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第5話:命を繋ぐ契約

男の声は、怒りと焦りで震えていた。

その視線は、倒れた静馬のほうに釘付けになっていた。


「治療班を! すぐだ、早く来させろ! このままで失血死する!」


狐面たちが戸惑いを見せる。

戦闘続行中に一般人を巻き込んだとはいえ、こちらの邪魔をしてきた相手にそこまで配慮する必要など、本来はないはずだった。


だがその男は、なおも怒気を孕んで言い放つ。


「――この男はお嬢様の知り合いだ!、死なせたらどうなるか分かってんのか!?」


その一言に、数名の仮面がはっと身じろぎした。

一瞬、空気が張り詰まる。


「お嬢様……?」


「まさか……直系の?……」


ひとりが低く呟きかけたところで、狐面の男が鋭く睨みつける。


「いいから動け。絶対に死なせるんじゃない!」



――視界は赤く、世界はぼやけていた。

音も、感覚も、全部が水の中に沈んだように遠い。


(あれ……俺……今、どこにいるんだ……)


三神静馬は、石の床に倒れ、肩口から流れる血で身体を染めながら、

かすかな呼吸だけを頼りに意識をつなぎとめていた。


遠くで、誰かが自分を呼んでいる声がした。


――静馬。


やがて、その声だけが、世界で唯一はっきりと聞こえるようになる。


「静馬……聞こえる? 私よ。ラウラ」


淡い光の中に、ラウラの姿が浮かぶ。

仮の身体のままではなく――契約の内側、“彼”の精神に直接触れるかのような存在感だった。


「お願い。しっかりして。……君、このままじゃ死ぬ」


静馬は、ぼんやりと笑った。


「そっか……俺、やっぱ……無茶したな」


「無茶どころじゃない。バカ」


ラウラの声が震えた。

それでも、彼女の目はしっかりと静馬を見つめていた。


「……ひとつだけ、方法があるの」


「方法?」


「君と私で契約を結ぶの。私の本体と、君の魂を直接繋ぐ。

 でもこれは……普通の人間には耐えられない。

 精神も、肉体も、存在そのものが溶け合うようなもの」


「……死ぬよりマシだろ?」


「……軽く言わないで」


ラウラは静かに顔を伏せ、そして再び見つめた。


「もしやるなら、君の命は繋がる。でも……君はもう、普通の人間には戻れないかもしれない。それに、私の力が暴走すれば、君ごと飲み込む可能性だってある。

 それでも――いいの?」


沈黙が落ちる。

だが、静馬の返事は意外なほど早かった。


「いいよ」


「……え?」


「それでいい。

 死ぬのはそんなに怖くないけど……お前のこと置いてはいけない」


ラウラの瞳が揺れた。


「本当に、後悔しない?」


「してるヒマないだろ」


静馬は、震える手をラウラのほうへ伸ばす。

ラウラも、彼の手を握り返した。


「……じゃあ、契約するわ。

 君と私の魂を、ひとつに繋ぐ。

 この世に二人でひとつの存在となる」


光が、爆ぜるように広がった。


二人の間に、名もなき“誓い”が刻まれる。


血よりも深く、言葉よりも強く。

それはもう、後戻りできない契約だった。

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