男 二
つまらぬ男 二
晴れ晴れとした、東北の、内陸。
車道にて邪魔にされた雪は、歩道に転がり込み、歩行者、自転車、その他、歩道に用のある者に踏み固められ、それはやがて、小気味のよい音の鳴る、半分水、半分雪のべしゃべしゃに変貌するが、そこまで行って、往生を遂げられなかった雪諸氏は、薄汚く凍り、人間さまから、格好よく歩く権利を残酷にも奪う。男は、健康的な早起きを試み、それが成功した分の、いわば健康のリードを、帳消しにするように、際限なく、煙草、酒、エナジー飲料、即席食品。男はごみ出しをする。それは、会社勤めを辞退した者たちの中では、模範的な行動ではないかと、男は思っている、相の変わらぬ、つまらぬ下位階級さがしである。ごみを集積場へ置いた、というだけで、帰還兵のようなつらをしている、その男の、その部屋は、ごみの袋のないというだけで、決して綺麗ではない、掃除はされず、食器洗いはされず、叩けば叩いただけ、いやな埃が飛び出してくる。男は、もともとのアパートがボロなのだから、もし一念発起して掃除をやったって、部屋は映えないであろう、そういう言い訳のもと、何もせずであった。男が会社を辞めたのは、じつは、幹部の汚職を摘発したからである、また、上司からの、冷たい蔑視と、嘲笑の渦に巻かれたからである、というふうな、ドラマチック、ニュウスバリュがあればよいのだが、実際は、れいの、男の悪癖の一つである、風変わりなことをしたい、という欲が、突如噴火のように発生して、居ても立っても居られず、すぐさま辞表をしたため、しかし、退職に伴う色々をする間に、男の欲熱は急速に温度を失い、晴れて職無し、自由の身、さあ、創作でも恋愛でも何でもするがよい、となった暁には、既に、男には、行動を起こすだけのパアトスはまるで有らず、そこには、つまらぬ東北のごくつぶしが誕生したのであった。先に記した、上司からの、冷たい蔑視、嘲笑に巻かれたから、会社を辞めたのだ、という、いたって平凡なニュウスバリュも、男の職場には、じつを言うとあったのだが、そこは、にぶく、反省しない男、一度だって、上司の小言に際し、真摯に耳を貸したことはなく(もしやあったかもしれぬが、男の、真摯、と言ったもののレヴェルが、おそらく、我々よりも数段、下であるため、上司の目から見ると、まるで、真摯、には見えなかったであろう。)むしろ、そういう場面にどんどん慣れ、省みる法より、楽に受け流す法ばかりを習得し、終いには、誰からも気に掛けられなくなり、男は、気に掛けられなくなっても、別段、気にも留めぬ、というより、気に掛けられなくなった、という境遇にすら気が付かず、とうとう辞めてしまったのであった。男は、もしや自分は躁うつ病ではないか、または、統合失調病、または、その他、疾患を抱えているのではないか、と常、どこかわくわくしつつ思っているが、実際に精密検査を受診したことは、一度だってなく、もし、病気がなければ、それはまったく面白味のない、とんだ時間つぶしであり、もし、病気が見つかれば、ひどく打ちひしがれるであろう。なぜなら、男は、精神病患者に対し、尊重と、軽蔑の、二つの感情を持っているからである。つまり、男は、精神病患者の、尊重される部分には憧れているが、軽蔑される側面は嫌いなのだ。男の、この思考体系を形作ったのは、男の親父であるが、筆者は、このつまらぬ男の、出自に一抹の興味も持てぬので、ここにて締める。
変な終わらせ方になっちゃったけど、許します。




