Binah:会議、美香と実行委員
魔法って、結局何だろう?
世界に新しい法則を作る事、けんり、力…それは一体、誰が決める事なんだろう?
意味や役目が決まっているのなら、私達は何のために生きて、何のために此処にあるんだろう?
考えれば考える程、謎は深まるばかりなので
今はとりあえず、学園祭の行事について考える事にします。
ごく普通の王国の魔法使い
今日はいつも通りの時間、とても健康的な朝の目覚め。
「マールーコー!!ほら起きてぇ、何時も起きてる時間よ!!」
・・・な訳がなく、胸の上でボスンボスン跳ねるエリヤの声でマルコは今日も午前5時に目を覚ます事になった。
「う゛~あ゛~・・・」
寝起きの悪いマルコはうめき声をあげて起き上がり、その様子を見たエリヤはプッと笑いだす。
「ぷっ…ハハハ、まるでゾンビみたいな起き方しちゃって」
「え゛ぅ~…笑わないでよエリヤぁ」
エリヤに笑われたマルコは恥ずかしそうに枕で顔を隠した。
晶水マルコはこれといって特徴がない事が特徴の少女であった。
秋の初めに魔法少女となってからもその生活は一変する訳がなく、強いて挙げれば本人も望まない形で早起きになったくらいだ。
≪王国の魔法使いであるなら、変身しなくても自然に魔法で代謝をコントロールできる筈なんだけど…マルコって本当に発想は良いのに魔法をいまいち使いこなしきれてないわよねぇ?
やっぱり、メイに無理矢理選ばれたからかしら…Byエリヤ≫
「んん…ふぁぁぅ…むにゃ」
エリヤが登校中に自動筆記で話しかけてきても、あくびで返すのみである。
眠い時に長文を読むのがつらくなるのは誰でも仕方のない事だろう。
しかし坂道を降りるところで気を抜けば転がり落ちてしまう可能性もあるので辛うじて眠気を押し殺している…つもりなのだが
残念ながらエリヤからしてみれば全然押し殺せていないのが現状である。
「まーるこ♪」「ひゃわう」
そんなときに、マルコは背後から美香のタックルじみた抱擁を受ける。
「どうした~?最近は特に寝不足そうじゃないかぃ、あんまり不健康なのは美香さん頂けないねぃ?」
「むぅ~、最近朝早くに起こされるんだよぅ」
二人できゃいきゃい会話しながら歩いていると、後ろからタタタタターとかけてくる足音が聞こえてくる。
マルコが振り向くと、白銀の閃光が火の玉を連れてタックルしてきた。
「わわわわわ避けてぇえ!!」「ぶわー!?」
今日は自分に体当たりをかますのが流行っているのだろうか?そう思いながらマルコは、本日二度目の体当たりをかましてきた張本人であるジュリアに文句を言う。
「もうっ!朝は弱いんだってばぁ!」
「にゃはは、ごめんごめん…って何その文句?
勢いに乗って走ってたらブレーキ利かなくなっちゃって…ほらっ、だいじょーぶ?エトナ?」
微妙に論点のずれた文句で頭にはてなを浮かべながら、ジュリアは傍らに転げたエトナを抱き起こした。
「あたた…大丈夫なの」
頭を擦りながら立ちあがったエトナの特徴的な赤毛が目に入り、美香は興味深そうに彼女を覗き見る。
「ありゃ、ジュリっちその子…?」「にゃ…っ」
「あ、その腕」
こそっとジュリアの後ろに隠れるエトナの腕にかすり傷ができている事に気付き、マルコ絆創膏を差し出した。
「あ…ありがとうなの…」
「ねぇねぇ君4組のエトナちゃんだよねぃ?」
「…へへっ、ジュリアと昨日友達になったにゃあ♪」「…ぁぅ」
エトナは美香に話しかけられて尻ごみするが、ジュリアの紹介に合わせて美香はエトナの手を取りにっこりと笑いかける
「ジュリっちの友達ってこたぁ実行委員全員のお友達だぜぃ!前々からお近づきになろうと思ってたんだ、よろしくねぃ!!」
「…ぁ、よ…よろしくなの!!」
エトナはきっとなんだ、簡単なことじゃないかと胸を撫で下ろす気持ちだったに違いない。
ずっとどう話しかけていいかわからなかったエトナが希望を持たせてくれた張本人であるジュリアに感謝の笑顔を送り
ジュリアも悪戯っぽい笑顔でそれに答えた。
「ねーねーそれで何の話してたの?」
「いやねぃ、マルコの寝ぼすけをどうにかしようって話をね?」
「いや寝坊はしてないよ!?全くもう…」
美香に突っ込みをいれながら、マルコもまたジュリアがエトナという友達を連れてきた事に、驚きと安心を覚えていた。
魔術や常識から離れていた世界に生きてきたジュリアも少しずつ普通の幸せを手に入れられるのだから…きっと自分の魔法にも意味があるんだと感じられる。
「よーっし教室ついたら早速第6次実行委員会議開始だー!!」
「えぇっ!?エトナは4組なんだけど…」
「いーのいーのばれやしないって!特別ゲストだよ~」
女子が三人寄らば姦しいとも言うが、4人ともなれば当然きゃいきゃいと騒がしい朝となったのははたしてマルコにとって幸か不幸か。
とりあえずは幸と取って損はない筈だと寝ぼけた頭で無理やり納得したマルコであった。
「さ-----て!!4組のエトナも加えたところで本格的に学園祭の出し物を何にするべきか本格的に決めようと思う!!」
「突っ込みきれんわ!!」「朝から最悪な事に同意見だ」
教室に着くや否や集めた机をバンと叩く美香に太一が鋭い突っ込みを入れ、蓮がそれに機嫌悪そうに同意した。
「早すぎるだろ!!会議するにしたって時間をもうちょっと考えろよ!!あとこの前結局最終的に委員長の美香が決めることになって解散したんじゃねぇかよ!!てかエトナてそこの子誰!?」
突っ込みきれないと言いつつも的確に指摘する太一に珍しく美香がうぐっと押される。
「仕方ないじゃないかぁ、どのイベントも長所短所あって私には選べなったんだよぃ…
喫茶店は無難だしどこの期間じゃ準備期間が多すぎるくらいだけど、メイさんが暴走しちゃう恐れがあるから蓮君却下したでしょ?
んで演劇は一番面白そうだから一番推したかったんだけど…足りないんだよねぃ」
「何が足りないの?」
ジュリアの問いに、美香は指3本をたてて数える。
「シナリオ、衣装、舞台装置とか材料とか」
つまり何もかも足りない、という事実に実行委員の皆は落胆する。エトナもまたジュリアに合わせて落ち込んでいる。
「三つ目はどうにかならないの?」
「この美香のアポイントメントの多さを嘗めちゃいかんよ!こんなこともあろうかとあらかじめ連絡は取っておいたんだよぃ!!
でもねぃ…一番頼りにしてた町工場のおっちゃんが最近行方不明だそうで材料のコネが停止しちゃってるんだよねぃ」
マルコの問いに美香は腕を組んで困ったように唸り声を上げる。
≪行方不明って…≫
≪多分ブランク事件のことだよね≫
マルコとジュリアの間で自動筆記のやり取りを交わす。
そこでジュリアは「あ。」と何かが降り立ったように声を上げる。
「はいはいはーい!!材料はジュリアが確保しとく!!」
自信満々に手を挙げるジュリアに実行委員はおろかクラスの皆が唖然とする。
そしてマルコと蓮は気づいた。
「ジュリアちゃん!?」
「おま、まさか!?」
≪もち、威光魔法で生成して持って来れば無問題(`・ω・´)≫
自信に満ちた表情のアスキーアートを混ぜた自動筆記でジュリアは二人に返答する。
「本当!?じゃあ任せたよジュリっち!!」
「任されたよ委員長!!」
「「えええぇぇぇぇぇぇぇ…」」
ハイタッチする美香とジュリアに唖然とするマルコと蓮を差し置いて、火がついたのか美香はどんどん計画を進めていく。
「よしよじ…じゃあ衣装はどうしようか!!」
「あの…」
そこでおずおずと手を挙げたのは、ゲストとして呼ばれたエトナだった。
「衣装を用意するだけだったら、私お裁縫得意なの…」
さすがにこういう場で自分から発言することに慣れていないからか、また顔をその髪と同じくらいに赤く赤面しながら主張するエトナ。
「いいの?4組の行事もあるんでしょ?」
「ううん、うちは喫茶店をやることになっててもう皆の衣装も作り終わっちゃったし
家にいらない布がいっぱいあるから丁度いいの♪」
さらりととんでもない手際の良さを主張したエトナにおぉおと興奮気味な感嘆の声を上げるジュリアと美香。
最後に手を挙げたのは…
「じゃあ、私シナリオ描くよ?」
マルコだった。