新入部員歓迎会
新入生歓迎会。新一年生で形成された文芸部では必要ないことに思えたそれは、許し先生の一言でやっぱり決行することとなった。
その一言とは「わたしが歓迎してやる」というものだ。まぁ、新一年生だけでお互いを歓迎し合うなんて少し馬鹿げた話だと感じていたところなので、先生のその言葉は嬉しかった。
場所は駅近辺の前にくっちゃべってたお好み焼き屋――とはならず。夏秋と村瀬の行きつけの喫茶店『はるひ』で執り行われることになった。そのほうがありがたい。なんせ、騒がしいのが二匹ほど、いや、もっといるからな。
金曜日の放課後、俺達は一足早く『はるひ』に来ていた。もちろん、先生は仕事があるので遅れてやってくるらしい。
待ってる間は、暇なので水野と一緒にフライドポテトを頼み半分こ……のつもりだったが、店長が持ってくるやいなや俺達の他に伸びる手が三本。あっという間になくなった。嵐のような速さでなくなった。
水野が肩をすくめる。俺、三本しか食ってないよ?
なずなは遠慮がちにポテトをとってたけど、一番多く食ってた気がする。
ブレザーの袖を濡らす俺の前で、前髪を垂らした村瀬はせっせと宿題に取り組んでいる。せこい奴だ。分からない問題があれば聞く、というスタンス。
なずなは小説に目を落としているし、夏秋は予習をしているのだろう。
水野は店長にコーラを頼み、ストローでちゅーちゅーと飲んでいる。俺はといえば、出費を抑えたいので何も頼めないし、何もすることがない。
「知ってますか? 文章検定」
「そんなもんあんのか? 絶対受けないからな!!」
「僕も受けませんよ。準一級の勉強で忙しいのです。恭平くんは何かと突っかかる」
「変なこと言うからだ」
からんからんというチャイムが店内に響き、免先生が入店してきた。
「ごめんねー。じゃ、始めましょうか! えーと、コーラ六つ! と、苺のショートケーキ六つ! と、フライドポテトと、唐揚げ! 以上です!」
「はいはい」
早速運ばれてきたコーラでみんなで乾杯する。
「店長、割引してくれるんですよね?」
村瀬が手を合わせ店長をチラチラと眺める。整った顎鬚を撫でながら、声を上げて笑う店長。
「そこはうんと安くしとくよ。ウチは少し閑古鳥鳴いてるからね、常連さんを手放すことは避けたいねー。あ、お代は先生持ちだろう?」
「え? あ、あはは。そうですぅ! もちろん、顧問ですし!!」
その場全員の視線を浴び先生は動揺しつつも、笑顔を取り繕う。絶対、割り勘のつもりだっただろう。そして、その浅はかで愚かな考えは、文芸部員というハイエナが葬り去ってやった。しょぼいチームワークだ。
「やったー! じゃあね、ホットケーキと、ミルクセーキ、あとは……」
「コーヒーゼリー、クリームソーダ」
各々、好きなものを淡々と頼んでいくさまは恐ろしかった。とはいうものも、俺もちゃっかり頼んでるのだが。
「ふ、では僕はカフェラテでも頂きます」
「チミ達……生意気じゃないかね? 先生は財布じゃないよ? 先生、怒るよ」
「わ、わたし、ロールケーキ追加で」
「なずなちゃんまで虐める!! 絶対ダメだ!! 先生払えない!!」
「先生、諦めてください。あなたが普段強引すぎるから、生徒も荒れちゃうんです。慰めはさておき、みんな、復讐の時間だ! みんな、じゃんじゃん頼もう」
「おー!!」
夏秋が吼えると、みな呼応する。
「ああん。あたしの給料。あたしのエルメスのポーチ……」
テーブルで突っ伏して泣く免先生は、試合を終えたジョーのように戦意喪失していた。真っ白に燃え尽きていた。
「先生はお洒落好きなんですね」
「どういう意味よ!! わたしも女の端くれ、流行、ファッションには敏感よ!!」
「だって、メイクもしないし、髪もボサボサ、そして馬鹿面」
「村瀬ちゃん、こっちに来なさい」
「僕が口を挟むのもなんですが、ここにいる女性はみな美しい……あと、フライドポテト追加いいですか?」
「もうどうにでもなれ……」
テーブルの上に色鮮やかな飲食物がどんどん並んでいく。その度に先生の顔は青くなる。
「で、結局、部員はこんだけで収まりましたね。都合よくというか、これ以上の人数にはあの部屋は狭すぎるでしょうね」
「そうだな。居場所がなくなりかねん」
「わたしもそうね! 地味な子ばかりだって最初は思ってたけど。楽しいし」
そう言ってポテトを貪る村瀬の顔がいつもより綺麗に見えることに気づいた。メイクが薄くなってる。
「なによ……? わたしの言うことに文句あんの?」
「いや、化粧、今日は薄いんだなーって」
「その方が大人っぽいよなー? あたしはそう言ってやってんのに聞く耳持たないし」
「わ、わたしは前から気づいてたけどね! こ、この方が時間短縮にもなるしね!」
そう言って、そっぽを向く村瀬は飼い主に懐かない猫のようだった。
「あー、ビールか焼酎飲みてー……」
「……生徒の前で飲酒はやめてくださいね、先生」
なずなが唐揚げを口いっぱいに頬張り言う。げっ歯類か!! と突っ込みたくなる。彼女の行動一つ一つが小動物のようだ。気の弱いハムスターに通ずる可愛さがある。
それにしても、なずなも随分と溶け込んだものだ。俺が言うのもなんだけど、彼女は臆病で人見知りだから夏秋と村瀬の二人と合わないかと思っていたけど……最初の頃の照れくささはどこへやったのか、ただ目の前の食べ物に夢中になってるだけだったなんてオチではないことを願おう。
黒革のソファにもたれだらける。バニラの溶け込んだソーダをストローで啜る。甘さの中ではじける炭酸が舌を刺激した。




