【第一話】盗まれたがらくた
昼下がり。
窓から差し込む日差しが瓶に入った色鮮やかな液体を照らしだし、梟のアトリエは極彩色となる。
アトリエの使用人であるクレアはこの景色を見つめて一息をつき、もう一度様々ながらくたを見回した。
(薄汚れた)東方の国の獣のたてがみ、(枯れた)太陽と月が重なる時に咲く花、(錆びた)ゼンマイ式のゴーレムの模型。
これら一つ一つに必要な処置、掃除をしているうちに陽は傾き、クレアの半日は終わってしまう。
夕食の支度をする前に茶を入れ、この日二度目の休憩を取ろうとしたところで、ようやく主は目を覚ます。
「おはよう…クレア。今日もお勤めご苦労様。」
「おはようございます、マリー様。今日も全てのがらく…宝物たちに必要な処置をいたしました。」
「取り繕おうとして大袈裟な呼称になってるよ。いつもありがとうね。」
寝巻きのまま挨拶を交わした彼女こそ、梟のアトリエ(古物商)の店主、マリーである。この店は古今東西の古物を収集、販売をしている…筈ではあるが、ほとんどがマリーの私物であり、売り上げという売り上げはない。
「今週のお客様は一名様のみで、聖水を買われていきました。まだ在庫はありますので仕入れの必要はございませんね。」
ほとんど毎日このような有様であるが、クレアの売り上げや在庫の報告をかかさない。
ここからマリーとクレアは夕食を共にした後、クレアは自室で就寝し、翌日また同じ一日が始まる。
何の変化もなかったはずの日常に、大小さまざまな事件が重なり、一つのうねりとなってクレアを巻き込むことになるとは、この時マリーさえ知らなかったことである。
翌日の営業が終わり、クレアがマリーに報告をしていた時であった。
「マリー様。北方民族に伝わる秘薬が…“盗まれていました"。」
小さな歪みが始まったのである。




