EP 7
「いざポポロ村! 喋るネギとの入村ディベート」
ニャングルが手配してくれたロックバイソン(岩角牛)の荷馬車に揺られること数時間。
俺とリリスは、三国境の緩衝地帯に位置するのどかな農村――『ポポロ村』の入り口に到着した。
「わぁぁ……! のどかですぅ! 空気が美味しいですぅ!」
リリスが荷馬車から飛び降り、大きく背伸びをする。
見渡す限りの畑。しかし、その光景は俺の知る「日本の農村」とは少し違っていた。
「ギャァァァァァッ!」
「こら待て、この逃げ足の速い人参め!」
農家のオッサンが、自分の足で猛スピードで走り回る『人参マンドラ』を泥だらけになって追い回している。ファンタジー全開の農業風景だ。
「よし、ニャングルからの前金も入ったし、まずはこの村で空き家を借りて……」
「――おいおい。どこの馬の骨か知らねえが、勝手にズカズカ入ってこようってのか?」
ふいに、村の入り口を塞ぐように「妙な影」が立ち塞がった。
二足歩行する、樹木とツタで構成された人型の植物。口元(?)には高級そうな葉巻をふかし、左腕には鋭く光る「極太のネギ」が剣のように生えている。
世界樹の生体兵器ポーンの突然変異体にして、ポポロ村の門番『ネギオ』だ。
「なんだこいつ……喋る野菜?」
「じゅるり……ボス、ネギのいい匂いがしますぅ。焼肉のタレをかければ、美味しくいただけるんじゃないですか?」
リリスがヨダレを拭いながら、物騒なことを言う。
「誰が食材だ、このジャージ女! 俺はネギオ。このポポロ村の頭脳にして、門番を任されてる者だ」
ネギオは葉巻の煙をふぅと吐き出し、左腕のネギ(ネギカリバー)を俺たちに突きつけた。
「この村はよそ者には厳しいぜ。お前らみたいな、胡散臭い商人のガキと、ポンコツそうな小娘を入れる義理はねえ。帰りな」
「そう言うな。俺たちはこの村に『利益』をもたらすために来たんだ」
俺は両手を広げ、冷静に交渉を持ちかけた。
「利益だと? 笑わせるな」
ネギオは鼻で笑った。
「俺たちポポロ村は自給自足で完全に回ってる。美味い作物がありゃあ、生きていくのに困らねえんだ。右から左へ物を動かして中抜きするだけの『寄生虫(商人)』なんざ、村の経済の邪魔なだけだ。……俺のこの理論、論破できるか?」
なるほど。「ディベート(論破ゲーム)」を挑んできているわけか。
俺は仮面のない素顔で、ニヤリと笑った。
「自給自足? 確かに立派だが……それは『機会損失』を生み出していることに気づいてないな」
「……あァ? 機会損失だと?」
聞き慣れない現代のビジネス用語に、ネギオの眉(?)がピクリと動く。
「農家が10日かけて王都までイモを売りに行けば、その10日間、畑の世話は誰がする? 天候の変化に対応できず、作物が枯れるリスク(コスト)が発生する。商人が間に入るのは『中抜き』じゃない。『農家が農業に専念するための【時間】』を提供してるんだよ。お前らがやってるのは、ただの非効率な労働の押し付けだ」
「な……っ」
「さらに言うなら」
俺は、スマホのネット通販でポチった『100円ライター』を取り出し、カチッと火を点けてみせた。
「この村に『魔力なしで火を出せる道具』はあるか? お前らの自給自足の枠組み(村の常識)の中だけで生きていたら、外の世界にある『技術革新』を取り入れる機会を永遠に失う。……村の発展を止めているのは、お前のような『新しい価値観を拒絶する偏狭な自尊心』だ」
「――ッ!!」
論理的かつ、完膚なきまでのフルボッコ。
ネギオは葉巻をポロリと口から落とし、ワナワナと震え出した。
「わぁ……。ボスの口から、聞いたこともない難しい言葉がいっぱい出てきましたぅ! なんだかよく分かりませんけど、カッコイイです!」
リリスが横でパチパチと拍手をしている。
「……くそっ、見事だ」
数秒の沈黙の後、ネギオは左腕のネギカリバーをスッと下ろした。
「俺の屁理屈を、ここまで完璧な『経済の理屈』でねじ伏せた奴は初めてだ。……気に入ったぜ、都会の兄ちゃん。あんたなら、この退屈な村に面白い風を吹かせてくれそうだ」
ネギオは新しい葉巻を取り出し、俺の100円ライターの火で美味そうに火を点けた。
「村の端に、前の住人が逃げ出した『ボロ家』がある。あそこならタダ同然で貸してやるよ。好きに使いな」
「交渉成立だな。サンキュー、ネギオ」
「ただし!」
ネギオが、ニヤァと意地悪く笑う。
「何年も放置されてるからな。屋根は雨漏りするし、床は腐ってるし、魔物も出るぜ。……自称・革新的な商人さんのお手並み、拝見させてもらうぜ」
◇
数十分後。
ネギオに案内された「ボロ家」の前に立った俺たちは、絶句していた。
「……ボスぅ。これ、家っていうか……『粗大ゴミ』じゃないですかぁ?」
「ああ……予想以上にひどいな」
ツタが絡まり、扉は外れかけ、窓ガラスは割れている。文字通りの廃屋だ。
だが、俺の顔は笑っていた。
「上等だ。これくらいマイナスの方が、俺たちの『現代知識』の使い甲斐があるってもんだ」
俺は『エンジェルすまーとふぉん』の画面を開いた。
【現在の利用残高:906,578円】
【利用可能額(残枠):93,422円】
【次回お支払い日まで:あと11日】
「さあリリス、掃除の時間だ。Amazon(通販)の力で、この廃屋を最高の『秘密基地』にリフォームするぞ!」




