輪廻転生
向日葵の花言葉「愛慕」
一週間後、私と智は海の見える丘にある墓地にきていた。
ここは幼い頃私たちが預けられていた祖父母の家の近くで、今はふたりが眠ってる。そして、私の母親も。
今日はここである人と待ち合わせをしてる。
『美姫は私の妹のコなの』
あの日、お母さんはそんなことから語り始めた。
私の本当のお母さんが私を身ごもったのはハタチの時。相手も同い年でふたりは大学生だった。
お互い学生だったこともあり、籍だけは入れてお互いに実家暮らしだったらしい。
私が生まれた日がお母さんの命日でもあった。
お母さんがお父さんに会いに行ってる途中に事故に遭い、私だけはかろうじて助かった。
まだ学生で将来のあるダンナさんにいきなり子育ては大変だろうってことで両家で話し合った結果、ウチのおじいちゃんおばあちゃんが引き取ることになった。
智のお母さんであり私の育ての母である伯母さんは智を産む前に離婚していて、手に職をってことで智を産んだあとに看護学校に通い。
その間、智も祖父母のウチに預けられていた。
そして、ウチに仕送りをしてくれてるのは智のお父さんじゃなく、本当は私のお父さんだった。
で、お母さんは無事に看護師になり、智を引き取りにきた日。
『智も美姫も離れたくないって泣いて泣いて』
そう言って笑った。
そして、私は智と一緒に伯母さん、つまりは今のお母さんに育てられることになった。
「美姫ちゃん? 智くん?」
私と智がお墓に向かっていると、後ろから男性の声がする。
振り返ると花束を抱えた男性が立っていた。
この人が私のお父さん?
年齢は多分三十代後半。だけど、年齢よりもずっと若く見える。
そして、自分の親にこんなふうに思うのはヘンかもしれないけど、けっこうかっこいい人だと思った。
「はじめまして」
智がそう言うと、その男性はクックッと笑った。
ん? なんで笑うとこ?
智もちょっとムッとしてる。
「ごめんごめん。僕らね、前に会ってるから」
え?
「だから、初めてじゃないんだよ」
智と私は顔を見合わせる。
多分智も「いつ会った?」っていいたげ。
「僕が社会人になった頃、一度美姫ちゃんを引き取ろうと思って。その時に君たちに会ってるんだよ? 覚えてないだろうね」
私と智はうなずいた。
「でも、美姫ちゃんをつれていこうとしたら、智くんが必死にそれを阻止してね。だから、お姉さんに美姫ちゃんのことをお願いしたんだ」
私と智は顔を見合わせて笑った。
「今日は呼んでくれてありがとう」
お父さんは目を細めて私たちを見てる。
「おじさんに今日はお願いがあって」
「お願い?」
私たちはうなずいた。
「オレと美姫は高校を卒業したら大学に進学するつもりです。そして、大学を卒業したら美姫と結婚させてください」
智が頭を下げたから慌てて私もそれに倣った。
「頭を上げて」
そう言われ、私と智はゆっくりと顔を上げると、智の前にお父さんは手を出した。
智は応えるようにその手を握る。
「娘のことよろしくお願いします」
今度はお父さんが頭を下げてくれる。
「な、人美。いいよな」
お父さんは墓前のお母さんに向かって話しかけた。
その夜、私たちはネットで皇子や姫のことを色々調べた。
ずっと気になってはいたけれど、なんとなく知るのもこわかった。
智もなんとなくおんなじ気持ちだったみたいで、私たちは皇子たちのことは調べようとはしなかった。
あの日皇極天皇が言ってた通り、間人皇女とのことで中大兄皇子は天皇にならずにいた。そして、姫が亡くなったあとに皇子は天智天皇になったことを知った。
研修旅行前の古典の授業で習った通り、姫は孝徳天皇に嫁いでその後に子供ももうけてる。
だけど、色々調べても 間人皇女のことはそれ以外ほとんどわかっていなくて生年月日すら不明。
秋保さんやうたさんにいたっては当然かもしれないけれど記録にすら残っていない。
でも、私は確かに覚えてる。あそこで出逢った人たちのことを。
絶対に忘れない。忘れられない。
『お前たちは俺たちの分まで幸せになるのだ』
『あなたたちは絶対に幸せになれるから』
皇子と姫が言ってくれた言葉を思い出す。
皇子、姫。ありがとう。
あなたたちに逢わなければ、私と智は今もくすぶり続ける想いを胸に抱きながら、他の人の手をとっていたと思う。
本当にありがとう。
みんな、本当にありがとう。
「美姫、オレはじいちゃんになってもずっとそばにいるからな」
「うん、私も。おばあちゃんになってもずっと智の隣にいるね」
ふたりで幸せを築いていこうね、みんなの分まで。




