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神にそむいても  作者: 二条 光
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ゆめうつつ

 クルクマの花言葉「因縁」


 結局、智が研修旅行の二日目の自由時間に誰とまわるのかきけないまま。そして、催促してこないことをいいことに孝くんへの返事はしていないまま。期末テストは終了した。



「晴れてよかったね~」


 大きく伸びをしながら言ったしほりのテンションが上がってるのがわかる。それに対して小さくうなずくことしかできなかった。


 期末テストが終わり、今日から研修旅行。

 さっき新大阪駅に着いて専用バスが来るのをバス乗り場で待っているところ。

 地元はザアザア降りの雨だったけれど、大阪は雲一つない快晴。それに関西は地元に比べて明らかに湿度が高い。湿気とアスファルトから上がってくる熱気が今の体調だとなおさらに不快な気分になる。

 昨日の夜あまり眠れなかったからか、行きの新幹線でも少し酔ったし。なんだかすごく気分が冴えない。


「美姫、やっぱりセンセーに言ったほうがよくない?顔色悪いよ」

「う~ん。いよいよガマンできなくなったら言う。とりあえずまだ大丈夫そう」

「ホント?ムリしないでね」

「ん、ありがと」


 そんな会話をしてなんとかやりすごしていると、“白鳳ハクホウ高校 ご一行様”と書かれたバスが続々と乗り場に滑り込んでくる。

 私としほりは3組。担任の指示で3号車に乗り込んだ。


 最初の目的地は平城京。

 途中トイレ休憩はあるけれど、ほぼ1時間半乗りっぱなし。元々乗り物酔いする上に、今日は朝からすごく気分がすぐれない。正直、不安極まりない。


「ごめん、しほり。とりあえず現地まで寝る。ごめんね、外見えないし」


 しほりと隣同士。窓際に座らせてもらい、せっかくの景色もカーテンでシャットアウト。


「いいよ、いいよ。ちゃんと前とかから見えるし。ちゃんと寝な。アイスノンみたいなのもらってこようか?」

「ん、そだね。ありがと」


 しほりはすぐに小さめのアイスノンを持ってきてくれた。それを当てしばらくすると随分とラクになって、スッと夢の中に入っていった。



―――――――――――――

――――――――

――――――

…………

……


 はぁはぁはぁ……。苦しい。息が出来ない。

 私、走ってる?


『おい!!いたぞぉ!!』


 後ろのほうで男が叫ぶ声がきこえる。


 私のこと?なにかに追われてる?


 うっそうと茂っている木々をかき分け、時折その枝で顔や腕には小さな痛みが走る。


『こっちだ!!』


 確実にさっきの男の声が近づいていた。

 後ろをわずかに振り返ると、もうすぐ近くにまでその声の主であろう男が距離を詰めていた。


 やだ!こわい!!


 きゃあっっ!!


 私は小石につんのめり、激しく前のめりにこけてしまう。

 急いで立ち上がろうとするけれど、焦っているあまりによろめいてまたこけてしまった。


 そうして、私は3人の男に取り囲まれてしまった。

 だけど、その男たちは私をどうこうするワケではなく、じっと見つめている。触ることすらしないだけで、監視しているかのよう。

 こわい。私はどうされてしまうんだろう。


『帝、こちらへ』


 奥のほうからあらたな声をきこえてくる。足音は2人分。

 そうして現れたのは、中年の男性2人。男たちは聖徳太子がしていたような古代貴族の格好をしている。

 よく見ると、私を取り囲んでいる男たちも同じ。

 あらたに現れた男2人に、3人は一斉にお辞儀をした。

 2人組の男の片割れは男どもの間をすりぬけると、じりじりと私ににじり寄ってくる。中年のギラギラと脂ぎったカオ。正直キモい。


『……姫……』


 私は必死であとずさろうとするけれど、腰が抜けてしまってその場でジタバタするしかなかった。


 ヤダ!ヤダ!!

 キモい!!こないで!!


『……あなたはもう、私のものだ』


 うわぁぁぁ!!

 濁ったような瞳で見つめてそんなこと言われても、背筋にゾワゾワとしたものがうごめくだけ。

 っていうか、イミがわからない。私に言ってるの?


『……になど渡さない!!』


 私の目をじっと見つめながらそう叫ぶと鬼の形相になり、私の手首をぎゅっと握りつぶすかのように持つ。

 痛い!!

 放そうとすればするほどに、食い込んでくるその男の手。

 やめて!!助けて!!

 智!!智!!



―――――――――――――

――――――――

――――――

…………

……



「……き、美姫!?」

「はっ!!」


 揺さぶられたことに気づいて、目を覚ました。


「ハァ、ハァ、ハァ」


 びっしょりと汗をかいてる。首筋を両手で拭うとじっとりとしたイヤな汗がくっついてきた。


「どした?うなされてたよ?」


 あぁ、しほりか。


「はぁ~……」


 右のイヤフォンを取って、怪訝そうに私を見つめてるしほりを見て深く息を吐いた。


「こわい夢でも見た?」

「……うん、なんかすっごいヘンな夢」


 心臓がドクドクと激しく動いてる。

 汗のせいでスカートが脚にまとわりついてくるから、思わずパタパタと仰ぐ。


「てか、私、なんかヘンなこと言ったりしてなかった?」

「どうだろ?私、ほらイヤフォンしてたから」


 そう言いながら、耳元のイヤフォンをプラプラさせる。


「そっか」


 ”智”って叫んでた気がする。実際にも言ってなきゃいいけど……。


「ねぇ、ここ赤くなってない?」


 しほりが指差す先は私の右手首。


「ぎゃっ!!」


 気味が悪くなって、一生懸命右手をブラブラさせる。だけど、ブラブラさせると鈍痛が走るから慌てて手首を抑えた。


 なんなの!?どういうこと!?


「ヘンな夢見てたんでしょ?もしかして、寝てる時に自分でぎゅ~って握ってたんじゃん?」

「……そうだね」


 きっとそうだ。そうに違いない。

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