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神にそむいても  作者: 二条 光
14/23

えらべない道

陸蓮根の花言葉「恋によって身が細る」



 翌朝。

 姫は昨日皇子に会えたのに会う前よりさらにふさぎこんでた。食事をとろうともせず、うたさんもその姿にショックを受けている。


「姫と皇子、昨日なにかあったんですか?」

「えぇ、まぁ……」


 廊下からそっと姫の様子をのぞいてたうたさんに声をかけると奥歯にものがはさまったような言い方をする。


「皇子に別れでも告げられたの?」


 そんなこと考えたくないけど。あんなふさぎこみ方、それくらいしか考えられない。


「い、いえっ」


 うたさんの目が泳ぐ。


「そうではございません。美姫さま、ご勘弁をっ。これ以上、私の口からは申し上げられませんっ」


 うたさんは床に頭をこすりつける。

 それ以上うたさんにきくのはかわいそうになって、姫の部屋に入った。



「姫……」


 姫は廊下側に背を向け伏せていて、私はやんわりと声をかけた。

 彼女の体が一瞬ピクンと動く。そして、こちらをゆっくりと振り返った。


「美姫……」


 泣きはらした顔。私を見るとさらに涙があふれる。

 そして、姫は私に抱きついて「私、どうしたらいいの?」と消えそうな声でつぶやいた。

 私まで泣きそうになるけどグッとガマンして、彼女の震える肩を優しく包んであげた。


「皇子になんて言われたの?」

「“全てを捨てて俺たちの事を誰も知らない国へ行こう”と」

「それって!」


 姫は慌てて顔を上げる。


「いいえっ。美姫、聴いて頂戴」


 ボロボロな精神状態は見てもわかる。それなのに、彼女はどこか凛として私を見る。


「勿論、そんなにもお兄さまが想ってくれているのは本当に嬉しいの。私も全く同じ気持ちよ。でもっ。でも、それはお兄さまの為にもこの国の為にもならない事なの。お兄さまはこの国になくてはならない存在なの。そして、お兄さまは本当にこの国を素晴らしいものにしたいと心から思い、またそれを実現出来る方なのっ。私はお母さまのおっしゃった通り、そんな方の邪魔でしかないのっ」


 声を震わせて早口で想いを伝えてくれた。

 あの皇子が姫と駆け落ちしようなんて持ちかけるってことは、皇子自身も今よっぽど窮地にたたされてるんだと思う。


「でも、私はお兄さまと只の兄妹なんて今更戻れないわ、絶対に。ねぇ美姫。私はどうすればいいの?」


 姫の気持ちも皇子の気持ちも痛いほどわかってしまう。

 私と智は姫と皇子の立場とは違う。

 だけど、私たちも兄妹だから、苦しいくらいわかってしまう。

 本当にどうすればいいの?

 私と智は、姫と皇子はどうすればいいの?

 私たちは幸せになっちゃいけないの?

 ねぇなぜなの?


「美姫……」


 返す言葉がなくて呆然としてると、とうとう姫が子供のようにわんわんと泣きじゃくるから、私も泣くしかなかった。


 ねぇ神さま。

 なぜ同じ両親から生まれてきた私たちだけがこんなにも苦しまなければいけないんですか?

 どうして母親が一緒というだけでこの時代も罪に問われるのですか?

 ねぇ神さま、教えてください。

 この世界に私と智が堕ちたのは暗にそれを知らしめたかっただけなのですか?

 ねぇ神さま、どうか教えてください。



 その夜、皇子は来なかった。

 そして、智も姿を見せなかった。

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