防衛戦
「SRD-011ヴォイジャー、全機能に問題なし。評価試験を開始する」
シグムントの声と共にハッチが開く。高度は20000mといったところか。今日は快晴。雲も数えるほどしかない。輸送機の中から1機のロードが顔を出した。四角いテレビ顔のその下には三つの目…トライアイセンサーが光る。両肩には可動式の大型ショルダーシールドが備え付けられており、またそのほかの部分も現行のカッシーニと比べて軽量化されており、なおかつ装甲の強度も上がっている。
「了解した。幸運を祈る」
輸送機のパイロットはそう言い、彼を送り出した。
「基地で会おう!」
勢いよく飛び出すとショルダーシールドを機体の前へやり、落下体勢に入る。加速が始まり、数秒ほどで雲の浮かぶ高度に突入した。
「下ではカノンタイプの部隊が防戦中らしいが…まったく。なぜ新型のテストがこんなにも特殊な状況なのだ」
今回の試験は攻撃を受けている友軍の基地の防衛だ。攻撃の知らせを受けた時点での敵機はおよそ6機。加えて歩兵部隊らしいが、基地に配備されている「リトル・カノン」では対処しきれないだろう。機動戦車が人型機動兵器「ロード」の部隊に勝つには相当な時間と技量が必要だ。
「こちらファランクス部隊のシグムント中尉。援護に入る。各機、敵を一箇所に集められるか?」
「無理ですよ!こっちのカノンタイプの武装はほぼはじかれるんです!」
リトルカノンは頭がなく、両腕のあるべき場所に制圧用ガトリング及び、シールド。キャタピラは折りたたみ式の脚部なのだがロードと対峙するとなると有効な攻撃手段は人で言う頭に当たる部分に備えられた主砲しかない。それすら関節を狙わねばまともなダメージすら与えられない。
「ロードはいないのか!?」
「先の襲撃で使えないんです」
「了解した。各機、生存を最優先にせよ」
炉の出力を最大にし、急ぐ。敷地の広さに反して建物は少ないため、見通しも良い。敵はすぐに見つかった。
「こいつを食らえ!」
ライフルを構え、撃つ。放たれたのは青白いビームだ。背中からコックピットを焼かれた敵機は機能を停止する。続けざまにもう一機を強化サーベルで一突きにすると状況を確認する。
「私の周りにいるリトルカノンは3機。7機の信号が途絶。残りの5機は周辺に散らばっているか…。各機、通信が聞こえているならば後退し、一箇所に集まれ」
それが聞こえた者たちは、了解の意を伝え後退を始める。
「そこの三機、セプチウム炉をフル稼働させている間は通常回線は使えない。通信を中継してくれ」
「はっ!」
3機はヴォイジャーの後方の遮蔽物に隠れる形で通信を中継してくれる。
「残りは4機」
随時更新されているマップを確認し、交戦中と思われる区画に急ぐ。最新機といっても数で劣る。時間がたてばこちらが不利になる。移動中に発見した敵歩兵部隊を排除しながら目的地へ。
「生身を殺るのは気分が悪い。…クソ!」
目標ポイントに到達したと同時に熱烈な歓迎を受ける。残機すべてがそこにいた。
「何を考えている?」
少ない建物を利用しつつ射撃戦に入る。こちらは炉が臨界に達しない限り撃ち放題だがほかの動力も炉に依存しているため使いすぎは禁物だ。長々と射撃戦を続けていても包囲されるだけ。それならばやるべきことは決まっている。
「一気に潰す」
シールドを展開し、降下のときと同様に機体の前に移動させる。と、そのまま機体を突進させた。ライフルを捨て、腰のサーベルラックからビームサーベルを両手に持つ。
「リトルカノンはできるだけ俺が相手してるやつ以外の気を引け!この機体がやれれちまえば終わりだぞ!」
「りょ、了解!」
3機のリトルカノンは通信中継用の1機を残し、残りの2機が散開する敵機に主砲とガトリングによる牽制を行ってくれている。一番近くにいた機体のもとにたどり着くとやたらめったらに撃たれるアーリア・ライフルを斜めに設定したショルダーシールドで弾きつつ正確にコックピットだけを貫いた。
「お次はどいつかな?」
ヘルメットを脱いで汗の垂れる髪を後ろにやる。降下から短時間とはいえ機体にかかるGはかなりのものだ。不完全な重力子炉ではコックピットのGを殺しきれない。
「まとまってりゃ楽ってものよ!」
次は2機まとまっているのを目標にして動き出した。シールドの裏にマウントされているグレネード各種を射出しながら距離を詰める。2機のアーリアはライフルで牽制しつつ回避をするが、その間にヴォイジャーに近づかれてしまう。
「中尉!1機ロストしました!敵も新型がまざってますよ!」
「ええい、面倒な!そちらで何とか見つけられないか!?」
「手の空いた機体にやらせますが期待はしないでくださいよ」
「助かる…よ!」
最後の一言に力を込めて出力を上げたビームソードを袈裟に斬り、2機まとめて切断する。先ほど捨てたライフルの代わりにアーリアが持っていた実弾のライフルを頂戴する。そしてすぐさま遮蔽物に身を隠して火器管制システムの設定書き換えを行う。
「こいつは前に見たことがあるタイプだな。これなら…。っ!?」
突然、遮蔽物の一部が吹き飛んだ。
「中尉!10時の方向、シールドの下にガトリング。それに強化ロングソードを装備しています」
敵機を視認したリトルカノンが通信と映像をよこす。が、カノンタイプを大した戦力とみていないのだろう。現れたそいつは前に僚機としてともに戦った騎士風の装備と恰好をしたヴィンターという前世紀の遺物に似ていた。顎を除いた頭をすべて覆う兜のような装甲と3本のスリットから除く三つの目はそれが共和国のアーリアのトライアイセンサーを受け継いでいることを認識させる。
「量産機…であるなら厄介だな」
アーリアに比べて明らかに性能が強化されたように見える装甲に固定武装のガトリングはシールドに固定されていながらも、その左腕の機能は全く阻害されていない。右手に握られたロングソードは実体剣でありながらも対ビームコーティング独特の光沢を放っていることから、このヴォイジャーのビームサーベルともやり合える可能性は高い。
「中尉、司令から通信です。繋ぎます」
「―よりSRD-011。こちらクレア准将だ。現在交戦中の敵の背後に同型と思われる機体を有した部隊を確認した。接触するまで20分だ。こちらも増援を要請している。増援は50分後。しかしこちらの基地の機体は20分ほどで出せる」
通信の声は女性だが、実直な軍人といった印象だった。鉄血と噂に名高いクレア・カーライム司令である。
「了解。何機出せる?」
「カッシーニのディフェンダータイプが2機。すまないがそれ以外は修理が間に合わなかった」
「わかった。それまで守ってみせますよ、司令」
FCSを解除したアーリアライフルで牽制をしつつ距離を詰める。今回のこちらの装備は近接戦闘向けだ。先ほどと同じようにシールドでガトリングの弾丸を弾きつつ一気に距離を詰めた。相手も近距離ではデッドウェイトになると考えたのか、ガトリングをこちらに投げつけるようにパージして身軽になる。
「おおお!」
サーベル2本に持ち替えて敵機を挟むように斬りかかる。ロングソードのビームコーティングが大したことがなければこれで仕留められるはずだ。
「そう甘くはない…か!」
2本のサーベルはシールドとロングソードに受け止められた。ソードのほうはわずかに刀身が焼かれている程度で時間をかけなければ切断はできないのが一目でわかった。
「ぐっ…」
敵機が胴体に蹴りを入れてきた。突然の振動に対応できず、バランスを崩してしまう。相手がこの隙を見逃すはずはない。それを見越して重力子炉のエネルギーを機体制御へ回す。通常は重力に対して相殺するように働いている反重力を機体の左側に作用させる。すると機体は何かに引っ張られたかのように左へ加速して振り下ろされたロングソードを回避した。
「ヴィンターの劣化版に負けていられるかってんだよ!」
バランスを取りながらシールドを突進するときのように前にする。が、今度は防御に使うのではない。
「当たれよ!」
展開されたシールドがさらにスライドし、マイクロミサイルが姿を現した。シグムントの声とともに発射されたそれは合計で20発。当たらなくとも牽制にはなる。ミサイルを視認した騎士もどきは盾を構え、正面からの面積が最も小さくなる形で突っ込んできた。ミサイルがシールドと接触して爆発をおこし、ヴォイジャーからは確認できなくなる。
「出てくる場所は分かっている!」
機動力で大きく優っているわけでもないのにちょこまかと動き回ったのにはわけがある。
「こいつでとどめを刺す」
拾い上げたのは先ほど捨てたビームライフル。敵機がガトリングを捨てた時点でこの戦いでの射撃武器を持つことの優位性が確立された。相手もライフルを拾い上げればそれはなくなるが、そのためにロングソードや盾を捨てるとは思えない。素早く左側の遮蔽物近くに移動すると騎士もどきが黒煙から姿を現した。そして予想通りいるはずのこちらの姿を探している。
「あばよ」
青白い閃光が騎士もどきのコックピットを横から貫く。胴に穴の開いたそれは力なく倒れ、3つ目はその光を失った。