【第2話:砂漠の町ザルクと小さな希望】
砂漠の太陽が、アヤネの肩にじりじりと照りつける。
ザルク――かつて鉱石が豊富に採れ、人々の希望が満ち溢れていた町は、今や廃墟と化していた。屋根の崩れた家々、ひび割れた石畳、使われなくなった井戸……そのすべてが「もう終わった」という空気を放っていた。
アヤネは廃屋の隙間をのぞき込みながら、考えた。
「この町を……どうやって立て直せるのかしら」
砂埃の中、ひときわ背の低い木を見つける。小さな青い実が鈴なりに実っている。孤児たちは手を伸ばしてかじってみるが、すぐに顔をしかめて吐き出した。
「まずい……」
「でも腹が減ったときは……」
アヤネは実を手に取り、殻を割る。小さな油の粒が指先に滲み出すのを見つけ、胸が高鳴った。
「……これは、油になるわ」
孤児たちはぽかんとした顔で見上げる。
「油? 本当に?」
「こんな不味い実が?」
アヤネは微笑み、手をひらひらさせて言った。
「ええ、でもただの油じゃない。料理にも使えるし、保存もできる。火を灯せば明かりにもなる。ザルクの人たちの生活に、必ず役立つはずよ」
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アヤネは廃屋の一角を使用する許可をもらい、工房に改装することにした。
石で実を潰し、布で濾して油を集める。簡単な装置だが、彼女の知識と工夫で確実に成果が出る。
孤児たちも興味津々で、やってみたいと提案する。
孤児たちは力を振り絞って作業を手伝ったが、時折うまくいかずため息をつく。
アヤネは一人ひとりに微笑みかけた。
「大丈夫、みんなの力があれば必ずうまくいくわ」
そして翌日、アヤネは皆に役割を分担した。
果実を採る班、殻を割る班、搾る班、瓶に詰める班。分業のスタイルである。
「小さな力でも、集まれば大きな力になるのよ。」
孤児たちはうなずき、少しずつやる気が湧いてきた。
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しかし、現実は厳しかった。
搾った油を瓶に詰め、大量に運ぼうとしたとき、荷車は重くてびくともしない。孤児たちは汗だくになりながら押すが、砂に沈むばかり。
その時、低い声が響いた。
「どけ」
振り返ると、大柄な青年が立っていた。肩幅が広く、砂まみれの腕が力強く光る。
黙って荷車を担ぐと、あっという間に動き始めた。
「す、すごい……!」
「さすが、ガラン兄ちゃん!」
アヤネはビックリし、目を丸めていた。
ガラン――この町に残っていた、力だけは人一倍の青年だった。
「あんた、この子らのためにやってんだろ。なら、力仕事なら任せな。」
「ありがとう。でもこれは、ただの力仕事じゃない。あなたの力も、この工房の一部なのよ」
ガランはぶっきらぼうに頭をかき、笑った。
「……俺でよければ、手伝ってやるさ」
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夕陽に照らされた工房の片隅、瓶に詰めた透明な油が光を反射する。
アヤネは静かに言った。
「これが、この町ザルクの、新しい始まりになる」
小さな希望の灯が、廃墟の中で揺れていた。
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