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第1話 ツケを払う代わりに、面倒な依頼を引き受ける件について

初めまして、柊カエデと申します。

本作は、自分にとって初めての小説投稿となる処女作です。

手探りながらも、楽しんで書いてみました。

ゆるく酒場で始まる、少し不器用な傭兵の物語。

最後まで読んでいただけたら嬉しいです!

剣を抜くたび、俺は少しずつ“あの頃の自分”を思い出してしまう。

だから、抜きたくねぇ。……飯代が消し飛ぶ以外の理由でな。


酒場の空気は、いつも湿っている。

木製のカウンターにはこぼれた酒の跡。

何気なくシミ跡を眺め飲んでいると、カウンターの向こうから、マスターの声が飛んできた。


「おい傭兵、もう三杯目だぞ。仕事もせずに飲んでる暇があったら依頼でも受けろ。」


「……飲むぐらい、いいだろ。命懸けで働いてんだ、俺は。」


「働いてねぇだろ!傭兵やる気あんのか!」

「うるせぇな。……やる気はある。金がねぇだけだ。」


周りの傭兵たちがどっと笑い声を上げる。

「聞いたかマスター!やる気だけは一流だとよ!」

「マスター 金がねぇんだとよ!」

「働かねぇなら飲むな、って話だ!」


「ツケだ、ツケ。」

「もう帳簿が真っ赤だ!」


「いいだろ、俺が大金稼いだら払うから。」

「その“大金”がいつ来るんだよ。」


「……そのうち、きっとな。」


酒場が笑いで満たされたところで、マスターの低い声が響いた。


「うるせぇ、てめぇら。仕事もしねぇで昼間っから酔っぱらってんじゃねぇ!」

「ツケも払えねぇなら、椅子ごと外に転がすぞ!」


数人の傭兵が舌打ちしながら席を立つ。

マスターはため息をつき、俺の前に新しいグラスを置いた。


「お前もだ、レオン。ツケが溜まりすぎだ。」

「へいへい。だが今日も依頼は来ねぇんだ。いつもみたくツケてくれ。」


「……いつ払うんだ?」

「そのうち、空が俺を思い出した頃にな。」


「詩人気取りか? いいから働け!」


マスターが鼻で笑いながら、カウンターの奥から帳簿を引っ張り出した。

その紙の束は、まるで俺の罪状書みたいに分厚い。


「なあ、レオン。いい加減ツケも限界だ。こっちの首が回らねぇ。」


「そんなら首輪でもつけるか?代金分くらいは働いてやる。」


「それだ。」

「……は?」


マスターがにやりと口角を上げる。

嫌な予感しかしねぇ笑いだった。


「ツケをチャラにしてやる代わりに、一つ頼みを聞いてくれねぇか?」


「……聞く前から嫌な予感しかしねぇ。」

「そう言うなって。お前に向いてる仕事だ。」


顎で先を促すと、マスターはちらりと酒場の奥を見た。

そこには、ギルドの受付カウンターで依頼書を睨んでいる若い女――。


「セリナって嬢ちゃんがいるだろ?“傭兵ギルド”の受付嬢だ。」


「ああ、真面目そうな顔して、よく怒鳴ってる子か。」


「その通り。あの子が抱えてる塩漬け依頼、どうにかしてやれねぇかって話だ。」


「塩漬け依頼? そんなの受ける奴いねぇから塩漬けなんだろ。」


「そこをなんとかだ。お前、どうせ今仕事ねぇだろ。ちょうどいいじゃねぇか。」


「……“ちょうどいい”って言葉ほど信用できねぇ言葉もねぇな。」


マスターは笑って、グラスを磨きながら言った。


「なら、ツケを帳消しにしてやる。それで手を打たねぇか?」


「…………クソ。飲み代のために命張る日が来るとはな。」


「傭兵なんざ、みんなそんなもんだろ。」


俺は空になったグラスを指で軽く弾き、深くため息をついた。


カウンターの奥でセリナがこちらに気づき、

“またマスターが厄介ごとを押しつけてる”とでも言いたげに眉をひそめていた。


……まあいい。どうせ暇だったしな。

「――で、その“塩漬け依頼”ってのは、どんな面倒くさい話なんだ?」


騒がしい酒場の喧騒の中、安いランプの明かりがグラスに反射していた。

俺は、ただの流れ者だ。誰の剣でもなく、誰の翼でもない。


そんな俺の視界に――彼女が入った。


ギルドのカウンターに立つその横顔は、記憶の底に沈んだ“彼女”と同じ輪郭をしていた。

一瞬、時が止まったように感じた。


「……へぇ、ずいぶん懐かしい顔だな」

「……え?」


我に返る。しまった、無意識の内に声に出ていたらしい。

とっさに誤魔化そうと、いつもの悪い癖が出る。


「いや、その……いい顔してんな。男を破滅させるタイプだ。」


セリナの眉が、ぴくりと動いた。

「破滅する前に、鼻の骨を折られたいなら今すぐどうぞ。」


「冗談だよ、嬢ちゃん。俺、暴力振るう女も嫌いじゃないけどな。」


「安心してください。私は、あなたみたいな軽率な人は嫌いですから。」


まっすぐな瞳。

……本当に、あの人に似てる。


「おーい、セリナ!」

マスターがカウンター越しに声を上げた。


「そいつが“例の件”を請け負ってくれるってよ!」


「……は?」セリナが信じられないものを見る目で俺を見た。


「聞いてませんけど?」

「あぁ、今聞いただろ。」


「……つまり、“勝手に決まった”ってことですね。」


「マスターが決めたことは、たいてい勝手に決まる。」


「そうですか。なら、後で後悔してください。」


彼女の声は冷たかったが、どこか芯の通った響きがあった。


「いいじゃねぇかレオン。ツケがチャラになる上に、美女とお仕事だ。」


「仕事より命の方が安くねぇといいんだがな……。」


こうして俺は、ツケの清算と引き換えに、

“塩漬け依頼”ってやつに首を突っ込む羽目になった。


……ま、どうせ暇だ。

それに、気になるのは――

目の前の女の“瞳の色”が、あの人とまったく同じだったことだ。


その瞬間、俺は無意識に知ってしまった、

この街を、そう簡単に離れられなくなるってことを。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

拙い部分もあったかもしれませんが、少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

初投稿ということもあり、読者の皆さんの反応が励みになります。

よければ感想など、お気軽にいただけると嬉しいです!

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