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神にそむいても  作者: 二条 光
20/23

明かされた真実

 ツルハナナスの花言葉「大きな恵み」



 暗い暗い真っ暗闇。なんにも見えない。


『美姫』


 声のほうを振り返ると、そこだけまるでスポットライトが当たったように明るくなる。


 姫!


 姫はとっても穏やかな笑顔で私を見ていた。とてもとても穏やかな。まるでお釈迦サマのような。


『美姫ありがとう。私たちのために』


 え?


『伯父さまの妻になるといってくれて』


 でも、私は帝のところから逃げ出しました!


『いいのよ。お兄さまも言っていたでしょ、私たちは他の場所で生きていくなんて出来ないの』


 姫が哀しそうに笑った。


 ………。


『美姫たちは私たちの分まで幸せになって頂戴。あなたたちは絶対に幸せになれるから』


 ありがとうございます。


 姫が満足そうにうなずくと、スッと私の目の前から消えた。


 姫!!


 また、世界が真っ暗になった。



―――――――――――――

――――――――

――――――

…………

……



 う~ん……。

 まぶたをこじ開ける。

 どこ? ここ……。

 見たことのない天井。


「美姫!?」


 え?

 私の顔をのぞきこむのはお母さんだった。

 え……?


「よかったぁ」


 私の手を両手で包み込んで涙ぐんでるお母さん。

 私は視線だけを動かす。

 やっぱり見覚えはない。


「ここ、どこ……?」

「病院よ、奈良の。美姫、研修旅行で倒れたのよっ」


 あぁ、そっか……。


 体を起こすのはきつくて目だけで周りを見回すと、確かに病院っぽい。一人部屋らしく、他にベッドはない。

 壁に掛けてあった日めくりカレンダーを見ると、研修旅行からわずか一週間しか経っていなかった。


「ねぇお母さん。あのカレンダー」

「ん?」


 お母さんは私の視線の先をたどる。


「どうした?」

「あの日付って合ってるの?」

「合ってるわよ。あなた一週間も意識が戻らなかったのよ」

「……そっか」


 一週間か……。

 あの世界ではそれ以上の時間を過ごしてたはず。やっぱり長い長い夢を見てたのかな……。


 っていうか、智は!?


「ねぇお母さん」

「ん?」


 私の顔を本当にうれしそうに見てるお母さん。

 ズキンッ。そんなお母さんを見ると、罪悪感で胸が痛む。


「智は?」


 冷静を装ってきく。


「智なら、」


 お母さんが話し出したちょうどその時、ドアが開いた。

 智……。

 二人で一斉にそちらを見ると、そこには病衣を着た智が立ってた。


「美姫!」


 私が目を醒ましてることに気づいて智は目をまんまるくして急いで近づいてきた。

 思わず上体を起こす。


「美姫、無理しちゃだめよ」

「大丈夫!」


 お母さんが慌てて私をまた横にさせようとするけど、それを振り払うように体をゆすった。


「智……」


 涙が一瞬にしてあふれる。

 智とあの世界で過ごしたことはすべて夢だったのかな?

 ……でも、逢えたことは単純にやっぱりうれしい。


「よかったっ」


 智はくしゃっと笑ってくれる。そして、私に視線をくれたまま、お母さんとは反対側のベッド脇にあったスツールに腰掛けた。


「ふたりが倒れたってきいて、お母さん心臓とまるかと思ったわ」


 そう言って、お母さんは目尻の涙をそっとハンカチでぬぐう。

 胸のあたりがズキンズキンする。罪悪感。あの夢の中で、私はお母さんを捨てたんだ……。

 智もお母さんのことを複雑そうに見てるけど。でも、私と同じ理由じゃないよね……。


「なに? それ」


 智の左手首にリストバンドのような細いものが巻いてある。

 私の視線の先をたどり、智は「あ、これ? 患者のカンタンな個人情報が書いてある」と見せてくれた。

 名前と生年月日、血液型が書いてある。


「私も? あ、あった」


 両手を見ると、私も左手首に同じものが巻いてあった。

 ドキッ。智が私の手をとってそれを見る。

 幾度となく、私の隅々までさわった手。下腹部がほんの少しズクンってなるけれど、同時に胸がズキンってなる。

 あれも全部夢だったのか……。


 ん? どうしたんだろう。

 智の眉間のシワが寄る。


「美姫ってB?」

「え~? なワケないじゃん」


 智の真顔な表情が気になったけど、私は笑い飛ばしてそれを見る。

 ウチは両親ともにO型。

 メンデルの法則だと、子供はO型しか生まれない。つまり、私も智もO型しかありえない。


「え!?」


 だけど、確かに智の言うようにバンドに書かれてある血液型はB。

 私と智はほぼ同時にお母さんを見た。

 お母さんはマジメなカオで私と智を交互に見る。


「いつか、あなたたちには話さないといけないって思ってたのよ」


 そう言ってお母さんは私たちの知らなかった事実を語り始めた。

 それは私が生まれる前のこと。

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