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神にそむいても  作者: 二条 光
15/23

思いやる心

鬱金香の花言葉「思いやり」



 くすぐったい……。

 ハッとして目を覚ますと、ミケが顔をスリスリしていた。

 智は!?

 急いで廊下に出ると、秋保さんが控えていた。


「おはようございます」


 床につきそうなくらい丁寧に頭を下げてくれる。


「おはようございますっ。智は? 智来ました?」


 秋保さんは頭をゆっくりと上げて、「……いえ、見えませんでした」と表情を変えずに事実だけを教えてくれた。


「そっか」


 外はもうかなり明るい。今は初夏だから、多分時間にすると五時くらいだと思う。

 私、いつのまにか寝たんだ……。


 智は夜が更けても結局現れなかった。

 昨日は姫と皇子のことがあったから、ただでさえ心細くて智に会いたかったのに。

 智に会えなかったのは再会して以来初めて。



「美姫! 美姫はおるか!?」


 姫がいつものように一緒にいると、ドカドカと大きな足音を立てて現れたのは皇子。


「お兄さま……」


 皇子を見た途端泣きそうになってる姫を皇子は一瞥してやさしく笑うと小さくうなずいた。


「美姫よ、智はどうした」

「えっ?」


 姫も昨日智が来てないことを知ってるから、不思議そうなカオをして皇子を見る。

 今度は皇子が怪訝そうに私を見る番。


「夕べはこちらに来たであろう?」

「いえっ」


 答えながら慌てて首を横に振った。


「お兄さま、昨夜は智もこちらへは来ておりませんわ」


 姫と私は顔を見合わせる。

 皇子をチラッと見ると、眉間にシワを寄せてる。


「智の姿が見えぬのだ」

「えっ!」


 私は口元を両手で覆う。

 どういうことなの?


「昨日、お前のもとへ行くと出たきりだ」


 さっと血の気が引いていく。


「来てません! 智はこちらには来ておりません!!」


 私は何度も頭を激しく振った。


「さようか……」


 皇子は私の様子でウソじゃないことはわかってくれたみたいで、腕組みをして右手をアゴにそえて考え込んだ。

 姫が心配そうに私と皇子を見る。

 ウソだよ。智がいなくなるって!

 そんなのありえない!

 目の前が真っ暗になる。



「美姫、何処へ行く!」


 いてもたってもいられず、玄関へ向かおうとした私の腕をとって皇子は行くのを阻止する。


「だって捜さなきゃ!」

「お前が闇雲に動いたとてどうにもならん事ぐらい分からんのかっ」

「でもっ」


 皇子は小さくため息をつく。


「お前は姫と瓜二つ。独りで動けば姫と間違えた者から拐われるやもしれん」

「……」


 そうだった。

 いつだったか、皇子のことを快く思ってない人たちがいるから、姫も命の危険にさらされるかもしれないって言ってたっけ。


「美姫ごめんね」


 姫の消え入りそうな声。

 私は首を横に振った。


「姫はなにも悪くないよ」

「すまんな美姫」


 本当に申し訳なさそうにしてる皇子。

 この人がこんな態度を私に見せることもあるんだ。逆に言えば、智が今置かれている状況は思わしくないことだと容易にさとられる。


「いえ、皇子が謝ることじゃないですよ」


 私はふたりに向けて笑顔を見せた。強がりかもしれないけれど、強がらなけばやってられない。


「もしかすると、智も俺の事で何かしら危険な目に遭っているやもしれん」


 “危険な目”、改めて告げられるとその言葉にゾッとする。

 それでいて、私は智のためになにもできないなんて……。


「すまんな、美姫……。智に関する事を見聞きしたらすぐに知らせよう」

「お兄さまっ」


 姫に笑いかけて部屋を出ようとする皇子の胸に姫が飛び込むと、それに応えるようにひしと姫を抱きしめた。


「お兄さま、もう少しだけお返事待って下さる?」

「勿論だ」

「お兄さまの足枷にはなりたくはありません。だけど、お兄さまへの想いを断ち切る事も伯父さまのもとへ行く事も私には耐えられません。どうすればいいのか、もう少しだけ考えさせて」

「……ありがとう姫。すまんな、俺の為に。こんなにもやつれてしまって」


 そう言うと、皇子は姫にキスをした。

 こんな時間だし、最後までスることはないと思うけど、なんとなくいづらくて私は自分の部屋へ戻る。

 ミケがついてきてたみたいで、部屋へ戻る途中私を追い抜いてから立ち止まり、そして振り返った。


「ミャア~ン」


 そういえば、朝もいてくれたっけ。心配してくれてるのかな。

 ミケを抱えてそのまま抱きしめると、ミケは私のほっぺたをスリスリ。


「ありがとう」


 あー、ミケは癒されるなぁ。


「美姫さま」


 後ろを振り返ると、心配そうに私を見つめる秋保さん。


「私も何かお力になれるといいのですが」

「ありがとう。気持ちだけで充分だよ」

「美姫さま……」


 秋保さんは泣きそうになってる。

 こんなにも気遣ってくれる人たちに私は囲まれてる。

 もともとどこの人間ともわからないのに、みんなあたたかい。


 ねぇ智。

 今どこにいるの? 皇子の言ってた“危険な目”に遭ったりしてない?

 智、どうか無事でいて。

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