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神にそむいても  作者: 二条 光
21/23

夢幻のはざま

 ふきのとうの花言葉「真実はひとつ」



 三日後、検査なんかの結果が異常なくて無事に退院することになった。


「準備できたか?」


 病室で待っていると現れたのは智。


「智!うん!」


 ここが一人部屋で自分たち以外いないのをいいことに智に抱きついた。

 どちらからともなく唇を重ねる。

 あぁ、智だ。

 唇の感触、味。すべてあの世界で味わってきたものと一緒だ。


「ヤッバ!! マジ、やべ」


 唇がはなれると同時に私をかき抱くともだえるように情けない声を上げる智。


「どした?」


 顔を上げると、口調同様に情けないカオをしてて「いや、ベッドもあるし、誰もいないしさ~」とチラチラ私を見る。

 あ……、そういうことか。

 智の胸に顔をうずめてクスクスと笑った。


「なんだよ、健全な男子高校生の性欲なめんな」


 智も笑いながら冗談っぽく言う。


「私もおんなじだよ?」


 テレくさくって顔をうずめたまま言う。


「あーもうっ!! 煽んなっ」

「クスクス」


 智がかわいい。

 智にまわしてる腕の力をこめた。



 目を醒ました翌日、智は退院して一足先にウチに帰っていた。

 私にはお母さんが仕事を休んで昨日まで付き添ってくれていた。

 そして、今日から仕事だから昨日家に戻って、入れ替わりで智が迎えにきてくれた。


「荷物これ?」

「うん」


 ベッドに置いてたバッグをひょいっと持ってくれる智。

 昨日のうちにお母さんがほとんど荷物を持って帰ってくれてたから、智が持ってくれた旅行用のミニバッグとガッコー指定のスポーツバッグだけ。

 私はスポーツバッグを右肩にかける。


「んっ」


 智は空いてる右手を出してくれたので、それに応えるように左手で握った。

 智の手だ。

 少しだけ骨ばってて大きい、まぎれもない智の手。あの世界で私を最後まで離さなかった智と同じ手。


 私たちはどちらからともなくお互いのカオを見つめる。


「帰るか」


 私は大きくうなずいた。



 大阪からの新幹線の中。

 研修旅行初日、新幹線の中ですでに気分がすぐれなくて景色を楽しめなかったから、私は窓にへばりつくように外を見てた。


「今日、孝くるから」


 通路側の智がポツリ。


 孝くん……。

 実は入院してる時に何度か私のことを心配してくれるlineが届いてたけど、返事を全然返さなかった。


 智のほうを見ると、智は私の視線に気づいて見返してくれる。


「ふたりでちゃんと言おうな」


 智は私の右手をぎゅっと握ってくれる。そのカオはすごくやさしい。

 智は一番親しい友人をなくすかもしれない。それは私のせいと言ってもいい。

 でも、もう迷わない。智も、私も。

 迷う必要もない。

 胸を張って生きていこうって智と決めた。

 だから私はもう偽らない。偽る必要もない。


「ありがと」


 智は私を引き寄せて、そっとキスをくれた。



「ミケ!?」

「うにゃああ」


 帰宅して私と智を玄関で出迎えてくれたのは、あの世界で私が最初に出会った三毛猫にソックリなネコ。

 私の足にすり寄ってくる。

 えぇ!? どういうこと!?

 智を見ると、「多分ミケかもな」って言いながらそのネコを抱えた。


「コイツ、オレが奈良から帰ってきた時、ウチの前にいたんだよ。姫んちのミケとあんまり似てるし、“ミケ”って呼んだらこの調子だろ。もう飼うしかねぇなって思ってさ」

「そうなんだぁ」


 智からミケをもらい、抱く。


「ミケ~」


 ぎゅっと抱きしめる。

 ミケはほっぺたをスリスリ。


 うん、きっとミケだ。

 初めて会ったのがお前だったね。また、会えたね。



 ピンポーン。荷物を片づけてリビングに智といると、玄関のチャイムが鳴った。

 多分孝くんだ……。

 私たちは顔を見合わせる。

 智は小さくうなずくと、玄関へ向かった。


「うぃ~っす! 智大丈夫?」


 玄関から孝くんの元気そうな声がきこえる。

 太陽みたいな孝くんを私たちは今から曇らせてしまう。そう思うと、苦しい。

 けど、私はもう逃げない。


「美姫ちゃん!!」


 リビングに入って私を見つけるなり、孝くんはカオをぱぁ~って輝かせて私に駆け寄ってくる。


「久しぶりだね」

「え~、そんな経ってないよぉ」


 そか。現実は一週間しか経ってないんだった。


「そだね。私、ずっと夢見てたから。長く感じるのかな」


 智は私のコトバをきいてくしゃって笑った。


 私たちはいつものようにダイニングテーブルに着席する。私の前には智、智の隣には孝くん。

 こんなふうに三人でここで顔を合わせるなんて本当に久しぶりだな。最後にこうやって三人で座ったのってもうずいぶん前のことみたい。


「今日、孝にきてもらったのはハナシがあったからなんだ」

「どうしたの? 改まって」


 智と私が真顔で孝くんを見てるから、ビックリしちゃって孝くんはおどけるように言う。


「オレも美姫のことが好きなんだ」

「え!? は!? えぇ!?」


 孝くんはオロオロしながら、私と智を見比べる。


「待って待って! 待ってよ! 智と美姫ちゃんって、」

「オレたちイトコだったんだ」

「えぇ!?」


 孝くんがイスから転げ落ちそうなほどのけぞった。


「マジで……?」


 孝くんは体勢を立て直して私を見る。

 コクン。小さくうなずいた。


「そっか……」


 孝くんはヘラって笑う。


「じゃあ、ふたりは初めから両想いだったんだね」


 え?

 私と智は顔を見合わせる。

 智はすごくビックリしてる。多分私もおんなじようなカオしてると思う。


「なにビックリすること? ふたりの一番近くにいて、ましてオレ美姫ちゃんのこと好きだったんだよ~。気づかないワケないじゃん? でも、兄妹だしなぁって思ってさ」


 孝くんはふんわりと笑ってくれる。やさしくて強い、ヒマワリのような人。


「そっかそっか。……よかったね」


 ウソがへたっぴな孝くん。きっと本心から言ってくれてる。


「ごめん」

「ごめんね」

「やだな~。ふたりであやまらないでよ。オレ、みじめじゃん」


 ケラケラ笑う孝くん。本当に強くてやさしい人。

 私たちもつられて笑った。


 やっぱり孝くんは周りを明るくする太陽のような人。

 振り回してごめんね。そして、私のこと好きになってくれてありがとう。



 孝くんはそのあとすぐに帰ることになった。

 玄関先で私は智と見送る。


「智」


 孝くんは小さく手招きをする。

 ん?

 そして、智も不思議そうなカオをしながら上体だけ傾けると、孝くんは耳打ちをした。

 んん?

 孝くんがごにょごにょと話すうちに智の表情が険しくなってくる。

 ん~?


 孝くんが勢いよく智から離れる。


「へへ~」

「マジか……」


 孝くんのしてやったり顔に対して智のがっくりしたカオ。対照的だ。


「美姫ちゃん」


 そして今度は私を手招きする。

 ん?

 おそるおそる私が孝くんに上体だけ傾けると、チュッ、ほっぺにふれるだけのキスをされた。

 えぇ!?


「おい!! 孝、いいかげんにしろよっ」


 智がけっこうマジで怒りかけてる。

 私は孝くんの唇がふれたほうの頬をおさえてボーゼン。


「智のバーカ! これくらいしなきゃ気がすまないっての~」


 悪態をついたあと孝くんはケラケラ笑いながら、逃げるようにして帰っていった。

 残された私。智のカオがこわいんですけど……。


「孝とキスしたってマジ?」


 うっわ! 耳打ちしてたのはそれか!!


「マジか……」


 智は私のカオを見てショックを受けてる。

 それを見てると申し訳ないキモチとともに湧いてくる疑念。


「てか、そういう智こそどうなのよ」

「はぁ?」

「太田さんとキスしたんじゃないの?」

「は!? なんでだよっ。してねぇしっ」


 智の焦り方。絶対に智もしてる!!


「したんだ!」

「いやっ、あれは向こうがその不意打ちでっ」

「……フフ」


 しどろもどろ。

 そんな智がかわいくて口撃をやめた。

 そして、チュッ、智の唇に軽くキスをした。

 不意打ちをくらった智は一瞬面食らうけど、すぐににんまりと笑って私を抱きしめてくれる。


「もう他のヤツとしたらダメだからな」

「当たり前だしっ! 智こそ浮気しないでよ?」

「するワケねぇしっ」


 顔を見合わせて笑った。


 ひとしきり笑うと訪れる沈黙。どちらからともなく唇を重ねた。


「オレの部屋行くぞ」


 智は私の手をひっぱって自分の部屋へ行く。

 智の部屋に入ったのはあの頃以来。住人同様、あの頃よりも少し大人に近づいた部屋の雰囲気。

 初めて智とキスをしたあの頃、こんなふうに智と想い合える日がくるなんて一生ないと思ってた。

 私たちはベッドに並んで座った。


「あっちでは何回もオレたちヤッてんじゃん。でも、なんか美姫とそういうことしたっていう実感がないんだよな」

「わかるかも。私も、今でもあれって夢だったのかなって思うし」


 智はやさしく笑ってから顔をのぞきこんでキスをくれた。

 それは徐々に色の含んだものにかわる。

 重なった唇の端から私の小さな吐息がもれた。

 すでに色におぼれてる私のカオを見る智の瞳も、今からの艶事を想像するには容易で。

 私の子宮は智を欲していた、それは狂いそうなほどに。


 そうして、私たちはつながった。深く深く。

 あの世界で幾度となく智を感じたけれど。それは今となってはどこか夢のような出来事のように感じていたけれど。

 ひとつになった今、あれは夢なんかじゃなかったとはっきりとわかる。

 私のカラダはすっかりと智に染められていたから。すみずみまで智のことを、カラダはちゃんと覚えていたから。


 好き。そんなコトバじゃ足りないくらい。

 照れくさいけど、こういうの愛してるっていうのかななんて智の腕の中で想っていた。

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