銀竜イーズ&シグラッド
黒竜編17話頃の話。
「あのう、赤竜王様」
「なんだ銀色トカゲ」
「……ごめんなさい。やっぱり不愉快ですよね。試着とはいえ、私がご婚約者様が着るはずだった婚礼衣装を着ているのは」
「ものすごく不本意だと思ってる」
「すみません脱ぎます許してください」
「おい、勝手に脱ぐな。不本意なだけだ。不愉快なわけじゃない」
「つまり?」
「……………予想通り似合っているからしばらく見ていたいっていっているんだ」
「――」
「バカ、おまえが赤くなるな! おまえを褒めているんじゃない、アルカを褒めているんだからな。気持ち悪い勘違いするな」
「わわ分かっていますけど。……そんなに似合ってますか?」
「めちゃくちゃ。すごく。妖精みたい。私が触っていいのかってためらうくらい、かわいい」
「妖精って。そんな、大げさな。恥ずかしい」
「は? 何だって? 大げさ? アルカは見た目だけじゃなくて、しぐさもいちいちかわいいんだぞ。おまえにアルカの何が分かる!」
「何がわかるって――いえ、なんでもないです。ハイ」
「投げやりにいうな。アルカはな、アルカはな」
「分かった分かった分かりました! だからそののろけだけは勘弁してください。聞いてて死にそうに恥ずかしい……っ」
「のろけてない! 事実をいっているだけだ!」
「そうですよねそうですよね! 分かっています! その通りです! 最高だと思います! はい!」
「分かればいいんだ、分かれば」
「……」
「……中身がおまえじゃなかったらな。きっとプロポーズしてたな、それ」
「するなら、彼女になんて?」
「愛してる。結婚してくれ。もう王座も何もいらない。今、目の前にあるものが手にあれば私は幸せだから」
「……」
「何泣きそうな顔してんだ。絶望的になるくらい全くときめかない破滅的な出来のプロポーズか」
「逆です。ものすごい反則だと思って」
「は?」
「離れられなくなっちゃいますよ。そんなの。――彼女が聞いたら」
「……」
「ああ、もう。本当に。彼女も泣きますね。そんなの聞かされたら、ねえ」
「服脱げ、銀竜」
「はい?」
「これ以上その姿でいられたら、こっちの我慢がもたないから、早く着替えろ。そんな反応、そっちこそ反則だ」
「……私、恥ずかしくて死にそうです」
「……こっちもだ、バカ」
二人は耳まで赤くして言い合った。
*****
「ところで、脱ぐときもやっぱり目隠しですか?」
「当たり前だ。見るなゲス。自分で脱ごうとするなカス。触るなエロ竜」
「まったく肌に触れないでぬぐって、難しいんですけれど。侍女さんたち、なんか気を使って席外してしまいましたし」
「じゃあ、私が手伝うから。動くなよ」
「はい。――んっ、あっ。やっ、そこは」
「……変な声出すなバカ! 妙な気分になるだろ! 私に道を誤らせる気か!」
「すみませんすみません! くすぐったくて。ごめんなさい」
「おまえがメスじゃなかったのが救いだぞ本当にー! おまえなんか大嫌いだ大嫌いだ大嫌いだー!」
己の平静を保つため、皇帝陛下は激しく額を壁に打ちつけた。




