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彼氏(笑)をATM扱いにしてタダで金を貰い続けてきた結果…

 「ねぇねぇ、金田くん? また五万円くらい貸してくれなかな? 」


 昼の日差しで照らされたファミレスの会話の中に甘い声が紛れ込む。


 クリームやジャムが僅かに付いている皿が乗っているテーブルを挟んで通路側の席に座っている一人の女性は


 「お願〜い。彼氏なんだし出せるよね? 」


 と、瞳を上にして甘い声を出しながらリップを塗られた唇を開く。


 金田と呼ばれた青年は彼女の目を見ながら


 「ええ。分かりましたよ」


 と、メガネの位置を直して、財布を開いて5枚のお札を取り出す。


 それを目にした途端、彼女は目を輝かせて


 「まじでありがと〜! 金田くん、ほんと好きっ! 」


 と、勢いよくお札を金田の手から取り上げる。


 「それじゃ、私友達と遊びに行くから。支払いお願いね〜」


 彼女は金を財布の中にしまって、軽い足取りのまま店から出て行った。


 金田は彼女を見送った後、ほとんど手をつけていないスイーツの皿が並ぶテーブルを眺め、


 「ほんと、かわいい人だなぁ」


 と、口元を緩めながらレジに向かったーーー


 


 ーーー数週間後。


 「なーんか、最近身体がだるいような気がすんだよね〜。さっさと寝とけばよかったかなぁ」


 金田と街の大通りを歩いている彼女は眠気を身体から出そうとカラフルなネイルの手で口元を覆う。


 「え、あ…そ、そうですね…」


 「いや何が"そうですね"だよ。ほんとコミュ障だね金田くん」


 「あ…はい、すみません…」


 「別に怒ってないなら。ったく本当に…」


 目線を合わせられずオドオドしている金田の隣を歩きながら舌打ちする彼女。


 ふと、店のショーケースに目を向けるといかにも高級そうなバッグが黒い光沢を帯びていた。


 バッグが目に入った途端、彼女は金田を押し除けて


 「やだ! 何このバッグ!? めっちゃいいじゃん! 」


 と、ガラスに手をつけて顔を近づけ目を輝かせる。


 後からバッグを覗く金田は


 「このバッグですか? でもバッグならこの間僕が…」


 と口を開くが、彼女は目の輝きを消して


 「は? あの時のやつとは違うから。何も知らないなら黙ってて」

 

 と、睨みつけ再びバッグに視線を向ける。


 彼女はポケットから財布を取り出しては、中身とバッグの値札を交互に見る。


 4往復ほど値札と財布に視線を向けると、


 「最悪…足りないじゃん…」


 と息を吐き出す。


 すると、彼女は立ち上がるや否や金田の腕に密着して


 「ねぇ、金田く〜ん? 私お金ないの。だから…ね? 」


 と、瞳を上にしながら首を少し横に傾ける。


 「え? で、でも…」


 金田は視線を腕に当たっている彼女の胸元に視線を移しては逸らすのを繰り返していると更に密着して


 「恋人なんだから、出せるよね? 」


 と彼女の囁きによって顔を真っ赤に染める。


 そして財布を取り出して2枚の一万円札を取り出して


 「ど、どど、どうぞ…」


 と、手を震わせながら彼女に渡す。


 彼女は視界に2万円札が入るや否や即座にそれを奪い取り、


 「本当ありがと〜、金田くん」


 と陽気に感謝して店に入る。


 数分後、お目当てのバッグを片手に店を出て、


 「はぁ〜…本当最高…!! 」


 と、歓喜のため息をつく。


 そんな彼女の様子を見つめて、目を細めている金田は彼女に


 「あ、あの。良かったら今夜、ご飯でも……」


 と期待に満ちた声で言うが、途中で


 「あ、ごめん。今夜予定あるから」


 と感情のない彼女の声に遮られる。


 「あ、そ、そうですか…すみません…」


 顔を俯かせる金田をよそに彼女は


 「うん。じゃアタシ帰るから」


 と言って金田に背を向ける。


 「そんじゃ、バッグありがと〜」


 顔を向けることなく、片手をヒラヒラと振って去って行く彼女の背を


 「………あぁ、本当にかわいい人だなぁ…」


 と瞬きせずに見えなくなるまで見つめていたーーー。






 ーーーその日の夜。


 「なぁ、お前まだあの金田とか言う陰キャと付き合ってるのか?」


 とあるホテルの一室。


 淡い光の下のベッドの上に腰掛けている半裸の筋肉質の男の質問に


 「は〜? キモいこと言わないで。そんなわけないでしょ? 」


 と、同じく金田の彼女が半裸の姿でベッドに寝転がり、スマホをいじっている。


 「あんなのただのATMだから。あんな陰キャと付き合う訳ないじゃん」


 金田の彼女の嘲笑に筋肉質の男は


 「結構長い間付き合ってるのにか? 今までデートもセックスもしたことねぇの? www」

 

 とタバコの煙を吐くと彼女は


 「だーかーらー、してないって。あいつは私のATMなの。ギャンブル代と、グッズ代と、ホテル代を稼ぐための」


 と顔を顰める。


 「ひっでぇ女w 金田のやつかわいそwww 」


 全く心を込めずに同情しながらタバコを灰皿に押し付ける男に彼女は


 「いや断れない男の方が悪いでしょ?w ちょっと見てて」


 と、スマホのLINE画面を見せる。


 『ごめーん 友達の誕生日プレゼント買うのにお金無くなっちゃった 』


 『明日6万円くらい貸してくんない? 』


 『恋人だからできるよね? お願〜い♡』


 男がスタンプだらけの彼女のメッセージを眺めていると、即座に「既読」が付いた。


 そしてすぐに


 『わかりました。すぐに用意しますね』

  

 と、金田からの返信が来た。


 「ね? こいつクソちょろいでしょ? www」


 彼女の言葉と金田の返信に


 「確かにw こりゃこいつが悪いわwww 」

 

 と、男も吹き出す。


 すると男はふと、彼女に


 「にしてもこいつ、どうやって稼いでるんだ? 確か、まだ学生だったろ? 」


 と尋ねると、彼女はスマホを置いて


 「さぁ? 親の金じゃないの? 」


 とだけ返して身体を起こして


 「そ・れ・よ・り♡ 」


 男に抱きついて、耳元でそっと


 「続き、しよ? 」


 と囁く。


 それに男もタバコを灰皿に捨てて


 「いいぜ? 今夜は寝れると思うな」


 と返すと、そのまま彼女と自分の唇を重ね合ったーーー。




 ***


 ーーーその頃、金田の自宅。


 彼女からのLINEを見た金田は


 「さてと、また銀行から下ろさなきゃ」


 と、ベッドから起き上がる。


 数分間、夜風を浴びながら歩いて行くと夜の街に一筋の光を放っている銀行が見えてくる。


 金田は自動ドアをくぐって、ATMの前に立って慣れた手つきでパネルを入力していく。


 【お手持ちの通帳、または銀行カードを入れてください】


 金田はポケットから通帳を取り出す。


 まるで、焼け焦げたかのように真っ黒な通帳をーーー。


 黒い通帳を入れられたATMは突如、


 『ザ…ザザー…』


 と、奇怪な音を出しながら乱れ始めるが金田は


 「まだかなー」


 と呟くだけ。


 そして、画面の乱れが徐々に収まっていくにつれて浮かび上がったのはーーー





 真っ黒な背景に真っ赤な文字の通常とは異なる画面。



 そこには金田の彼女の顔写真と名前、そしてその真下には



 【寿命残高: 00年00月06日09時間45分23秒】



 という数字と文字の羅列と『お引き出し』、『お預け入れ』の赤い文字の項目。


 数字は


 『ピッ、ピッ、ピッ』


 という電子音と共に


 『22秒』

 

 『21秒』


 『20秒』


 と減って行く。


 

 金田は慣れた手つきで『お引き出し』を押して、暗証番号を流れるように入力していく。


 『お引き出し金額を入力してください』という項目に『60,000円』と入力していくと、即座に画面から



 【こちらの金額を引き下ろす際、手数料が発生します。よろしいですか?】


 と、『はい』、『いいえ』の二つの項目が。



 しかし、金田の指は迷わず『はい』の項目に押し当てられている。


 『ガチャ…ガチャガチャ…』


 機械音と共に取り出し口から6枚の一万円札が吐き出されると、金田はそれを財布の中にしまう。


 ふと、画面を見るとーーー



 【寿命残高: 00年00月00日09時間43分51秒】



 と先ほどより短くなっていることを示している。


 金田はその表示を一瞬だけ視界に入れてすぐに『完了』の項目をタップして、ATMに背を向ける。


 彼が去った後、ATMはまるで何事もなかったかのようにいつもの画面に戻って次の客を待っていたーーー。



 ーーー翌日。



 「はい。昨日頼まれた6万円ですよ」


 街の公園にて、金田は彼女に封筒を手渡す。


 「う、うん………。あ、ありがと…」


 しかし、金田の視界の中の彼女の表情は青ざめて、瞳には生気を感じられないほど虚ろ。


 「あの、どうしましたか? 」


 金田は俯いている彼女の顔を覗き込むが、


 「な、何でもない………」


 と、荒い息と共に出た消えかけている声で答えて彼女は汗を拭う。


 「ちょ、ちょっと体調悪いから、先に帰るね………」


 彼女は封筒をポケットに入れてそのまま金田に背を向ける。





 金田はいつ倒れてもおかしくないほど、右へ左へヨロヨロと歩いていく彼女の背中を



 (あと…1時間弱くらいかな)


 

 と、目を細めて眺めている。


 (あともうちょい。あともうちょいで彼女の"残高"は無くなる)



 頭の中に昨晩見た彼女の『寿命残高』の数字が浮かび上がる。



 (長年、金を与え続けた甲斐があったなぁ…。"手数料"、いっぱい使っちゃったし)




 彼女の背中が遠ざかるにつれて金田の口角はどんどん上がっていく。



 (残高が無くなれば…あの人は………)



 限界まで上がった口元で、小さな声で呟く。




 

 

 「"永遠"に僕のモノだぁ………♡」



 



 ーーーおよそ1時間後。




 金田は壁一面に彼女の写真が貼られたの部屋から出て、弾む足どりで彼女のマンションに向かう。


 扉の前に立って慣れた手つきで鍵穴に針金を差して数回動かすと、『ガチャ』という音と共に扉を開く。



 部屋に入った金田は床に倒れている彼女を見下ろして、頬を緩めていた。

 

 

 


 「おまたせ♡♡♡」

 




 金田の視線の下にいる彼女からの返事は



 



 無かったーーー。






 〜Fin〜

 

 

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