表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさんテイマー、もふもふ魔物と辺境ライフ  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/98

第四話:畑の開墾と、ゴブリンたちの意外な才能(前半)

本日、四話目です!

ルナの家で温かい薬草茶と、俺が作ったスコーンで一息ついた俺は、翌日から本格的にこの辺境の村での生活基盤を築き始めることにした。昨夜の束の間の安寧あんねいが、体と心を十分に休ませてくれたらしい。朝日が差し込む窓の外には、清々しい風が吹き抜けていくのが感じられた。頬を撫でる朝の風は、都会の喧騒けんそうとは無縁の、清らかな森の匂いを運んでくる。

何よりもまず、食料の安定確保だ。この世界で生きていくには、自給自足が必須となる。旅の途中で手に入れたわずかな食料だけでは、とてもではないが長くは持たない。ましてや、プニやゴブリンたちという新たな家族が増えた今、彼らの分の食料も考える必要がある。そのためには、畑が必要になる。広大な土地を耕し、豊かな収穫を得る。それが、ここでの俺の第一歩となるだろう。

「ルナさん、村の近くで、畑に使えそうな場所はないか?」

朝食を済ませた後、俺はルナに尋ねた。彼女は少し考え込むように首を傾げた。その仕草一つ一つが、どこか控えめで、初々しい。

「畑ですか? 今、村で使っている畑は、もう目一杯で……。耕せる土地は、ほとんど残っていません。ただ……」

ルナは言葉を選びながら、少し口ごもる。その表情には、どこか諦めのような色も見て取れた。きっと、村人たちもこれまで苦労してきたのだろう。

「少し離れた場所に、以前は使っていたけれど、魔物が出やすくて放置されてしまった場所ならありますが……。もう何年も手付かずなので、相当荒れています。土も痩せていると聞いていますし……開墾は難しいかもしれません」

「魔物、か」

俺はチラリと、家の外で待機しているゴブリンたちに目をやった。彼らは俺の指示を待つように、行儀よく(少なくとも俺にはそう見えた)静かに佇んでいる。森の中で出会った時は、あんなにも殺気を放っていたのが嘘のようだ。特に、ゴブタは一晩で完全に俺を信頼しきったようで、その眼差しには確かな忠誠心が宿っている。

「ゴブリンたちがいるなら、魔物の問題はなんとかなる。いや、むしろ、彼らがいるからこそ、積極的にそういう場所を選ぶべきだろう。彼らの存在は、この世界での俺の最大の強みになるはずだ」

俺の心の中の呟きに、プニが肩の上でプルプルと反応した。

『お兄さん、ゴブリンたち、頑張るって言ってるよ!』

プニからの念話に、俺は思わず口元が緩んだ。なるほど、俺の思考がある程度、テイムした魔物には伝わるのか。これは便利だ。

「その『魔物が出やすい場所』とやらは、どのくらいの広さだ? そして、どんな魔物が出るんだ?」

俺の問いに、ルナは少し驚いた顔で俺を見ていたが、すぐに「はい」と頷いて説明してくれた。

「広さは、村の畑の二倍くらいはあるでしょうか。でも、石が多くて、開墾が大変だと聞いています。土もかなり痩せてしまっていると……。出る魔物は、主に小さな獣型の魔物や、稀に猪型の魔物が……。以前はもっと大きな魔物も出ていたそうですが、最近はめったに見かけないようです」

ルナの説明を聞きながら、俺は頭の中で計画を立てる。石が多いのは確かに厄介だ。前世で趣味としていた家庭菜園とは規模が違いすぎる。だが、ゴブリンたちがいる。彼らの力仕事は、きっと開墾に役立つはずだ。それに、猪型の魔物なら、元ラガーマンの体力でどうにかなるかもしれない。もちろん油断は禁物だが、肉体的なタフネスには自信がある。万が一、手に負えない魔物が出ても、今はまだ遭遇していないが、この世界には「冒険者」なるものもいると聞く。最悪は、村の守備隊や冒険者に助けを求めることもできるだろう。まずは、彼らが活動できる拠点が必要だ。

「よし、そこに決めよう。案内してくれないか、ルナさん」

俺の即答に、ルナはさらに目を丸くした。その顔には、驚きと同時に、少しばかりの不安が混じっていた。

「本当に、ですか? あそこは、荒れていて、一人ではとても……」

「大丈夫だ。俺には、頼もしい仲間がいるからな」

そう言って、俺は窓を開け、ゴブリンたちを招き入れた。彼らが姿を現すと、ルナはやはり少し怯んだ様子だったが、すぐに表情を引き締めた。小さなゴブリンたちは、好奇心旺盛にキョロキョロと室内を見回している。特に、一番小さなゴブコは、ルナの足元に咲いていた野草に興味を示し、そっと触れてみようとする仕草を見せた。プニは俺の肩から、ルナの様子を伺うように顔を覗かせた。

『こんにちわー! 新しいお友達だね!』

プニの無邪気な感情がルナにも伝わったのか、彼女はふっと笑みをこぼした。その表情には、先ほどの不安が薄れ、少しだけ安心感が浮かんでいるように見えた。ルナが小さく「こんにちは」と呟くと、ゴブコが嬉しそうにプルプルと体を揺らした。

「……はい。では、ご案内します」

こうして、俺とルナ、そしてプニとゴブリン一家は、新たな畑となる場所へと向かった。村人たちは、俺たちが魔物を連れていることに驚きを隠せないようだったが、ルナが同行していることで、過剰な警戒はされないようだった。まだ完全に受け入れられたわけではないが、第一歩としては上々だろう。村人たちの視線の中には、好奇心と、かすかな期待が混じっているようにも感じられた。

村から少し歩いた先に、ルナが言う「放置された畑」があった。それは想像以上に荒れ果てた土地だった。見渡す限り、拳大から大人二人がかりでなければ動かせないような巨大な岩まで、様々なサイズの石がゴロゴロと転がっている。まるで、巨人が石投げでもしたかのようだ。その間には、人間の背丈ほどもある雑草が、密林のように生い茂り、土地全体を覆い隠していた。土の色も、栄養が失われたのか、妙に白っぽく見えた。鼻をかすめるのは、湿った土と、どこか重苦しい森の匂い。

「こりゃあ、確かに手強いな……」

俺は腕組みをして唸った。前世で趣味としていた家庭菜園とは規模が違いすぎる。スコップやクワといった道具があれば、多少は楽になるだろうが、この世界でどこまで手に入るか分からない。まずは、あるものを使うしかない。

「さあ、お前たち。今日からここが、俺たちの新しい畑になる場所だ。まずは、この邪魔な石と雑草を全部取り除いてくれ!」

俺が指示を出すと、ゴブリンたちは「オウ!」と力強い返事をし、一斉に作業に取り掛かった。彼らの動きは、予想以上に素早かった。

ゴブタがリーダー格らしく、他のゴブリンたちに手際よく指示を飛ばす。彼の目は、まるで百戦錬磨の現場監督のようだ。力自慢のゴブリンたちは、数人がかりで大きな石をよいしょと持ち上げ、畑の端へと運び出す。彼らの筋肉質な腕には、見た目以上の力が宿っているようだ。まるで、熟練の建設作業員たちが重機を使っているかのような連携プレーだ。彼らの荒い息遣いと、石が地面に置かれる鈍い音が、静かな森に響き渡る。

「そこの雑草は根が深い! 周りの土も一緒に掘り起こせ!」

俺が声をかけると、別のゴブリンたちは、その鋭い爪や、持っていた木の棒のような道具を使って、硬い雑草の根を効率的に掘り起こしていく。彼らの手は、見た目に反して器用で、土の中の根っこを絡め取るように引き抜いていく。中には、土の中に潜む小さな虫を見つけて、パクリと食べる者もいる。彼らなりに、この土地に順応している証拠だろう。

小さいゴブリンたち、ゴブコとゴブゾウは、自分たちで運べるサイズの小石を拾い集め、せっせと運び出している。彼らの小さな手で、一生懸命石を運ぶ姿は、どこか健気けなげで、見ていて笑みがこぼれた。ゴブコが重そうな石を運ぼうとして、何度か足元をふらつかせると、プニがスーッと近づいて、その石の下に潜り込み、ほんの少しだけ持ち上げるようにプルプルと震えて手伝っている。

『頑張れ、ゴブコ! あともうちょっとだよ!』

プニの応援に、ゴブコも嬉しそうに頷き、再び石を持ち上げて運んでいく。異種族間の小さな協力関係が、俺の心を温かくする。

俺は、前世の知識を活かして、彼らに指示を出した。

「ゴブタ、その石はもう少し奥にまとめてくれ! 後で石垣を作るかもしれないからな! 防風林の代わりにもなるし、畑の境界線にもなる。それに、魔物の侵入を防ぐ役割も期待できる」

俺の言葉を聞き終えると、ゴブタは深く頷き、他のゴブリンたちに手早く指示を出す。彼らの間で、独特の低い唸り声のようなものが交わされ、指示が伝達されていく。

「プニ、そこの土、もっと柔らかくできるか? 水分を吸って、混ぜるイメージで! その後で吐き出してくれれば、土がほぐれて耕しやすくなるかもしれない」

プニは「まかせて!」とばかりに、プルプルと意気込んだ様子で土の上を移動していく。彼が通った後の土は、確かに目に見えてふかふかになっていくようだった。その小さな体が、想像以上のポテンシャルを秘めていることに、改めて驚かされる。

「おい、そこのおチビども! その枯れ草は、後で燃やすから、ここに集めておけ! 肥料にするか、燃料にするか、あるいは煙幕の材料にするか……使い道は色々あるぞ」

ゴブコとゴブゾウは、枯れ草を抱えきれないほど集めて、俺の足元まで運んでくる。彼らの顔には、褒められたいという感情がはっきりと見て取れる。俺が頭をポンと撫でてやると、彼らは嬉しそうに身をよじった。

彼らは言葉を理解するわけではないが、俺の感情や身振り手振りから、何をすべきかを正確に察して動く。魔物ならではの、原始的な、しかし効率的な連携プレーだ。彼らの行動を見ていると、まるで俺の意図を完璧に読み取っているかのように思えてくる。テイムしたことで、ここまで意思疎通ができるようになるのか、と驚きを隠せない。彼らとの間に、確かな信頼関係が築かれつつあるのを実感する。

ルナは、そんな俺と魔物たちの共同作業を、呆然ぼうぜんと見つめていた。彼女の顔には、驚愕と、そして少しばかりの畏敬いけいの念が浮かんでいるようだった。

「すごい……。こんなに早く、石が片付いていくなんて……。村の者たちも、これほどの力はないわ。ユウイチロウさんの指示も、なぜかゴブリンさんたちに伝わっているようですし……。本当に、不思議な方ですね」

彼女の驚く顔を見て、俺は少し得意になった。やはり、このテイム能力は、この世界で生きていく上で大きな武器になる。そして、その能力を最大限に引き出すのは、やはり俺自身の経験と知識だ。異世界でのおっさん、まだまだ捨てたもんじゃない。

作業は順調に進んだ。ゴブリンたちは疲れる様子もなく、黙々と、時には楽しげに作業を続ける。彼らの効率の良さには、目を見張るものがあった。まるで、この畑の開墾のために生まれてきたかのようだ。時折、ゴブタが他のゴブリンに厳しくも的確な指示を出し、作業の無駄をなくしている。彼の統率力は、まさにリーダーにふさわしい。

昼時になり、ルナが村に戻り、簡単な食事を持ってきてくれた。黒パンと、干し肉を茹でただけのシンプルなものだったが、重労働の後には何よりも美味しく感じられた。森の澄んだ空気の下で食べる食事は、それだけでご馳走だ。

「ユウイチロウさん、ゴブリンさんたちも、少し休んでください。水分もとらないと」

ルナは、ゴブリンたちにも水筒を差し出す。ゴブリンたちは、最初は戸惑っていたが、ゴブタが先に水を飲むと、他の者たちも次々と水を飲み始めた。彼らの表情には、ルナへの感謝が浮かんでいるように見えた。異世界での出会いは、本当に予測不能だ。まさかゴブリンたちと一緒に昼食を取る日が来るとは。彼らが美味しそうに水を飲む姿を見ていると、なんだか家族が増えたような、温かい気持ちになった。プニは俺のパンを少し分けてもらい、プルプルと嬉しそうに跳ねている。

昼食休憩の後も、作業は続いた。俺は畑の土の状態をチェックする。手で土を掴んでみれば、やはり粘り気がなく、砂っぽい。

「うーん、やっぱり土が痩せてるな。これじゃあ、まともに作物が育たないかもしれない」

前世の知識では、土壌改良には堆肥たいひ腐葉土ふようどが必要だ。だが、この世界にそんな都合の良いものがあるのか? 村の畑を見ても、そこまで大規模な土壌改良をしているようには見えなかった。

その時、ふと、あるアイデアが閃いた。これは、現代の知識と、プニの能力を組み合わせれば、あるいは……。

「そうだ、あれがあるじゃないか!」

俺はゴブリンたちに指示を出した。

「おい、お前たち! さっき集めた雑草や枯れ葉、それを細かくちぎって、この土に混ぜ込んでくれ! あと、森の中に落ちてる枯れ木や、朽ちかけた倒木なんかも、細かく砕いて持ってきてくれるか? プニ、お前はそれを吸い込んで、さらに細かくしてくれ!」

俺の指示に、ゴブリンたちは最初は戸惑ったようだが、すぐに意図を理解したのか、再び動き出した。彼らの目には、新しい遊びを見つけた子供のような好奇心が宿っている。

ゴブリンたちは、集めてあった枯れ草や枯れ葉を、器用な手でちぎり始める。中には、まるでミキサーのように両手で擦り合わせ、粉砕していく者もいる。力自慢の者たちは、朽ちかけた倒木を軽々と持ち上げ、岩に叩きつけて砕いていく。まるで木を食い荒らすシロアリのようだ。その作業効率には、改めて舌を巻く。

そして、細かくなった有機物を、プニが吸い込んでいく。プニの体が、吸い込むたびに少しずつ緑がかっていくのが見えた。まるで、森の生命力を吸い上げているかのようだ。そして、プニがそれらを吐き出すと、驚くべき変化が起こっていた。

「これは……!」

プニが吐き出したものは、先ほどの有機物とは全く異なる、黒々とした栄養豊かな土になっていたのだ。それも、独特の、しかし嫌ではない、森の土のような香りがする。腐葉土のような、深い生命の匂いだ。

『お兄さん、おいしくできた! この土、元気いっぱいだよ!』

プニが満足げにプルプルしている。どうやら、プニは有機物を分解し、栄養価の高い土に変える能力を持っているらしい。これは、まさしくコンポストスライムではないか! 俺は感動で震えた。こんな便利な能力を持った魔物が、まさか最初の相棒になるとは。

「すごいぞ、プニ! お前は天才だ! これがあれば、どんな痩せた土地でも、豊かな畑に変えられる!」

俺は興奮してプニを抱き上げた。プニは、俺の興奮が伝わったのか、さらに嬉しそうにプルプルと震え、俺の頬に体を擦りつけてきた。そのひんやりとした感触が、なぜか心地よい。

ルナも、その光景に目を奪われていた。その顔には、驚きと、信じられないものを見たかのような表情が浮かんでいる。

「すごい……。スライムが、こんなことができるなんて……。まるで、魔法みたいです。こんな土、見たことがありません……!」

「ああ、魔法だな。これがあれば、この畑は、きっと豊かな実りを与えてくれるだろう!」

俺は確信した。このプニの能力と、ゴブリンたちの労働力、そして俺の現代知識があれば、どんな荒れた土地でも、豊かな農地に変えられる。辺境の地に、豊かな畑を築くという夢が、一気に現実味を帯びてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ