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神にそむいても  作者: 二条 光
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恋の呪縛

アンスリウムの花言葉「恋にもだえる心」



 あれ?雨かな?


 世界史のテスト範囲を勉強をしていると、キリのいいところで集中力も途切れた。すると、急に外の音が耳につく。

 部屋のブラインドの角度を少しだけ変えると、ガラスに雨粒が激しく当たっていた。


 こんな日はあの時のことを思い出してしまう。


 私たちがお互いを意識し合うようになったのは2年前の梅雨時期だった。その夜は雨がしとしとと降っていて、雨音が心地良かった。


 私と智は知らない人には双生児だと勘違いされるけれど、実際は双子ではなく年子の兄妹。

 元々年子で生まれる予定だった私が5月の出産予定日を2か月近く早く生まれることになって、結果私と智は同じ学年に所属するようになった。

 両親が早くに離婚して、幼い頃は母方の実家に私たちだけで預けられていた時期もあって、そのせいか、兄妹仲はすごくよかったと思う。双子ではないけれど、まるで双子みたいにお互いの存在が見えないと常に不安になっていた。


 中3の梅雨時期。

 母親は夜勤で私たちは二人きり。リビングで期末テストの勉強をしていた。


「うわっマジか!?」


 一息ついてジュースを飲みながら、スマホを見ていた智が驚いた。


「なになになに?」

吉田ヨシダ、カノジョとキスしたんだって」

「え、吉田くんって智と同じクラスの?カノジョいたんだね」

「うん、他校のコ。塾で知り合ったって言ってた。こないだ付き合い始めたばっかなのに。はぁ~」

「そういえば、キミちゃんも高校生のカレシとチューしたって言ってた」

「マジか~……」


 本当に今思っても好奇心だったんだと思う。


「智は?」

「え?」

「キス……したことあるの?」


 さすがに兄妹でお互いのそういう体験をきくのは気恥ずかしくって、私はうつむきがちに訊いてみた。


「はぁ!?」


 少し怒ったようにも感じる反応に顔を上げると、そこには顔を真っ赤にした智がいた。

 自分と一緒だっていう安心感と、智がまだ誰にもとられてないっていう恋に似た感覚に、多分少しヘンなテンションになってしまったのだと思う。


「したことないんだぁ!」


 自分でもわかるくらい興奮して言った。


「いいだろ、別に……」


 すねてそっぽを向く智。

 いつもなら、このあたりでやめてしまう揶揄をとめる術はこの当時の私にはまだなかった。

 ううん。もしあったとしても使わなかったと、今は思う。


「ふ~ん、まだしたことないんだぁ」

「そういう美姫こそあんのかよっ」

「ヒミツ~」


 すねたような表情でつぶやく智がかわいくて、ついついはぐらかしてしまう。


「マジかよ」


 智がそうつぶやいたきり黙りこくってしまったものだから、気まずくなって、私も黙ってしまった。


「………ホントはしたことあんのかよ」

「いいじゃん別に。私のことは」


 真顔で見つめてくる智に、どうしていいのかわからなくなって思わず顔をそむけた。


「よくねぇしっ」


 え……。

 おそるおそる智を見ると、怒ったように悔しさをにじませていた。


「オレたちはなんでもずっと一緒なんだから。秘密だって共有してきた」


 確かに、小さい頃からお互いに隠し事ひとつしたことがない。なんでも一緒にして、いつでも一緒にいないと不安だった。


「キス、してみるか……?」

「なんでそうなるの?」


 ジワリジワリとにじりよってくる智。


「待って待って!兄妹でキスとかおかしくない?」


 必死で智を制するけれど、おかまいなしに距離をつめてきた。


「外国はあいさつ代わりにするんだってきいたことある。それに、美姫とならしてみたい」


『美姫とならしてみたい』、これは本当に小さな頃から智の口癖のようなもの。

『美姫がするならボクもしたい』『ボクも美姫と一緒にピアノ習いたい』『ボクも美姫とおなじごはんがいい』、そういう口癖はいつも有言実行。かなわなかったことなどなかった。


 だから思わず目をぎゅっとつぶった。

 ホントに一瞬の出来事だった。かすかに唇が触れ合ったような気がした。


 おそるおそる目を開けると、あきらかに私の知らない智が目の前にいる。

 私を抱き寄せ、初めは本当にぎこちないキス。

 そのうちに何度も何度も深く唇を重ねた。息の仕方も、息がまともにできているかもわからないような。頭がクラクラした。

 頭の芯が痺れて、ただただ智との口づけに溺れた。


 RRRRRR……。

 そんな時に家の電話が鳴った。毎回、夜勤の合間を縫って電話をしてくる母からだった。

 私たちはハッと我に返って、お互いから離れる。


「もしもし」

『勉強してた?』

「うん」

『智は?』

「もう部屋で寝てるよ」


 何故か一緒にいることを告げることはできなかった。


『そう。じゃあ、明日も遅刻せずに学校行くのよ』

「うん、お母さんも仕事がんばってね」

『ありがとう』


 母との電話を終え、さっきいた場所を振り返ると、そこにはもう智の姿はなかった。


 翌日、私たちは何事もなかったように過ごそうと暗黙のルールが成立していた。

 そして、とんでもないことをしてしまったんじゃないかという背徳感がひたひたとお互いについてまわり。今に至る。

 今じゃ赤の他人以上にそっけない。


 あの日のことを思い出すと、耳の奥で雨の音が小さく聴こえる。苦い想い出。

 この想いから逃れることはひどく難しい。

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