Cochma:少女、エトナ=ラヴェイと初めての友達
秘密と言うのは、誰にでもあるものなのよ。
一千の貌の人間には一千の貌の狂気があって
それを一千の貌の秘密で隠す事によって、人間は心臓を潰されずにいる…
それは魔法の真実と同じ、知らぬが仏、無知は罪、賛否両論ではあるけれど
でも、秘密を明かして楽になる事も、偶には大切なことだと思うのよ…ね♪
ある魔法に依存した魔女の証言
マルコが一体目のブランクを修正したその頃、もう一体のブランクをジュリアは飛翔して追跡していた。
燕のような羽を生やし高速で飛翔するブランクに対して、ジュリアは魔女神の外套を翼のように広げ
やがてブランクに肉薄する。
「まてまてまてぇ~!!…おっと!」
ヒュォン!!と、身軽な仕草でジュリアは鼻先に迫ったブランクの剣の腕を避ける。
ブランクは悲鳴を上げて力いっぱい飛翔し、ジュリアでも見えないくらいに天高く翔びあがる。
「早すぎてどうしようもないよぉ…」
やっとのことよろよろとジュリアに追い付いてマルコはに、ジュリアは自信たっぷりに言う。
「まかせて!!おっちろー!!」
腕を振り下ろしたジュリアの上空を見て、マルコは唖然とする。
上空には大規模な太極図の魔法陣、その中からマルコ達の記憶に新しいものが落下してくるのである
まるで巨大な鉄槌に衝突したかのように張り憑いているブランクと共に。
コンクリートのような素材でできている、平方数十メートル、高さなど総てが魔法陣から出てくるまで解らないような直方体のそれは
いつか降り注いだそれに比べてやや小ぶりではあるが、然り巨大なビルのようなものであることには変わらず…
「ちょちょちょちょちょ!!…だ、ダメー!!!!」「にゃうあ!?」
慌ててマルコはジュリアの肩を掴んで術式を止めさせる。しかし遅かった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
と、その巨体を生成する魔法陣が消失し支えるものを失った巨大ビルは、重力に従い加速しながらマルコ達の上へ落ちて来た。
「わああぁぁぁああああああ!!!」
悲鳴を上げるマルコ達の前に、黒いコートが翻る。
「『反の魔法の名の下に、その存在を否定する!!!』『また、消失の反作用による被害も総て否定する!!!』」
ギュ ァ ア!!!!!!
世界そのものが悲鳴を上げるような音を立て、作りかけの巨大ビルは青い光となって消滅した。
「ふぅ、流石にやりすぎねぇ?」
空に手をかざしため息をこぼした明は、彼女達が中空に居るにもかかわらず一瞬にしてジュリアの背後に現れる。
「今夜は此処までねぇ、あそこで潰れてたブランクはマルコちゃんが修正してくれるかしらねぇ?」
「う、うにゃ!?」
「え!?は、ハイ…って明さん飛んでr…」
マルコが良いかけたところで、明の人差し指がその言葉を制止する。
「『ヒトが想像し得る事は、総て起こり得る物理事象』よん…精進なさい、ね♪」
「は…はい、ジュリアちゃんはどうするの?」
マルコの次の問いに明は「むーむー!!」と叫ぼうとするジュリアの口を片手で押さえつつ
妖しい笑みを浮かべ、トランプのカードのように片手に何かを並べ持つ。
それは巷で大流行の魔法少女アニメ『魔法少女カラミティジェーン』のDVDボックス全巻だった。
「ちょっと、世の中の常識と言うものを教えに行くわねぇ♪」
明はそう言うと、シュンと黒い魔法陣の中へと消えて行った。
「……えーと、とりあえず…」
一人ぽつねんと取り残されたマルコは、潰れて紙のようにひらひらと舞い落ちるブランクにドラウプニルを向け魔力流を浴びせる。
「修正、完了…良いのかなぁ…」
次の日、ジュリアは椅子に括りつけられ徹夜でアニメを観賞させられふらついていた。
眠い、余りにも眠い…眠すぎて今日ある筈の実行委員の会議予定さえ忘れてしまう程だった。
しかし、それも意に介さず、出会いと言う者は突然に訪れた。
「えと・・・あのっ私と友達になって欲しいのっ!!」
「にゃぁ?」
廊下で出会いがしらにジュリア=F=ヘンデルが、まるで愛の告白かのように言われたその言葉は
ジュリアの素っ頓狂な鳴き声とともに、告白した赤毛の少女と共に廊下の向こうへと手をひかれ連れ去られていった。
ジュリアの手を引く告白した少女の髪は炎のように紅く、紅く緊張に潤んだ瞳はルビーのように紅く
そしてついやっちゃった的な表情を目に見えて示すその顔は、燃え上がるように赤かった。
「はぁ、はぁ…」
「…何するの急にぃ…?」
校舎裏で息を切らす二人、紅い少女は息を切らしながらもじもじとしてジュリアに話す。
「わ、私はエトナ…エトナ=ラヴェイっていうの…その、ジュリアちゃんなら友達になれるかなって思って、会ったら友達になりたいなりたい思ってたら、つい言っちゃったのです♪」
ニコパ♪と微笑み、ジュリアに微笑むエトナに、ジュリアは困ったように頬を掻く。
青銅欄第三小学校3年4組、出席番号5番のエトナ=ラヴェイには友達と呼べるほど親しい人間がいない。
その髪の色や目の色が、周りと余りにかけ離れているからだ。
隣のクラスの女の子は、そういう境遇から実行委員と言うコミュニティを経て周りとうまく関われているらしい。
しかし、彼女の場合は違っていたのだ。
特に苛められているわけでもなければ、違いを指摘された事もあるわけでもない。
ただ違いを指摘される事が怖いのである。
それはコミュニティの中に逢って誰もが一度は遭遇する困難であり、彼女の赤い目赤い髪は
彼女のコンプレックスとして、高いハードルとなっていたからだ。
「と言う訳なのです…」
うゆぅ…と、ジュリアを見つめるエトナ。
「んん…」-ホントはあんまり一般人と関わるのもご法度なんだけどなぁ…-
そう思い悩むジュリアだが、別れ際の下院の言葉を思い出す。
『どうだ、魔術関係者じゃなくとも、この機会に友達をたくさん作ると良い
それこそ、ジュリアが知らない普通の子供たちの世界を、幸せな世界を知って欲しいから、な?』
「んん~~~~~…いいよ♪私がエトナの、初めての友達になっても!!」
ジュリアのその言葉に、エトナの頬は更に赤く笑顔は喜びに膨らんでいき
「…ふにゃぁ~!ありがとうですよぉ!!」「ふにゃぁ!?」
感極まったエトナのタックルじみた抱擁をもらうジュリアであった。
「やっぱり演劇じゃない?」
「クラス全員分衣装とか用意するのもなぁ」
「じゃあ喫茶店とか」
「待て待てそう言う事ここで言ったりしたら」
「ロリメイド喫茶はどうかしらねぇ♪♪」
「ほらこういう事言う奴が今この場に居るから…」
蓮に突っ込みを貰いながらもむっは~~~~♪と興奮に息を荒くしている明が、何故実行委員の会議に口をはさめるのかと言えば
彼らが今いる此処が明の喫茶アヴァロンだからである。
実行委員はよく会議の場にアヴァロンを利用する、明が無償でかき氷やココアを奢ってくれるからというのもあるが
「にゃはは、明さんもメンバーみたいなとこあるし好いじゃないかねぃ♪」
「姉御、男子も居るんだけど…」
「無☆問☆題☆ね♪」
美香や太一も明に何らかの関わりがあるからでもある。
「女装すればいいじゃn」「チェストォ!!」
明がそう言いかけたところで蓮のハリセンによる鉄槌が降りかかった。
「あぁん❤ もぉ、軽いジョークなのにねぇ」
「あはは…」
たんこぶを作りため息をつく明を見て、マルコはもう空笑いをあげるしかなかった。
n=1/2n(■■■)
P=NP or P≠NP
魔法少女カラミティジェーン:
巷で大人子供を問わず大人気の、熱血ガンアクション魔法少女アニメである。
現代日本を舞台に悪党どもから平和を護る西部保安官の生まれ変わり嘉成ジェーンは、戦いを通じて魔法少女としてのみでなく
正義の意味を思い悩み、そして周囲との絆を糧に成長していくという内容。
ちなみに人気すぎて続編発表の情報があちこちでとびかっているとかいないとか…