【第12話:採掘団、始動】
翌日。
ザルクの村には、久しく聞かれなかった賑やかな音が響き渡っていた。
男たちは古いつるはしや鍬を修理し、女たちは干し肉や水袋を用意する。
孤児たちも縄を編んだり、小石をどけたりと小さな手で懸命に働いていた。
――ザルクに、再び活気が戻り始めていた。
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「まずは浅い場所を掘ります。
深く掘ると危険ですし、鉱脈の筋を見つけるのが先決です」
アヤネは地図代わりに地面へ棒で線を引きながら説明した。
「発見した鉱石は工房に集めて、そこで仕分けます。
価値のあるものと、そうでないものをきちんと分けないと効率が悪いから」
村人たちは真剣に耳を傾け、次々と頷いた。
経済の知識をもとにした彼女の段取りは、素人目にも理にかなっていた。
孤児のひとりが目を輝かせて尋ねる。
「アヤネお姉ちゃん、僕らも掘っていいの?」
「ええ、でも危なくないところだけね。小石を運んだり、道具を渡すのはとても大事な仕事よ」
子どもたちの顔が誇らしげに輝く。
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しかし、その場の空気を壊すように、ぶつぶつと低い声が聞こえた。
「ふん……小娘に仕切られるとはな」
振り返ると、屈強な体つきの男――ドルゴが、木陰で腕を組んでいた。
彼はかつて採掘団のまとめ役をしていたが、鉱脈が尽きるとともに酒に溺れ、威張るばかりになっていた人物だ。
「俺は昔から鉱山で汗を流してきたんだ。
鉱石のことなら俺の方が知ってる。
だが今さらチビ娘の命令なんざ聞けるか」
そう言って、つるはしを地面に突き立てたまま動こうとしない。
村人の中から苦笑いが漏れる。
「また始まったぞ、ドルゴのやっかみだ」
「まあ放っておけ、どうせすぐ疲れて寝る」
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アヤネはしばし迷ったが、毅然とした声で答えた。
「ドルゴさん。あなたの経験は村にとって大事です。
でも、掘ったものを公平に分けなければ、みんなが争うことになるんです」
ドルゴは鼻で笑った。
「公平? 甘っちょろい理屈だな。掘った奴のものが筋ってもんだろう」
アヤネは静かに首を振る。
「……それでは、村は二度と立ち直れません」
彼女の真剣な眼差しに、周囲の人々は息を呑んだ。
だがドルゴは不貞腐れたまま腰を下ろし、草を噛みちぎる。
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やがて日が昇りきると、採掘団は動き出した。
つるはしの音がカン、カンと岩に響く。
汗まみれになりながら、男たちは力を合わせて土を掘り起こす。
孤児たちは小さな手で石を拾い、ガランがそれを大きな背中で運び出した。
「よし、こっちは空洞だ! 気をつけろ!」
「水が染み出してるぞ! 一旦止めろ!」
久しぶりに村がひとつにまとまって働いていた。
ただ一人、ドルゴを除いて――。
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夕暮れ時。工房で鉱石を仕分けながら、アヤネは独りごちた。
(ドルゴさん……本当は、力になってほしいのに)
彼の経験があれば、危険を避けて効率よく掘れるはず。
だが、彼の心はまだ過去の栄光に縛られている。
それでも、アヤネは小さく拳を握った。
(いつか必ず、彼も一緒に……!)
少女の決意は、夕陽の赤に染まりながら静かに燃えていた。
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