恋の病
本編終了後の小話。
◆申告
「シャール、私、最近おかしいの」
「お体の調子がどこか優れないのですか?」
「ううん、体は大丈夫なんだけど、精神的に病んでるっていうか」
「どなたかから嫌がらせを?」
「バカなことをいうと思って聞いて。シグのことがお城で一番かっこいいって思っているんだ」
「正しく物事を判別していらっしゃると思いますが」
「ごめん、嘘ついた。都で一番くらいに思ってる」
「間違いないかと」
「ちがうの! 本当はニールゲン一くらいに思ってる!」
「はあ」
「私、のろけすぎだよね?」
「いえ全然? 世界一とおっしゃられても、まあ、許されるかと」
「……」
◆診察
「つまり、アルカ様は現在、恋の病にかかっていると。そうおっしゃりたいわけですね?」
「自分ではかかっているつもりなんだけど」
「他にはどのような症状が?」
「何かにつけてシグのこと考えるんだ。シグルド見ててもシグのこと考えちゃって。シグにそっくりだな~って」
「事実似ていらっしゃいますからね」
「シグに似て強くて賢い子になって欲しいな~とか」
「親だったら誰でも思いますよ」
「シグルドが世界で一番かわいいな~とか」
「アルカ様、それはのろけではなくただの親バカです」
◆症状①
「他にもあるんだよ。シグといると顔が赤くなったり、胸が苦しくなったり、名前呼ばれるだけでドキドキしたり」
「まずまずの症状ですね。後は?」
「シグが一緒だと食事もろくに進まないとか」
「なるほど。まさにこの病らしい症状ですね」
「シグが心配して食べさせようとしてくるんだけど、そんなの余計に食べられないし」
「お腹いっぱいというより、胸がいっぱい、ですね」
「抱きしめられるのもキスされるのも、もう嬉しくて恥ずかしくて死にそうで」
「最近、陛下がお帰りになられると、やけに身構えていらっしゃるのはそのせいで?」
「そうなの。しばらく私を隔離してもらえないかなあ?」
「無理です。陛下も同じ病を発病して、最悪発狂します」
「じゃあせめて、シグに五歩以上はなれて話そうって頼んでいい?」
「陛下が変に曲解した挙句、城から男がいなくなりそうなのでお止めください」
「じゃあ私、どうすればいいの!?」
「耐えてください!」
世界平和のために、とシャールは拳を握った。
◆症状②
「でも、一緒にいると緊張して仕方ないくせに、いないといないで、不安になるんだよね。城内の散歩中についシグの姿探したり、シグの帰りの予定が遅れると、心配で眠れなくなったり」
「そうなんですか? そんなそぶり、全然、気づきませんでしたけれど」
「ならいいんだけど。私、ついには思い余って……こんなものまで」
「かわいい竜のぬいぐるみですね。これが何か?」
「シグのぬいぐるみ」
「……赤い竜の形していますけど?」
「うん。ヒト型より、こっちの方がシグっぽいかなって」
「アルカ様の中で、陛下はどんな存在なのですか?」
◆症状③
「あとね、シグが女の人と話してると、気になって仕方なくなる」
「陛下の場合、女性の方が言い寄ってきますからね。落ち着かないでしょうね」
「とくにレノーラさんと話してると、本当に気になって。シグも楽しそうだから」
「どんなことを話していらっしゃるのでしょうね」
「大したことじゃないんだよ。ちょっと聞こえてきた会話が、全殺しのが好み、とか、私は生かさず殺さずの方が、とかそういうことだったから。全然心配するような内容じゃないみたいなんだけどね」
「それは別の意味で心配ですよ!?」
◆診断結果
「あーあ。こんなに挙動不審で、私、シグに変な奴って思われて嫌われないかなあ」
「陛下は全然、気にしていないと思いますよ。陛下はアルカ様のどんなことでも受け入れてくださいますよ」
「そうだよね。シグは優しいもんね」
「え? 陛下が優――? これは相当重症ですね……」
「なんで急に!?」
◆処置
「アルカ様、陛下の欠点を思い出されてみてはいかがでしょう。欠点に注目すれば、少しは恋の熱も冷めて、落ち着いていられると思いますが」
「なるほど、欠点かあ。熱くなると我を忘れちゃうところとか、目的のためには手段を択ばないところとか、自分の欲求に素直すぎるところとか?
でも、とっくに承知のことだし。うん。大して気にならないや。こういう場合、どうしたらいい?」
「処置なしで」
◆処方箋
「いっそ、陛下にそのままおっしゃってみてはいかがでしょう。陛下と一緒にいると、ドキドキして死にそうだって」
「実はもう、一度いったことあるんだ。そしたら、シグ、毒でも盛られたのか!? って大騒ぎして。侍医まで呼ばれちゃって」
「……」
「恋の病です、なんてボケたことも言えない状況になってね」
「どうなったんです?」
「もちろん私の病は原因不明。侍医の人は、しばらく様子見で、何もなければ時間が解決しますよっていってたよ」
「ある意味的確な判断ですね」
アルカに時間薬が効くのには、そこそこの量を要した。




