第三話:辺境の村とルナの薬草茶、そして現代式スコーン
本日、第三話目の投稿です!
ゴブリンたちをテイムし、俺のパーティーは一気に賑やかになった。特に小さなゴブリンたちは、俺の後ろをちょこまかとついてきて、何かを見つけるたびに嬉しそうに報告してくれる。
『お兄さん、この木、大きい!』
『これ、光ってる!』
プニも俺の肩の上でプルプルと揺れながら、ゴブリンたちと会話しているようだった。言葉は通じなくとも、お互いの感情はなんとなく伝わるらしい。可愛いもんだ。
ゴブタはリーダー格らしく、他のゴブリンたちをまとめながら、先頭を歩く俺の周囲を警戒してくれている。頼もしい限りだ。
彼らの助けもあって、しばらく歩くと、遠くに土壁の建物が見えてきた。
「人里……! やっと着いた!」
思わず声が出た。安堵から、ふうっと息を吐き出す。しかし、同時に緊張も走る。異世界で初めて出会う人間だ。どんな反応をされるか、まったく予想がつかない。テイマーとして、魔物を引き連れている俺は、歓迎される存在なのだろうか?
ゴブリンたちを少し後ろに待たせ、俺とプニだけで村の入り口に近づく。と、見張り台に立っていたらしき村人が、俺たちに気づくと慌てた様子で中へ引っ込んでいった。
「あ、おい! 待っ――」
声をかける間もなく、彼は姿を消した。やはり警戒されるか。
数分後、村の門がゆっくりと開き、中から数人の村人が恐る恐る顔を覗かせた。その中に、ひときわ目を引く少女がいた。茶色の三つ編みが特徴で、素朴だがどこか清楚な雰囲気を持つ。瞳は優しく、しかし今は、不安そうに揺れていた。
その少女が、おずおずと前に出てきた。手には小さな籠を抱えている。
「あ、あの……旅の方ですか? その、後ろの……」
少女は俺の肩に乗っているプニを見て、さらに緊張した様子だ。
「ああ、すまない。俺はユウイチロウ。そいつはスライムのプニだ。見ての通り、害はない」
そう言って、俺はプニを手のひらに乗せてみせる。プニは俺の指にまとわりつき、プルプルと震えている。
『こんにちわー!』
プニの感情が少女にも伝わったのか、彼女の顔から少しだけ強張りが消えた。
「スライム……が、テイムされているんですか? 珍しい……。私はルナと申します。この村で薬師見習いをしています」
ルナと名乗った少女は、まだ少し戸惑っているようだが、それでも俺を迎え入れようとしてくれている。優しい子だな。
「ルナさん、よろしく。実は、ここに来る途中で、ちょっと色々なことがあって……。もし差し支えなければ、少しだけ休ませてもらえないだろうか? 食料も、ほとんどなくて」
俺の言葉に、ルナは少し考えてから、優しく微笑んだ。
「はい、どうぞ。こんな辺境の村ですが、旅の方を拒むことはありません。それに、疲れてらっしゃるでしょう。何か温かいものでも、お出ししますね」
その言葉に、俺は心底ホッとした。これで、とりあえず飢え死にの心配はなさそうだ。
ルナの案内で村の中へ入ると、素朴だが清潔感のある家々が並んでいた。村人たちはまだ俺を警戒しているようだったが、ルナが説明すると、少しずつ表情が和らいでいく。
ルナの家の奥で、彼女は手慣れた様子で薬草をいくつか取り出し、煎じ始めた。湯気と共に、独特の香りが漂ってくる。
「これは、安眠と疲労回復に効く薬草茶です。よろしければ」
差し出された茶碗を受け取ると、ふわりと温かい湯気が俺の顔を包んだ。一口飲むと、ほんのりとした苦味の後に、爽やかな香りが口いっぱいに広がる。
「うまい……。なんだか、ホッとする味だな」
疲れた体に染み渡るような優しさだった。ルナは、俺の言葉に嬉しそうに目を細めている。
「ありがとうございます。薬師として、少しでもお役に立てればと」
彼女は本当に心優しい少女だ。こんな娘が、この辺境の村で薬師見習いをしているのか。
薬草茶を飲みながら、俺は転生してからの出来事をかいつまんで話した。ゴブリンたちのことも、なるべく刺激しないように、だが正直に伝えた。ルナは驚きながらも、真剣に耳を傾けてくれた。
「……そうですか。魔物と共存するというのは、私たち村人にとっては、まだ少し怖いことですが……。ユウイチロウさんのような方がいるのなら、もしかしたら……」
ルナの言葉に、俺は決意を新たにした。この村で、魔物と人間が共存できる場所を作れないだろうか。それが、テイマーとしての俺の最初の目標になるかもしれない。
「そうだ、ルナさん。お礼と言ってはなんだが、俺も何か作ろうか? 食料はあまりないが、少しなら持ち合わせがあるんだ」
俺はポーチから、森の中で見つけた木の実や、わずかに残っていた干し肉などを取り出した。それに、転生時に持っていた、なぜか袋に小分けされた小麦粉と砂糖、そして乾燥イースト。
ルナが目を丸くする。
「小麦粉……!? それは貴重なものですわ!」
「まあ、ちょっとばかりな。これで、とびっきりのものを作ってやるよ」
俺はにやりと笑った。ルナの家の台所を借り、火を起こし、道具を借りる。簡単なものだが、前世でよく作っていた、とっておきのレシピがあった。
ボウルに小麦粉、砂糖、そして乾燥イースト(ほんの少量)を入れ、水と混ぜ合わせる。そこに、砕いた木の実と、細かく刻んだ干し肉を加える。しっかりと混ぜ、生地をこねる。ルナが興味津々といった様子で、俺の手元をじっと見つめている。
「これは、前世の俺の故郷の食べ物でな。『スコーン』って言うんだ。簡単なパンみたいなもんだが、腹持ちがいいし、ちょっと甘くて、疲れた時にぴったりなんだ」
生地を丸めて平らにし、焚き火の熱でゆっくりと焼いていく。しばらくすると、香ばしい匂いが台所いっぱいに広がり始めた。焦げ付かないように、何度もひっくり返しながら、じっくりと火を通す。
焼きたてのスコーンは、外はカリッと、中はふんわりと焼き上がっていた。干し肉の塩気と、木の実に含まれるほのかな甘みが絶妙にマッチしている。
「さあ、ルナさん、できたぞ」
熱気を帯びたスコーンを、ルナに差し出す。彼女は恐る恐る一口齧った。
その瞬間、ルナの瞳が大きく見開かれた。
「……っ! これ、美味しいです! 外は香ばしくて、中は柔らかい! こんなパン、食べたことありません……!」
ルナの顔が、喜びでパッと輝く。その笑顔を見た俺も、思わず笑みがこぼれた。
『お兄さんのごはん、おいしい!』
肩に乗っていたプニも、焼きたてのスコーンの匂いを嗅ぎつけて、嬉しそうに俺の頬をプルプルさせている。
ゴブリンたちも、焼けた匂いに誘われて、窓の外から中の様子を窺っている。さすがに村の中には入れないが、後で彼らにも作ってやろう。
辺境の村で、初めて出会った人間のルナ。彼女との出会いは、俺の新しい生活に、温かい光を灯してくれた。そして、俺の料理が、この世界で人々と繋がるための、強力なツールになることを実感した。
異世界での、ゆるくて、温かい、そして美味しい生活は、始まったばかりだ。




