ポッと出の男に妹を取られたシスコン姉が、幼馴染(女)に告白される話
Xでネタというか需要があるのを見かけたので、試しに書いてみました
前世の記憶でとある乙女ゲームの主人公から全てを奪う我儘な後妻の娘、悪役令嬢、但し、姉という立場になってしまった私、エリス。
ただこのゲーム、無能だと思われていた妹が主人公の場合もあれば、妹が我儘で姉に迷惑をかけていた設定がある別主人公まで種類のあるものだった。
しかもそれらに出てくる、今、私がやっている姉キャラには、同い年の幼馴染(女)で恋人等を奪おうとするシエルという意地悪女も出てくる。
だがこの世界に転生した私は、そうなった過去の原因、つまり幼い頃の口喧嘩が元だと知っているのでそのイベント…口論が発生した時に仲直りをして今まで“親友”となっていた。
現在酒場で一緒にお酒を飲んでいる、私の隣に座っている長くつややかな黒髪に紫の瞳の背の高い美少女が彼女である。
そこで私の方に振り向いてにこりと彼女は笑った。
「どうしたのエリス。私の方を見て」
「相変わらず美少女だと思っただけ。所作も綺麗だしね」
「エリス、貴方にそういってもらえるのが一番嬉しいわ」
「…素直に褒めるのを受け取られるのもなんだか悔しい。私ももう少し、貴方みたいに格好いい美少女になりたいわ」
「エリスの可愛さも私は好きだけど」
「もっと理知的な感じになりたいの! 頭がゆるそうって声かけてきた男に、なんで私がクイズバトルしないといけないのよ!」
「丁度やっていて、でもエリス、貴方、優勝したじゃない」
「優勝したけど、悔しい。それにもう優勝賞品貰っても…」
「そのお菓子、貴方好きだったのでは?」
「あのケーキ、私も好きだけの妹のリズが好きだったから…どんな気持ちで食べればいいのよ」
そう呟くと呆れたようにエリスが、
「いい加減シスコンはやめなさい? もうあの子にも“彼氏”がいるのだし」
「ええそうね。“男”とか言うあのケダモノが妹の傍に…」
「ケダモノは言い過ぎだと思うけれど」
「だって私知っているもの、あいつら、あいつら、『女同士でおっぱいつけあってる絵』で喜んでて、あいつら、私達の事なんて“おっぱい”だと思っているの!」
「エリスの男嫌いも困った物ね。…やっぱり、シスコンが行き過ぎて妹のリズに近づく男を陰で始末…じゃなかった、“対応”するのはやりすぎだったのかしら。私も手伝うより止める方が良かったのかもしれないわね」
呆れたように言うシエルにエリスが、
「その節はありがとうございます。なんたって、私の最推しは“妹”だからね」
「…シスコンが行きすぎな気もするけど」
シエルがさらに呆れたように言う。
だがあの妹のリズ、銀髪に赤い瞳をしたお人形のような彼女を見れば、誰だって可愛がりたくなるとエリスは思っている。
そのたびにシエルに、鏡を見て、自分の金糸の髪と青い空の瞳に問いかけるべき、と言われていたがエリスは意味が分からなかった。
そしていつものようにエリスは何度もシエルに話した言葉を口にする。
「だって可愛い、護りたいって初めて会った時に思ったし。私は後妻の子供だけどね。あの子の方が年下で、前は能力が無くて…あの家に生まれたのにって、陰口叩かれて可哀想だったわ。だから私が守ってあげないと」
「その役目ももう“いらない”けれどね。“聖女”の能力が発現して、貴方よりも強くなっちゃって」
「うう…私の可愛い、妹がぁ…」
「それに彼氏までいるしね」
「あの泥棒猫がぁあ…」
「今は彼氏にわがまま言ったりしているんでしょう?」
「私なら、ドラゴンの首だって持ってこれるのに…なんであんな男が良いの…」
そう嘆く私。
妹が欲しがり屋の我儘になるのは事前に知っていたというのもあるが、あの子がそうなったのは自身の“能力”が発現していないからだった。
常にいつ見捨てられるのかの不安があったようだった。
そもそも妹という“推し”に貢ぐのならば構わないが、能力が無いゆえに不安で欲しがってしまう試し行為であるので際限がない。
ならばエリスがする行為はただ一つ。
その我儘に耐えきれる“物量”が存在すれば、それらを奪われても大して問題ない。
だから貴方の不安を満たすために私が沢山、貢ぐ。
そんなわけで様々な冒険をして密かに稼いだり投資をしたり。
それを手伝ってくれたのは幼馴染のシエルだった。
文句を言いながらも一緒に色々と…そう、色々とした。
というわけで私のあふれる愛情という名の“貢ぎ”をして妹を界隈がっていた。
それこそ、ドラゴンの首が欲しいって言ったら、お姉ちゃん取ってくるからね、という程度である。
ただその時の妹のリズは引きつった顔で、いらない、と一言言っていたが。
あれ高価なものなんだけれどな…とエリスは悲しく思った記憶がある。
そして強くなることで、私の妹が欲しくば私を倒していけ、いじめるものは全員、ピー、にしてやる、という事で比較的平穏に妹のリズは暮らしていた、はずだった。
だが大事にしていた妹のリズは、乙女ゲーム開始直後の学園で、すぐに、“あの男”と…。
「うう、なんで、なんであんな男と。あんな、ポッと出の男に妹のリズが…」
嘆きながらエリスは目の前の酒を一口。
因みにエリスは酒が弱く、このジョッキの半分程度飲むだけで動けなくなる。
すでに四分の一ほどに減っているため、理性のタガも外れていた。
もっともそういったものを飲んでも大丈夫なように、お酒に強いシエルと一緒に飲んでいるのだが。
どれほど強くとも、酒で泥酔状態になってしまえば何をされてもおかしくはない。
そこでシエルが大きく息を吐いて、
「そろそろ話してもいい頃だと思うから言うわ。実はあのリズの彼氏、昔から時々リズに会っていたのよね」
「待って、何の話?」
「秘密にしておいて欲しいというから、“取引”したの」
「“取引”って…」
「黙ってあげてもいいけれど、貴方のお姉ちゃんはその内、“私”が貰うわって」
「…」
「あの子、ちょっと悩んだけれど、すぐに頷いてくれたわ。本当に良かったわ。そうでなければ私…」
シエルが楽しそうに笑う。
というか今聞き捨てならない言葉を幾つか聞いた気がしてエリスは、
「リズ…そんな、私よりも男を…」
「まずはそこなの? そろそろシスコンは止めにしなさいよ」
「貢いだものの重さは、愛」
「それは私もそうね。貴方の傍でずっと手助けしていたもの」
そういってシエルはエリスの手を握り、
「“私”の可愛いエリス。貴方が一番に頼るのは私だけ。だから特別に許してあげたの。手助けもしてあげたわ。そうでなければ…」
「そうでなければ?」
「貴方の手に入れたもの全部奪って、私のことしか考えられないようにして…貴方の全てを私の物にしている所よ?」
「今、とっても重い感情を聞かされた気がするわ」
「貴方の前では見せないようにしていたもの。獲物を狩るのに警戒させてはいけないでしょう?」
「自分で言うのもなんだけれど、私のどこがいいの?」
「それはこれから一つづつ教えてあげるわね」
にこりと笑ったシエルの手が、エリスを逃げられないように掴んでいる。
変だな、いいお友達ルートを選択したはずなのに? とエリスは首をかしげたがもう遅かった。
こうしてシスコンなんてしていられなくなるくらい大変なことになって、エリスとシエルがくっつくのは、それから数日後のことだった。
※美少女だけど20歳を超えています(だからお酒も飲めるよ)
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