程まで無常の愛に溢れていた声音が、一気に冷たくなる。こ、怖い。


「いや~。ほ、ほらっ、逆に考えてみれば、何百年も待てたんだもん。あと数年だよ。あっという間だって」


 私は慌てて取り繕うが、私の顔を包み込む手の力が強くなった。


「それまでに、君に虫が付く可能性は捨てきれないだろう?」


 それまで空気と化していた竹蔵以下周囲にいる男達を見回して、鬼のようなというか、吸血鬼のような恐ろしい形相を作る。


「たった一日目を離した隙に、もうこんなに害虫がくっ付いてきたじゃないか!? おまけに、あの犬畜生まで!!」


 そ、そうっスね。うん、否定は出来ない。でも、不可抗力だと思うんだ。


「竹蔵たちは私を助けようとしただけで、別に害虫なんかじゃないよ! あの狼男は怖いけど……」

「だから、そいつから僕が君を守ろう。前回みたいにね。そして――」


 私の耳に顔を寄せて甘く囁く。


「僕の仲間にしてあげよう。そしたら、君は無敵だ。誰も君を脅かすことなんて出来ない。きっと誰よりも美しい吸血鬼になるよ。それに、動かなくなった心臓を喰らうことはあの狼男にだって出来はしない……」


 喋りながら顔を動かし、私の首筋に口を寄せると、柔らかい肌に下を這わせ甘噛みする。


「……っん。あ、」


 痛みと共に駆け上がってくる甘美な衝動に突き動かされ、私はついシオンの広い背中に腕を回して抱きついてしまう。

 抱きついてからしまったと思った。

 だって、すっかり二人の世界を作っていたけど、竹蔵達がまだいたんだもん。

 竹蔵は、私とシオンのスキンシップの高さには慣れたものなので平然としている。

 高尾先生は何か言いたそうな表情を作ったけど、すぐに苦味潰したような顔で煙草をぷかぷかと吸いだした。

 梅吉の顔は真っ赤になっていた。

 私と目が合うと、首まで真っ赤にして慌てて視線を反らす。ヤバイ。この状況はヤバイって。滅茶苦茶恥ずかしい。しかも、変な声まで聞かれてしまった!!

 私は慌てて身を離そうとするが、シオンが許せない。

 わざと見せつかせるかのように、首筋に今度は音を立ててキスをしてきた。下から上に移動していき、顎にも、頬にも、額にも、閉じた瞼にも、ついでに唇にもそれを繰り返す。

 頭と腰をがっちり押さえられているので、私は逃げることは出来ず、ただ受け入れるだけ。そんなんだから、とどめのようにされたベロチューもバッチリ見られちゃいましたよ。

 ああ、恥ずかしすぎてもう死にたい。穴が入ったら入りたい。


「……ジルの時だって、誕生日を待ったりせず、最初から僕の花嫁にするつもりだと言ってれば良かったんだ」


 シオンが恥ずかしさのあまり真っ赤になってしがみ付いてくる私を優しく自分の膝に乗せて、繊細な硝子細工でも包み込むように柔らかく抱きしめてくる。

 本当それは泣きたくなるほど優しい感覚で、やっぱ嫌いになれないんだよね。


「部屋に閉じ込めて、外には一歩も出さず。……そうしていれば、あの小僧とも恋仲になる事はなかったのに」


 ギリギリという歯軋りがすぐ近くでする。

 相当、恨んでますね。でも、外から一歩も出さない生活をさせてたら、ジルからも恨まれていたような気がする。


「君だってそうだ。もう過去の過ちは繰り返さないと決めていたのに、このままじゃ同じことが起こってしまう。君のたっての願いだから学校には行かせた。これ以上は、もう駄目だ」


 しっかりと私を抱え込み、またキスできそうなほど近さで顔を寄せる。


「学校を卒業するまでの数年の間に、君の心が他の奴に行かない保障がどこにあるというんだ?」

「え~っと」


 未来の事は分かんないけど、そう簡単に答えを出さないで欲しいな。


「……それに」


 私の頬に指を滑らせ愛おしそうに撫でると、シオンがうっとりと目を細める。


「花嫁はやっぱり若い方に限るよ」


 うわ~、という誰かの声が聞こえる。


「大学卒業まで待ってたら、もうオバサンじゃないか」



 ……こいつ、本物だ。ドン引きになって呟いたのは高尾先生だ。





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