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第2話 地べたから見上げる空と、迷子のペット探しの件について

前回に引き続き、読んでくださってありがとうございます。

今回は、依頼の内容が少しだけ明らかになります。

ちょっと酔い気味なレオンと、相変わらずしっかり者のセリナのやり取りを楽しんでいただけたら嬉しいです。

酒と夜風のせいか、身体が妙に軽い。

足元が覚束ない。

気付けば俺は路地裏に転がっていた。


夜空がやけに近く見える。

星々が瞬きながら、どこか俺を笑っているようだ。


――昔は、もっと間近で見てた気がするんだが…


そう、背中には■■■の感触を感じながら。

手を伸ばせば届くような距離で、空を翔けていた。


今は地面に這いつくばって、空の下で酒を煽る。

落差ってやつは、笑えないほどに残酷だ。


「……空が綺麗だな」


誰に言うでもなく呟いた。

あの頃なら、当たり前すぎて気付きもしなかった。


通りかかった酔っぱらいが、俺を見て鼻で笑う。


「また潰れてるぜ、あの傭兵」

その声を背に、俺は目を閉じた。


――あぁ、酒のせいか、眠気が……。


意識が沈む。

それと同時に、いつかの酒場での喧噪が蘇った。


「おい、レオン!」


耳に飛び込んできたのは、聞き慣れた怒鳴り声。

瞼を開ければ、マスターが覗きこんでいた。


「……夢か、現か」

「現かだと? てめぇがサボってる現実だ!」


カウンター越しに、マスターが分厚い腕を組む。

その後ろでは、セリナが帳簿を叩きつける勢いで書類を整えていた。


「依頼の件、どうなってるんですか!」

声のトーンからして、かなりご立腹らしい。


俺はグラスを傾けながら、片眉を上げる。


「依頼って…… あのペット探しのやつか」

「“あの”じゃないです!正式な依頼です!」


「ペット探しが正式な依頼ってのもどうなんだか」


マスターが低く笑う。

「ご令嬢様のペットだってんで、ギルドとしても無視できねぇ…」


「お前さん、ツケをチャラにする代わりに、受けるって話しだったろ?」


「……あぁ、そんな地獄みたいな約束したっけな」


「したんだよ!」

マスターが書類を突き出す。


角の擦り切れた依頼書に、優雅な筆跡でこう記されていた。


『迷子の “プリュムちゃん” を見つけ出して』


「プリュムちゃん……?」

「ご令嬢のペットの名前です」

「ふわふわの白い生き物だそうです」


「ふわふわの白い……それ、羊じゃねぇよな?」

「実物を見た人がいないのでなんとも…」


マスターは深い溜息と共に、グラスの曇りを拭い去るように呟いた。


「この依頼、半年以上も放置されてやがる、塩漬けもいいところだ」


「誰も受けたがらねぇのも当然だな、貴族絡の面倒事なんて御免だからな」


俺はグラスを回しながら、無意識に顔をしかめる。

貴族――。

その言葉を聞くだけで、胸の奥がざわつく。


「ツケの代わりに貴族の尻拭いか、良い商売だな」


マスターがにやりと笑った。

「傭兵なんてのは、そういうもんだろ」


「……笑えねぇよ」


レオンは立ち上がる。

セリナの視線が刺さるように冷たい。


「今度こそ、ちゃんと仕事してくださいね」

「はいはい、了解です、受付嬢殿」


皮肉交じりに返しながら、扉を押し開ける。

外の空気がやけに冷たく感じた。


そして今――再び路地裏。

同じ空の下。


「結局、俺がやってんのは昔と同じだな。

お偉いさんの命令聞いて、泥をかぶるだけ」


空を仰ぎ、息を吐く。

星が滲んで見えたのは、酔いのせいかそれとも―。


少し遠くで、小走りでこちらへ向かう足音がした。


「またこんな処で寝てるんですか、あなたは!」


セリナの声だ。

まったく、酔いも醒める。


「仕事熱心なのはいいが、夜くらい静かにさせてくれよ…」


「仕事熱心? 笑わせないでください」

「昼間から酒を飲んで、今度は路地裏ですか?」


腕を組んで睨みつけるセリナ。

月明かりがその瞳に映えて、どこか冷たく見えた。


「いやぁ、地べたで星を眺めるのも悪くはねぇぞ」

「地上の貴婦人にはわからん趣味だろうが」


「……貴婦人扱い、嫌味にしか聞こえませんね」


言葉とは裏腹に、心底呆れたように息を吐く。

それから小さく首を傾げて、手にしたランタンの光を俺の顔に向けた。


「依頼の件、覚えてますよね?」

「……ペット探し、だったか」


「“だったか”じゃありません。お貴族様からの依頼ですので、真面目にやって下さい」


「俺みたいな傭兵が貴族のペット探すとか、どう考えても場違いだろ」


「その“場違い”を、誰もやらないからあなたに回ってきたんです」


淡々とした声。だが、その言葉に込められた諦めと責任感は、どこか昔の誰かさんを思い出させた。


「………ったく、ツケの代償がペット探しとはな。俺の人生も安くなったもんだ」


「だったら早く済ませてください。終われば、酒代の心配もしなくていいでしょう?」


セリナが踵を返す。

その背中を見ていると、胸の奥が締め付けられる。


月に照らされた彼女の横顔が――ほんの一瞬、あの人と重なって見えた。


「おい、待てよ。場所はどこだ?」


「ご令嬢の屋敷です。ペットが逃げた庭園は、明日にでも捜索しましょう」


ランタンの灯が路地裏を照らし、俺の影がゆらりと伸びた。

地べたで見上げていた空は、いつの間にか雲に隠れていた。


ランタンの光を先に立てて、セリナが狭い石畳の道を歩いていく。

俺はその後ろを、だらだらとついていった。


夜の街は静かで、酒場の喧噪もここまでは届かない。

時折、風が通り抜けて、石壁の隙間から猫の鳴き声が聞こえた。


「……で? その“プリュムちゃん”ってのは、どんな化け物なんだ?」


「化け物じゃありません。ご令嬢が飼っている小動物です」


「小動物ねぇ。牙とか尻尾とか、爆発機能はついてねぇか?」 


「ついてたら、あなたよりマシです」


さらりと返してくる。

この女、口だけは剣より鋭い。


「にしても、貴族の屋敷とは縁がねぇと思ってたが……」


言いながら、胸の奥がざらついた。

街の上にかかる月が、どうにも白い。


セリナがちらりと振り返り、此方の様子を見ながら話し掛けてくる。


「……貴族関係、嫌いなんですか?」

「いや、好きでもねぇが、嫌いとも言わねぇさ」


「はっきりしないですね」

「世の中、はっきりさせない方が良いこともある」


彼女はそれ以上は聞かなかった。

真面目すぎる割に、こういうとこは妙に察しがいい。


「それで、逃げたのはどこからだ?」


「屋敷の中庭だそうです。花壇の世話をしていた侍女が目を離した隙に……」


「なるほど、お嬢様の“お転婆ペット”か」

「あなたと違って素直な子だったそうです」


「褒め言葉と受け取っておくぜ」


俺は肩をすくめて、夜風を吸い込む。

少し遠くに見える貴族街の明かりが、やけに遠く感じた。


「なあ、受付嬢さん。仮に見つけたとして、そのプリュムちゃんは俺に懐くと思うか?」


「無理でしょうね」

「即答かよ」

「あなた子犬にも嫌われるタイプですから」


「…前から思ってたけど、結構毒あるよな」


「職業病です。傭兵の相手なんてしてたら、誰でもこうなります」


それを聞いて、少しだけ笑ってしまった。

ほんの少し――胸の重さが軽くなった気がした。


セリナがふと、夜空を見上げる。


「星が綺麗ですね」


「……あぁ、俺もさっきそう言ったんだ」

「奇遇ですね」


再度ランタンの灯が、彼女の横顔を照らす。

光の中で、やはり一瞬だけ―懐かしい面影と重る。


胸の奥に、またざらりとした痛みが走る。

けれど、口に出すことはしなかった。


「……ほら、もうすぐお屋敷です」


「ちゃんとしてくださいよ、レオン」

「はいはい。“お仕事”だろ?」


俺は首を鳴らし、背筋を伸ばす。

酔いはすっかり醒めていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

少しずつですが、レオンとセリナの関係や物語の背景が見えてきたかなと思います。

キャラ同士の掛け合いなども楽しんでいただけていれば嬉しいです。

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