【第5話:工房の広がりと町の小さな協力】
朝日が砂漠のザルクを黄金色に染める頃、工房は昨日よりもさらに活気づいていた。
油果油の瓶は棚にぎっしり並び、乾果や簡易パンも量産体制に入っている。
孤児たちはもう、作業手順を覚えきり、互いに声を掛け合いながら無駄なく働いていた。
「今日も頑張りましょう!」
アヤネの声に、孤児たちは笑顔で応える。
⸻
作業はさらに効率的になった。
採集班は砂漠の外れでより多くの油果を摘むために小道具を工夫。
割る班は力加減を統一し、破損を最小限に。
搾る班は布の張り方を改良し、油の取りこぼしを減らす。
食材加工班は乾果と油を組み合わせた新しい簡易パンを試作。
小さな失敗もあったが、アヤネは怒らずにすぐに改善策を示す。
孤児たちは笑いながら挑戦し、少しずつ自信をつけていった。
⸻
そんな中、町の残る住民たちが徐々に工房に顔を出すようになった。
「……ずいぶん作れるようになったな」
年配の男は、昨日よりも増えた油の瓶と乾果を見て、驚きの声を漏らす。
彼は作業の手伝いを始める。
油果の運搬、古びた棚の修理、簡易パンの焼き方の相談もしてくる。
子どもたちは最初戸惑ったが、アヤネが優しく指示を出す。
「あなたの経験も、大切な力です」
町の人々は徐々に笑顔を見せ、工房が単なる孤児たちの場所ではなく、町全体の希望の象徴になりつつあることを実感する。
⸻
ガランも変わってきた。
以前は力仕事だけだったが、今では孤児たちの動きを見てアドバイスし、危険や作業の段取りまで自然と手を貸す。
「効率よく運べば、もっと作業が進むぞ」
孤児たちは素直に従い、作業がさらにスムーズになった。
アヤネは心の中で微笑む。
(力だけでなく、知恵も加わると、こんなに変わるんだ……)
⸻
夕暮れ、工房の中で簡易パンと油の試食会が開かれた。
孤児たちも、住民たちも、ガランも、みんなでテーブルを囲む。
「おいしい……!」
「これなら砂漠でも生きていけそうだ」
アヤネは満足そうに頷く。
「これからもっと工房を広げて、ザルクを再び人が集まる町にしていきましょう」
砂漠の廃墟に、笑い声と小さな生活のリズムが戻り始める。
そして、町の住民が協力的になることで、アヤネの計画――交易による町の再生への布石が少しずつ整いつつあった。
⸻