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カナリア

作者: 池上 慧
掲載日:2026/04/23

 アパートの窓から見える電線にあのカナリアがとまっていた。しばらく見かけなかったので気になっていたんだ。黄色いカナリア。群れをなしてとまっている痩せた雀たちから少し離れてそのカナリアはいつも1羽だけでいた。いつも通りだ。いつからあいつを見かけるようになったんだろう。たしか、ここに越してきたのとほとんど同時期に見かけるようになったんだ。まだ部屋の中に荷造りをほどいていない段ボール箱があちこちに転がっていたあの頃。ふたりして窓から顔を出して眺めていた。僕たちにはそれが何かの象徴みたいに思えたんだ。何か良いことの起きる兆しかなんかみたいに。


 僕は荷造りを終えた段ボール箱の中をかき回してエアガンを取り出した。

「ねえ、あれ知らない? ガス、ガス。弾丸はあるんだけどガスがないんだよ、ガスが」

 彼女は玄関に立っていた。足元には大きなバッグ。開け放したドアの向こう側から西日が彼女の濃い影を作っていた。彼女は見たことのない淡いグレーのスーツを着て、後ろ向きにヒールの高い靴を履いていた。かがみ込んだ栗色の髪が彼女の顔を覆い隠す。

「一緒にこの箱の中に入れたはずなんだけどな」

 彼女は手にした鍵を、ここに置きましたから、という感じで下駄箱の上に置いた。そのあいだ一度も僕の方を見なかった。ドアも開け放したままだった。

 

 彼女がいなくなってひとり取り残されてみると、がらんとした部屋はやけに広く感じられた。僕は窓辺に寄り、電線の上のカナリアを眺めながらカーテンをカーテンレールから取り外した。何気なく投げた石が偶然当たって鳥が死んでしまったなんていう話があったな。まさか当たるなんて思いもしなかったのに当たってしまった。あの鳥は何の鳥だったのか。水辺にいたのだからきっと鴨かなんかだったのだろう。僕は外したレースのカーテンを畳んでその辺にある段ボール箱に入れようとした。そうしたらたまたま開けた箱の中にエアガンのガスが入っていた。


「こういうことってあるんだな」


 僕は銃にガスを充填し、電線の上のカナリアに狙いを定めた。今日こそは当たりますように。きっと当たるはずだ。僕はあのカナリアを撃ち殺す。それはきっと小さな奇跡になるはずだ。


 そして、僕は引き金を引いた。


 弾丸は空気を切り裂き小さな黄色いカナリアに当たった。すると、カナリアはさほど驚いた様子でもなく小さな羽をはばたいて夕陽とは反対側へ飛んで行った。


 そして、いつしか見えなくなってしまった。

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